鬼の手
無意味の意味
鬼の手
高校生の頃です。
校舎の廊下で友人と駄弁ってたらその向こうの角になってるところから指先みたいなのが視える。
友人に言っても、「何も視えない」って。
気のせいかと思ってたら同様の状況で視えるんですよ。
それも段々と見える部位が伸びて来る。
話し相手には「どこ見てるんだ」って言われたりして鬱憤が溜まって。
神社仏閣でお守り買ったりしてたんですけど一向に収まらない。
それが手首の辺りまで出て来るようになった頃に、何となくですけど「あれ、鬼の手じゃね?」なんて思って。
長く尖った爪に蒼白い肌、血管も浮き出てる。
しかも自分だけに視えるんだとしたら自分に憑いてるんじゃないかと。
以来観察を続けて、やっぱり時の経過につれて視える部位が増えて来てる。
このまま変なのにやられて堪るかと思いました。
で、渡辺綱みたいに日本刀持って歩くわけにいかないので一計を案じました。
その後は探るように角の向こうから手を伸ばして来てる「何か」を待ち続けて。
或る日、「それ」が肘から先まで出してこっちに腕を曲げたのを見て「頃合いだな」って思ったんです。
武器は合法的なもの。
そしてその日が来ました。
肘の先をこっちに曲げて来て。
話してた友人を押し退けてその場所まで行って。
五寸釘を向けて金槌で思いっ切り打ち込みました。
その腕は驚いたように消え失せましたよ。
翌日には「校舎の壁に釘打ち込んだ」って教師から大目玉喰らいましたけど。
血痕ははっきり残ってました。
アレはもう視ませんよ。
*
私が彼に言わなかったことが一つある。
彼の背後の角から穴の開いた手と肘までの腕が見え隠れしていたことだ。
鬼の手 無意味の意味 @kokurikokuri
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