転生したらごま団子職人だった俺はパーティを追放されたので田舎でスローライフを満喫します~10³²個のごま団子を作るとブラックホールになるけど追放して大丈夫?~
第15話 “世界を救った団子職人”と、その子どもの話
第15話 “世界を救った団子職人”と、その子どもの話
タルメ村の外れ。
相変わらず素朴で小さな、ごま団子専門の工房が一軒。
看板には、昔と変わらない文字がぶらさがっている。
《ごま団子と、ちょっとだけ世界を良くするお菓子屋》
中では、白髪交じりの男が
相変わらずのんびりと団子を丸めていた。
「お父さん。
王都から“世界料理会議”への招待状、また来てたよ」
カウンターの向こうから、
黒髪の少年が封筒をひらひらさせる。
「断っといてくれ」
男――ユウト・カンザキは、あっさり言い捨てた。
「世界の味の管理者とか、たいそうな肩書きはいいんだよ。
俺は村のごま団子職人で十分」
「はぁ……またかよ。
あっちの偉い人たち、絶対キレてるぞ」
「キレさせとけ。団子あげときゃだいたい丸くなる」
「そんな世界であってくれればいいけどな」
黒髪の少年はため息をついた。
彼の名は――
カンザキ・トウマ。
年齢は十五。
ユウトとエリシアの一人息子。
ただ一つ、問題があった。
こいつ――
味オンチだった。
それも、筋金入りの。
「トウマ。さっきの新作団子、どうだった?」
「んー……丸かった」
「形の話してねぇよ」
「甘さは? 塩気は? 香りは?」
「……“団子の味がした”」
「お前ほんとに俺の息子か?」
「俺だって聞きたいよ、それは」
トウマは生まれつき、
通常人と“味の感じ方がズレている”。
苦い・甘い・辛い・しょっぱい・旨い
ちゃんと判別はできるが――
「どこがどう“美味しい”のか」
という評価が極端に苦手だった。
ユウトが世界中を救った第五形態だの世界核だのは、
今もちゃんと語り継がれている。
だがトウマ本人にとっては、ただ一言。
「ハードル高すぎるわ」
という感想しかない。
(親父が世界救った団子職人とか、マジ勘弁してほしい)
トウマは毎朝そう思いながら、
それでもちゃっかり工房を手伝っている。
――そんな、のどかな日々が
あと数日で終わることを、
このときの彼はまだ知らない。
◆1 朝のタルメ村と、“最悪の書状”
その日もタルメ村は平和だった。
畑から戻ってきた農夫が、
昼休みに腰痛団子を買いに来て、
「やっぱこれ食わねぇと午後働く気にならねぇ」
といつも通り言い、
子どもたちは駄菓子代わりに
ミニサイズごま団子を頬張っていた。
工房の奥では、エリシアが
湯気のたつ釜をのぞきながら微笑んでいる。
「トウマ、火加減見ててね。
お父さんまた味調整で集中モードに入るから」
「了解。
……って言っても俺、味わかんないんだけどな」
「大丈夫よ。
トウマは“焦げそうな匂い”だけ妙に敏感だから」
「それ褒め言葉?」
「褒めてる」
そんなやり取りの最中だった。
工房の戸が、荒々しく開く。
「ユウト! 緊急だ!!」
飛び込んできたのは、
王立魔導料理学院の紋章をつけた使者だった。
「どうしたの?」
エリシアが振り向く。
「世界核管理局からの【最優先通達】だ!
“創世の調理師”ユウト・カンザキ殿、
およびその血族に対し、至急の召集命令!」
「血族って嫌な単語出てきたぞ」
トウマは顔をしかめた。
ユウトは団子を丸める手を止め、
うっすら嫌そうな顔になった。
「……読む前から帰したい」
「無理だよお父さん。とりあえず聞こうよ」
封を切られた書状から、
淡い光が立ち上る。
そこに現れたのは――
かつてユウトが海上神厨で対話した“世界核の声”だった。
〈呼びかけ:創世の調理師ユウト・カンザキ〉
〈および、その後継者候補〉
「……来たか」
ユウトが眉間を押さえる。
「世界核が“直電”してくるの久しぶりだな」
「直電って言うな世界相手に」
〈報告:
“第二世代”を名乗り、
新たな世界改変計画を進行中〉
「二世代目……」
トウマは嫌な予感しかしなかった。
〈条件:
初代創世の調理師ユウト・カンザキは
“安定のため地上で静観する立場”が望ましいと判断〉
〈ゆえに――
“次世代の器”を世界厨房会議に派遣すること〉
光が、くるりとトウマのほうへ向く。
〈候補者:カンザキ・トウマ〉
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
工房にトウマの叫びが響いた。
「ちょ、ちょっと待て世界核!!
“次世代の器”って絶対俺だろ今の流れ!!」
〈はい〉
「素直に認めんな!!」
◆2 「味オンチに世界任せるな」と本人が全力否定する
「いやいやいや、待て。
俺、味オンチだぞ?
人類史上もっと適任の胃袋いるだろ!?」
トウマは必死に反論した。
「学院のトップシェフとか、香りの民の天才とか、
世界中に“まともな味覚”した奴はいくらでも――」
〈補足:
あなたの味覚は“異常”ではありません〉
〈ただし、“評価基準が異常に優しい”だけです〉
「優しい……?」
ユウトが苦笑した。
「トウマ。お前、
どんな料理食べても“だいたいうまい”って言うだろ」
「いや、だって実際うまいし」
「焦げてても“ちょっと香ばしい”で済ませるし、
塩辛くても“汗かくとちょうどいいかも”とか言う」
「そういうの、
“人の努力を尊重する味覚”って言うんだよ」
エリシアが優しく言う。
「ユウトさんは“どこがどう美味いか”を
細かく説明できる人。
トウマ、あなたは“誰かが真剣に作ったもの”は
よほどのことがない限り否定しない人」
〈その通りです〉
〈次世代の器に求められるのは、
“世界の味を一つに決める者”ではなく――〉
〈“多様な味を許容できる舌”です〉
(うわ……わりと刺さる言い方してくるな世界核……)
「でもよぉ……」
トウマはまだ抵抗する。
「親父は、ちゃんと
“世界のバランスを見ながら使う覚悟”持ってたんだろ?
俺そんな大層なもん持ってねぇよ」
ユウトは、少しだけ真面目な顔をした。
「トウマ。
俺が第五形態手に入れたときも、
そんなに立派な覚悟あったわけじゃないぞ」
「いや世界救ってたじゃん」
「“今日も誰かがうまいって言えたらいいな”
くらいのもんだ。
で、やってたら勝手に世界規模になってた」
「雑すぎない!? 俺の人生の基準おかしくなるだろ!」
「だからお前も、
難しく考えずに“目の前の一皿”からでいい」
「世界核に呼ばれてる状況で
そういうこと言うな親父……」
〈決定:第二部は、世代交代編とします〉
「メタいこと言うな世界核!!!」
◆3 “世界厨房会議(ワールド・キッチンズ・サミット)”への招集
書状の続きが読まれる。
〈第一要請:
カンザキ・トウマを
“世界厨房会議(ワールド・キッチンズ・サミット)”の
次世代代表として出席させること〉
〈場所:
“七大厨房連結型グランド・キッチン”〉
「七大厨房連結って、
親父が回ってきた神厨全部まとめてんじゃねーか……」
アッシェ(今や学院の若手講師)から
届いていた情報も添えられていた。
・ノクターナ“第二世代”は、
世界各地の新興料理組織を裏から支援している。
・スローガンは「世界の味の標準化」。
・各地で“同じ味しかしない食品”が増え始めている。
「味の標準化、ねぇ……」
ユウトが腕を組む。
「保存の次は、“均一化”か。
だるい流れになってきたな」
「ラーメンもご飯も団子も全部同じ味とか、
地獄だと思うんだけど……」
「世界から“外れ値の味”を消したい連中なんだろう」
トウマは自分の舌を思う。
(俺の“なんでもだいたい美味しい”って感覚、
ある意味、“標準からズレた味”を
残すために必要ってことか?)
「……で、お父さんは行かないんだよな」
「俺はタルメ村のごま団子職人だって言ったろ」
「世界核からの直電無視する村の団子職人ってなんだよ」
「親父も昔は飛び回ってたのよ?」
エリシアが笑う。
「でも今は、
世界じゃなくて“この村”を見ていたいんだって」
「……ずるいな」
「ずるい?」
「全部終わってから
村に落ち着いた世代が言うセリフだろそれ」
トウマは頭をガシガシ掻いた。
「わかったよ。
行きゃいいんだろ、世界厨房会議」
ユウトが少し意外そうに目を丸くした。
「抵抗、薄いな」
「薄くしてくれたのお前らだからな。
世界核も親父も、
最初から俺の逃げ道ふさいでんだよ」
〈補足:
逃げ道は常に存在します〉
〈ただ、選ばないだけです〉
「世界核、たまにいいこと言うな」
◆4 “次世代パーティ”の顔ぶれ
数日後。
トウマはタルメ村を発つことになった。
世界厨房会議への参加には、
最低限の護衛兼サポートメンバーが必要だ。
「待たせたな、トウマ!」
村の入口で待っていたのは、
学院からやって来た少女だった。
●金髪ポニーテール
●腰には小ぶりな鍋とお玉
●目つきはやたら元気
「学院付属“機動料理班”所属、
リリア=バルド!
初代潮鍋バルドの孫だ!」
「バルドの……!? そりゃまた濃い血筋が……」
「じいちゃんから聞いてるぞ!
“世界救ったごま団子職人の息子が
味オンチらしい”ってな!」
「情報伝達雑かつ余計な部分クリティカルに伝わってんな!?」
さらに一人、
落ち着いた雰囲気の少年がやって来た。
●黒髪短髪
●塩の紋様が入ったローブ
●穏やかな目つき
「塩術科・次期主席候補、
シオン=ミナヅキです。
カグラ様の、遠縁にあたります」
「ミナヅキ家まで……」
トウマは頭を抱えた。
「なんで周りエリート血筋ばっかなんだよ!」
「トウマもユウトの息子だろ?」
リリアが笑う。
「こっちは血筋に性能がついてきてないんだよ!」
「大丈夫よ」
シオンが穏やかに言う。
「あなたは“味を決めない舌”を持っている。
それは我々にはない資質です」
「フォローが高度すぎて逆に不安になるわ」
そこへ、ふわふわと
香りの風が巻き起こる。
「お待たせしました」
現れたのは、
軽やかな衣をまとった少女だった。
●柔らかい茶髪
●香草を編み込んだ髪飾り
●風の香りをまとっている
「フレーバリア族現当主の末妹、
フウラ=フレーバリアと申します。
ルフ様に、“次世代の風”として送り出されました」
「高原の香りの民まで来たのか……
メンツ濃すぎない?」
「ユウトさん世代が世界中に顔出してますからね」
エリシアが苦笑する。
「その“ツケ”が今、あなたに回ってきたわけです」
「やめてよ、親のツケって言い方やめてよ」
こうして、
次世代ごま団子(気味)パーティが結成された。
・味オンチだが人の努力を否定しない舌を持つ団子二世
・海の血を引く機動鍋少女
・塩術の次期エース
・香りの風を読む民の少女
そして背後には、
静かに見守る初代ごま団子職人とその仲間たち。
(世代交代とか言うけど――
とんでもないバトン渡されてないか俺)
そうぼやきながらも、
トウマは少しだけ胸が高鳴っていた。
◆5 世界厨房会議へ――
村の外れ。
かつてユウトが旅立った道と、
同じ場所に立つ。
ユウトがトウマの肩に手を置いた。
「トウマ」
「なんだよ」
「“世界を救ってこい”とは言わない」
「……」
「ただ、“うまいって笑う顔を、ひとつでも増やしてこい”」
「……それ、
親父が昔どっかで言われたやつだろ?」
「よく覚えてるな」
「子どもの頃、耳タコになるくらい聞かされたからな」
トウマは小さく笑った。
「じゃあ俺は――
“適当に美味くて、ほどほどに笑える世界”くらい
目指してみるわ」
「上出来だ」
エリシアが手を振る。
「元気でね、トウマ。
ちゃんと戻ってきて、工房継いでよ?」
「そこは帰ってきてから考えさせてくれ!」
リリアが鍋を担ぎ上げる。
「よし! 世界厨房会議に殴り込みだ!!」
「できれば殴り込みじゃなくて平和な参加にしたい……」
シオンが苦笑する。
「風向きは良好です」
フウラが風を読む。
「“新しい匂い”がしています。
世界が、少し変わろうとしている」
(親父の時代は“世界を救う旅”だった。
じゃあ、俺たちの時代は――)
トウマは、
自分の舌の“おかしさ”を少しだけ受け入れながら思った。
(“世界の味を、縛らせない旅”でもいいかもしれない)
ごま団子職人二世の、
ちょっとやる気なさそうで、
でも意外と芯はぶれない旅が――
ここから始まった。
転生したらごま団子職人だった俺はパーティを追放されたので田舎でスローライフを満喫します~10³²個のごま団子を作るとブラックホールになるけど追放して大丈夫?~ @saiun3
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