第30話 カウセリングBBA


「大丈夫ですか。領主様。お辛そうですが。何かあるのであれば私に何なりと申して下さい」


「お前に言ったところで何になる?」


「気持ちが楽になったり、頭の中の整理になったりします」


そんなことがどれほどの効力があるかわからなかったがこれ以上恩を返したいと言って付き纏われても困るのでとりあえず申し出を受けることにした。


「ふぅ。周りの者から平民を許せと言われておる。だがどうしても息子にされた仕打ちを思い出すと許せん」


「セレブ様のことは当時我々によくして頂いたこともあり、よく覚えています。大切にご子息にあのようなご不幸があれば許せないのは無理はありません。当時、村長と居合わせたゲース様とカース様からご領主様のお怒りの程は伝えられ、セレブ様の葬儀には顔を出さないようにいい含められたことは今でも鮮明に覚えています」


ゲースとカースの二人へまた疑義がもたげる。

息子の盟友であり、家同士としての友好があるとはいえ、取り乱した姿を見せた覚えはない。

人を避けをするほど怒っているなどわかるはずもないし、貴族の葬儀は死んだ者への感謝を示す場所だ。

そこに来ないということは感謝などしていないと言外に言っていると言っても過言ではない。

あの二人がそれがわからないはずはないのだ。

しかも息子が死に、ボンボン領に滞在する理由もなければ許可をした覚えはない。

勝手にあの二人は滞在していたことになる。

息子とその友人たちの絆に翳りが生じてきたような気がしてきた。

これ以上息子の誇りが汚されるのか。

そう思うとこれ以上考えたくなくなったゴージャスは老婆との会話に意識を逸らすことにした。


「怒りが正当だというのならば儂はなぜ責められている。なぜ息子の築き上げたものを貶していると責め立てらねばならん」


「セレブ様の築き上げたものをあなた様が貶している……」


胸の内を吐き出すと俯いて老婆はそう言った。

身に覚えがあるのだろうとゴージャスは感じた。

10年間以上苦しめて、セレブが築き上げた貴族と平民の友好を台無しにしているのだ。

身に覚えがないはずはない。


「お主もそう思うか」


「……否定はできません。だけれどもご領主様といえど人間。感情を押し殺すことなどできません」


「儂がしたことはなるべくしてなったということか。儂が許すことができんことはしょうがないし、どうあっても平民とは手を取れんと。現状をそのままにできんわけだが儂はどうすればいいのだ?」


無理難題を言っているのはわかっているがそう尋ねると老婆は首を傾け、考え始めた。

まあ何も出てこんだろうとゴージャスが侮っていると老婆が言葉を紡いた。


「託してはどうでしょうか?」


「託す?」


「自分ができないのならば信頼できる別の誰かにやってもらうしかないと思います」


「誰かか……」


誰かと言われて、この間平民のために戦った孫──マウントの姿が思い出された。


「そうは言ってもこの街のために魔人を討伐して下さった領主様なら自らの力でできると私は信じていますが。セレブ様も口々に言っておりましたよ。父上ほど弱者のために尽力をする人間はいないと。平民のために学園で無償で授業を受けさせていると聞いていますよ」


老婆の続く言葉を聞いて全てを悟った。

一瞬出てきたマウントの姿が立ち消え、醜い老人の姿が見えた。

セレブ、ゴージャスが平民のために動いたことは全て自分から始まったのだ。

平民のためではなく、ただ思いついた教育を試す実験台が必要なのでそうしただけにすぎなかったが、その軽はずみな行動が想像もしていない形で子、孫に伝播してしまっていた。


「儂は魔人は討伐しておらん。孫がやった」


「そ、そうなのですか。それはとんだご無礼を」


「構わん。それよりお主は自分の思いがけない行動を子供が受け継いでいた場合どうする?」


「? 認めて肯定してあげるべきだと思います。子供が良かれと思ってしていることなんですから思いを汲んで受け止めてあげるべきだと思います」


「認めるべきか」


老婆は突飛な質問に訝しみながらも答えるとゴージャスの中ですることは決まった。

自分のやったことの責任は自分が取らなければならない。

自分から端を発して子の中で生まれた思いが孫の中で今巡っている。

自分の思いに関わらず認めるべきなのだろう。

否定されても思いは止められないというのは自分が一番わかっているのだから。

平民に寄り添うわけではないが否定はしないことにした。

メイドリアンから託された羊皮紙を開いた。


「こ、これは」


そこにはセレブの筆跡でゲースとカースがセレブを害そうとしていると書かれていた。

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