第26話 こんなもん捨ててやるよ!


「その声は旦那様ですか?」


弱々しい声で女性がゴージャスに尋ねる。


「な、なぜこんなことになっておる……」


自身が原因の一端を握っていると内心では思っているのか、ゴージャスが嘆くような声で呟くと店主が答えた。


「半年前から体調が悪くなって今は歩くこともままありません。薬師にも見せましたがわからないの一点張りで。譫言で旦那様に合わなければとずっと言っているんです。どうか話だけでも聞いてやってください」


病状を説明されるとゴージャスは目を背け、その姿を冷えた目で睨め付け始めた。


「教皇領に留学されて白魔法を習得しているのでしょう。中でも乱魔症の治療は100例以上したことがあると学園の記録に残っていますよ。助けて上げたらどうです?」


「ふざけるな! どうして息子の仇かもしれん女を助けねばならん! 息子を害して儂の家を台無しにしたかもしれん悪魔だぞ!」


ゴージャスが拒絶するとミユキはは大きなため息をついた。

助ける手段があると言うのに何故拒絶するのか。

流石にこれは酷いとユーデリカが思うと病床のメイドリアンが再び口を開けた。


「旦那様、私のことはいいんです。これだけは受け取っていただけませんか。……クックマン机の引き出しから書類を取ってください」


「わ、わかった」


消え入りそうな声でメイドリアンが言うと店主が物々しい雰囲気の中机から一枚の羊皮紙を取り出してゴージャスの前に差し出した。


「やめろ!」


「いい加減にしてください!」


ゴージャスが拒絶すると思わずユーデリカは声を張り上げてしまった。

ゴージャスのここに至っての態度はあまりにも酷かった。

あんな胡散臭い貴族の言うことはホイホイと信じると言うのに死に瀕して懇願している平民の言うことは無碍にする。

しかも死の運命から助けられる手立てがあるというのにだ。

死に追いやり、思いも踏み躙るようなものだ。

平民のことが憎いといえどあまりにも度が過ぎている。


「あなたが今やっていることはあなたの息子を殺すことより酷いことです」


「き、貴様! 何を言うか!」


「私には難癖をつけて人を死に追いやって、思いを踏み躙って満足しているようにしか見えません」


「お前に何がわかる! セレブは子供の顔も見れずに死んだんだぞ! マウントが他の家族を見てじいじだけでいいと言った時儂は悔しくてたまらんかった! 殺されたばかりにこんな老耄より実の親が孫の中では存在を軽んじられるのだ! こんな不幸があってたまるか!」


「どうしてそんなに子供のことは悲しめるのにこの人にはできないんです。この人も誰かの子供なんですよ!」


「グ! そんなことはわかっておる! わかっているが割り切れんものがある! 寄越せ!」


ゴージャスは乱暴に羊皮紙を奪うと全員に背を向けた。


「こんなもの捨ててやるわ!」


「旦那様お辞めください。それはセレブ様の──ゲホ……。 カハ……」


引き留めようとしたメイドリアンの言葉も無視してゴージャスはその場から去った。


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