1週間 ショートストーリーチャレンジ

明日猫

お題:共依存 (ギャップ)

私は人生を変えたあの人を忘れはしないだろう。


愛くるしい熊や柔い毛にくるまれた狐やら、一緒にゲーセンで取ったり店であーだこーだ言いながら買ったり、はたまた誕生日にプレゼントされたり、思い出してみれば沢山の思い出があふれ出す小さいぬいぐるみをスクールバッグにぶら下げながら、カラオケ終わりの微妙に疲れた体で友達と笑い合いながら歩いていた。まだ日付は変わっていないが、それでもキャッチが出てくる暗いには遅い時間になってしまっていた。雨も降り始めていて、もうそろそろ本格的に降ってきそうだ。

『明日学校ダルくね~?』『さぼろーぜ~』

そんな言葉に「いいね~、どーせ適当にびょーきっていっとけばいいしょ~」と言葉を返す。そして、学校内の噂話や、ここら辺に出来た新しい店の話、バ先の先輩の愚痴などを言い合って笑い合う。笑い声が夜空に疲労感を溶け込ませていった。

ドン

私の体に何かがぶつかる

「ってえなぁ、おい!」

とっさに出た声はぶつかった場所を見たときに途切れ、自分の中から血の気を引かせる。

鈍く光る銀色、黒いフード、私より少し高い背丈、そして、やけに細い腕が私の体に伸びてきて捕らえる。

「動くなよ、こいつを殺せるんだからな。お前らの目の前で首を一発だぞ……」

体が硬直して動けない。逃げだそうと考えることすら出来ない。ただ、この包丁に刺されないためにはどうするかとか考え出しても、元々考えがなかったかのように真っ白に塗りつぶされる。これは多分、友達も一緒だったんだろう。ナイフを持った誰かの声が私達に届いた後、世界から音が消えた。そして、時間が酷く緩慢に動いていった。

「お、おい!失せろ!ぶっ殺されたくなかったら早く失せやがれ」

包丁を友達に向け威嚇し始めた。街灯に照らされ銀色が揺れる。この時にはもう何も考えられなくなっており、『ああ、あの銀色は綺麗だなぁ』としか思えなかった。彼女達は威嚇に屈し、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。また、私の方に銀色が滑る。頬を伝う熱い何かと、どっと来る脱力に屈し、膝が折れる。この時に包丁が刺さらなかったのが幸いだったと、未来の私は語るだろう。

「お、おい!なにすわりこ……」

唐突に怒声が途切れたと思ったら、背中が重くなり、そのまま滑るようにして、重量物が地へと落ちた。銀色が少し遠くへ行った。

「大丈夫か?」

聞いたことがある声が聞こえたところで、私は意識を手放した。


温い感覚が首元から下を包み込み、じとっとした汗と雨水で濡れた体が芯から温まっていく。そのまま意識を飛ばして寝続けようとするが、誰かの声によって、意識は覚醒していく。

「……い、……ってば、起きろって、この体勢きついんだから、早く起きてくれ」

耳元で囁かれる声と吐息で体が揺れ、後ろにある硬い何かに頭をぶつける。

「ってぇなぁ、おい。だが、起きてくれて助かった。」

耳元で喋る声を鬱陶しく思いつつも目を開ける。するとそこは見たことのない定常で、お腹には手が這わせられていて、そして……、私は全裸で湯に浸かっていた。

「きゃぁああああ!」

あらん限りの声量で叫ぶ。そりゃそうだ。意識を失った後、得体の知れない誰かに裸を見られたどころか、風呂にまで入れられ、手を這わせられているんだから。

「おま……、ちょ、暴れるなって溺れるから!」

背後の男は慌てて腕をバスタブに置き、溺れないように必死に体を保持し、私が暴れて出来た波に抗う。

「落ち着けって……、ほら、落ち着いてこっちを見て……」

そう言いながら私を男のほうに向かせる。そこにあった顔からは鼻血が溢れ、所々アザがある委員長のものだった。

「なんで委員長が……こんなことを?」

真面目でメガネ、そして、色んなことを仕切りたがるくせにあまり他人との会話には入ってこず、窓の方の席で日に揺られながら本を読んでいる委員長が目の前で、更にこんなことをしているのが信じられなかった。

「とりあえず……、前を隠してくれ。その、大きいから」

対面座位で向かい合っている私達の体を隠せるのは手ぐらいなもので、それさえもなくなってしまうとお互いに生まれたままの恰好を見ることになり、そして、恥部さえも丸見えだということを意味している。

「変態!」

きっと委員長をにらみつけ、手で乳首を隠す。


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