第14話 体育祭! 騎馬戦の騎手は誰だ?

 秋晴れの空の下、聖ミカエル学園は熱狂の渦にあった。

 体育祭。

 それは文武両道の乙女たちが、己のプライドを物理的にぶつけ合う血肉の宴である。

 そして、そのメインイベントである「騎馬戦」において、私はなぜか処刑台……もとい、騎手(ライダー)として担ぎ上げられようとしていた。

 体重的に不適では?


「いい? ふわり。君はただ座っていればいいの」


 鉄の生徒会長 西園寺玲華さいおんじれいか様が、軍師のような顔で告げる。

 私の周りには、ジャージ姿の天才たちが集結していた。


「座るって、皆様の肩の上にですよね!? 私、重いですよ!? 落ちたら皆様の頚椎けいついが!」

「問題ない。私の計算では、君の重心は極めて安定している」


 天才科学者 氷室雫ひむろしずく先輩が、私の太ももをペタペタと触りながら補足する。


「この太ももの摩擦係数と柔軟性は、我々の肩に吸盤のように密着する。……滑り落ちる物理的要因(ファクター)が見当たらない」

「それに、私が崩れさせるものか」


 前衛を務めるのは、武人 皇凛子すめらぎりんこ様だ。

 タンクトップから覗く二の腕は、汗で光り、美しく隆起している。

 彼女は私の前に屈み込み、自分の肩をポンと叩いた。


「さあ乗れ、ふわり。貴様の柔らかい尻……いや、身体を支えるのは、私の筋肉の責務だ」

「言い直しましたよね!?」


 私は逃げ場を失い、恐る恐る彼女たちの組んだ腕の上に足をかけた。

 

 よいしょ、むにゅ。


 私の身体が持ち上がる。

 前衛に凛子様。右翼に玲華様。左翼に雫先輩。

 最強の布陣だ。

 しかし、彼女たちの顔色は、重さに苦しんでいるわけではなかった。


「……んっ……」


 凛子様が、私の太ももを首筋で挟み込みながら、恍惚の吐息を漏らす。


「重い……。だが、不快ではない……。この重量感が、私の体幹(コア)を安定させる……」

「そうね。肩に食い込むこの感触……。疲労が吸い取られていくようだわ」

「生体クッション搭載型騎馬……。衝撃吸収率100%だ」


 三人は私を担いだまま、ブルブルと震えている。

 武者震いではない。私の感触に感動しているのだ。

 ガンギマリだ。

 私の太ももの裏側が、彼女たちの肩やうなじにねっとりと密着し、汗と体温が混じり合う。

 恥ずかしい。ブルマ越しとはいえ、こんなに無防備な格好で晒されるなんて。


「あ、あの! そろそろ始まりますよ!」

「行くぞ! 我らの『マシュマロ御輿みこし』を守り抜け!」


 号砲が鳴った。

 ドォォォォォン!!


 周囲から敵騎馬が殺到してくる。

 狙いは私だ。このドジっ子を落とせば、最強チームに勝てると思っているのだ。

 甘い。

 私を守る「馬」たちが、いかに狂暴かを知らないなんて。


「邪魔だァァァッ!!」


 凛子様が咆哮した。

 彼女は私を乗せているとは思えない速度で突進し、迫りくる敵騎馬をショルダータックル一発で吹き飛ばした。


「きゃあああ!」

「嘘でしょ、あの出力!?」


 敵が宙を舞う。

 その衝撃で、私もガクンと揺れた。


「ひゃうっ!」


 バランスを崩し、前衛の凛子様の頭に、私の胸がドスンと乗っかる形になる。

 

 むぎゅぅ。


 凛子様の頭部が、私の豊かな胸肉に完全に埋没した。


「――ッ!?」


 凛子様の動きが止まる。

 しまった、窒息させてしまう!


「ご、ごめんなさい凛子様! 今すぐ退きます!」

「……待て。動くな」


 凛子様の声は、地獄の底から響くような低音だったが、どこか楽しげだった。


「視界は遮断された。……だが、嗅覚と触覚が研ぎ澄まされる。……これは『明鏡止水』の境地だ」

「ただのパフパフです!」


 凛子様は私の胸に顔を埋めたまま、盲目の闘神と化した。


「気配でわかる。……右30度、敵影あり!」

「了解よ!」


 玲華様が指示に従い、社交界のダンスで鍛えた華麗なステップを踏んで敵をかわす。

 そのたびに、私の身体はゆっさゆっさと揺れ、三人の肩の上で餅のように変形を繰り返す。


「ああ、素晴らしいわふわり! その振動が、私たちの闘争本能を撫でてくれる!」

「揺れるたびに計算外の波動(ぷるん)が……。物理演算が追いつかない!」


 天才たちは完全にハイになっていた。

 私の「マシュマロボディ」という名の燃料を得て、彼女たちは無敵の重戦車と化したのだ。

 次々と敵のハチマキを奪い取り、私たちはフィールドを蹂躙していく。


「勝者、西園寺チーム!!」


 終わってみれば圧勝だった。

 私は地面に降ろされた瞬間、へなへなと座り込んだ。

 三人の天才たちもまた、肩で息をしながら、芝生の上に倒れ込む。


「はぁ、はぁ……。やったわね……」

「完全勝利だ……」


 凛子様は仰向けになり、大量の汗をかいていた。

 筋肉がパンパンに張っているのが見てわかる。私一人の体重を支えながら、あれだけの激闘を繰り広げたのだ。


「……さすがに、筋肉が悲鳴を上げているな」


 凛子様が苦笑いして、自分の肩を揉もうとするが、腕が上がらないらしい。

 私は申し訳なさで胸が痛くなった。


「あの……凛子様。私が、マッサージしましょうか?」

「貴様が?」

「はい。重い私を支えてくれたお礼に……。上手くできるかわかりませんが」


 私は凛子様の横に膝をつき、その硬く張った肩に手を伸ばした。

 私の手は、身体と同じくクリームパンのようにふっくらとしていて、指も太くて短い。

 こんな手で、武人の筋肉がほぐせるだろうか。


 そっ。

 恐る恐る、凛子様の肩に触れる。

 汗ばんだ肌は熱く、鉄板のように硬い。

 私は体重をかけて、ゆっくりと親指を沈めていった。


「……んぐっ……」


 凛子様が小さく呻く。

 痛かっただろうか?


「ご、ごめんなさい! 力加減が……」

「……いや。続けろ」


 凛子様は目を閉じ、吐息を漏らした。


「……不思議だ。貴様の指は……関節がないのか? スライムのように指が沈んできて……凝りの核(コア)を直接溶かしてくる……」


 私の指の腹は柔らかく、広い面積で圧力をかけることができる。

 それが、ピンポイントで突く指圧とは違い、筋肉全体を包み込むような揉み心地を生んでいるらしい。

 私は調子に乗って、両手で彼女の腕や背中を「もみもみ、ぷにぷに」と捏ね始めた。


「……あぁ……。そこ……」


 凛子様の身体から、急速に力が抜けていく。

 鉄の鎧が剥がれ落ち、ただの乙女の柔肌になっていく。


「やばい。……意識が飛ぶ。……戦場の疲れが、貴様の脂肪に吸い取られて……」

「脂肪じゃなくて、丹精込めたマッサージです!」


 その光景を見ていた玲華様と雫先輩、そして応援に来ていたカレン様とめる様が、ギロリと目を光らせた。


「……ふわり。私の足もパンパンなのだけれど?」

「私の腰椎も限界だ」

「私も筆を持ちすぎて手が痛いの!」

「めるもー。指疲れたー」

「あなたたち、参加してないでしょ!」


 五人の天才が、ゾンビのように私に這い寄ってくる。

 

「えっ、えっ? 全員ですか!?」

「「「「「全員よ(だ)!!」」」」」


 どうやら私は、新たな才能を開花させてしまったらしい。

 それは、「マシュマロ・ゴッドハンド」。

 触れるだけで相手を強制的にリラックスさせ、骨抜きにする禁断のマッサージ技術。

 

 体育祭の午後は、保健室のベッドの上で、五人の天才たちを次々に揉みしだく(揉まれる?)地獄のサロン業務へと変わってしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る