第5話 弟来たりて
――――翌日
「おーい、姉ちゃーん」
「サイー!」
今日は緊急出動もなく無事に弟を迎えに来られた。
「ふぅ……秘境からはるばる山と谷を越えて来たよ」
「……いや、お父さんとお母さんが普通に指定席用意してくれたって聞いたけど」
普通の電車旅、2時間ほどではなかろうか。
「郷土ジョークだよ郷土ジョーク!」
「ああ……そう言うことかぁ~~!よくぞ来たなあ弟よ~~!車で迎えに来たからさあ参ろうぞ!」
「出動車!?」
「んなわけあるかい!ミニバンよ!」
「荷物あったら持つよ」
「ありがとうございます、ソウキさん。ほらサイ、お世話になるんだから挨拶」
「姉ちゃんの弟のサイです。よろしくお願いします」
「うん、よろしくね」
ソウキさんがにこっと笑えばサイが顔を輝かせる。
「本物のルミナスブルーだぁっ!」
「こ……こら!こんなところで!騒ぎになるでしょ!」
騒ぎになる前に急いでミニバンに乗り込む。心なしか周囲がざわついて~~っ!
「何だ、ずいぶん騒がしいな」
「すみません、ヨウさん!ほらサイ、ルミナスグリーンのヨウさん!」
「姉ちゃんの弟のサイです!」
「おう、元気いいなぁ。よろしくな!」
そうして無事にルミナスのシェアハウスに帰還したのだった。
「荷物は俺の部屋においていいからね」
「はーい!ソウキ兄ちゃん!」
全く……早速懐いてるなぁ。
「キキの弟か」
「かわいいですねぇ」
「へぇ、さすがは小6。元気だね、キキちゃん」
ホムラさんたちもやって来たので荷物を置いた弟を紹介する。
「あとこれお土産!ひもかわうどん!」
「わぁっ!懐かしい!」
「ならさっそく今夜のお夕飯にしましょうか。おっきりこみでしたか……郷土料理ですよね」
「わぁっ、トキヤさんったら作れるんですか!?」
「男ピンク会で以前レシピをもらったことがありまして」
男ピンク会、ジンギスカンのレシピも知ってたしほんと何者……?
「わあい、夕飯楽しみ~~」
「その前に姉ちゃん、忘れてないよね。勝利の舞」
「は……っ」
むしろそれが本題である。
「じゃぁぼくはホムラと買い出しに行ってきますね」
「ああ、車借りてく。ヨウさん」
「あいよ」
ヨウさんから車のキーを受け取りホムラさんが出かける準備をする。
「ええーっ、ルミナスレッド行っちゃうの?ルミナスフレイム見たかったのにー!」
「こらサイったら」
せっかくのデートなのに……いやデートは私の妄想だけど!
「悪いな、サイくん。あれはもしもの時の取って置きだからさ。取って置きはここぞと言う時に使ってこそカッコいいもんだ」
そう言ってにこりと笑むホムラさんは……どこからどう見ても普通のヒーロー。ザ・レッドである。
「おおぉっ!本物のルミナスレッドかっけええぇっ!」
うう……うちの弟のためにありがとうございますぅ……。トキヤさんとのお買い物デート楽しんでえぇ……。
「さぁーて、弟よ。姉の渾身の勝利の舞を見せてしんぜよう!地下へ行くわよ!」
「地下!何かかっけええぇっ!秘密基地みたい!」
「ただのトレーニング場だってば」
たまにサンドバッグが切り刻まれるが、普通にトレーニングにも使っていますとも。
「それでは歌います」
音頭はもちろんスミレちゃん。
「曲名は『実は名湯がいっぱい』。今回はちゃんと調べてきた」
グッドサインを向けてくるスミレちゃん。
「よぉーし、踊るぞー!」
「ぼくもー!」
私の振り付けを真似してサイが踊る。うう……姉が適当に付けた振り付けを。
ヨウさんとソウキさんが手拍子してくれてノリノリで踊っていたら、ホムラさんが呼びに来て夕飯時になっていた。
「いっぱい踊ってたらお腹空いちゃった~~」
「姉ちゃんの食べっぷりは相変わらずなんだ」
「あったり前じゃないの」
リビングに戻れば早速いい匂いが!
「わぁ、美味しそう!」
「ふふっ。結構いい頃合いかと」
「完璧です!トキヤさん!」
早速みんなでお鍋を囲んでわいわいやるのはいつも通りである。
「いいなぁ、戦隊になるといっつもこんな賑やかなの?」
「うん?戦隊にもよるかなぁ。姉ちゃんがイエサポやってた頃の戦隊オールイエローはこんな感じだったみたい。たまにイエサポたちも招いてくれてみんなでわいわいだったなぁ」
まさにイエロー軍団。戦隊全員イエローな上にイエサポもイエロー軍団であった。
「楽しそうだなあ。俺の時はサポーターの子同士でファーストフードとかだったけど」
「そうだったんですね。ソウキさんのサポ時代の話って新鮮!」
「そう言えばあんまり話したことなかったね」
「じゃぁじゃぁさ、ホムラ兄ちゃんはどうだったの!?」
その瞬間、場の空気が凍り付く。一応ホムラさんの養成所時代や前所属戦隊の話はタブーなんだけど。
「忙しすぎてあんま覚えてないな。悪い」
妙に淡々としてはいるが冷静に返してくれたのはやはり子どもの前だから……だよね。
「でも今はこうしてみんなで食卓を囲えるから嬉しいね、ホムラ」
そしてトキヤさんがホムラさんにひもかわうどんを掬いあーんしている。
「……ん、うまいな」
安心しきったホムラさんの表情に一気に場の空気が溶ける。さすがはトキヤさん。一瞬でホムラさんを穏やかに!
「そうだ!ヨウさんはどうだったの!?」
そして阿吽の呼吸のようにソウキさんが話題を振る。
「俺か?昔すぎてなぁ。でもサポ先は戦隊アラフォー。当時はアラサーって名前だったが」
「じゃあさ、アラフィフにもなるの?」
サイの興味も移ったようだ。
「まぁ、そろそろアラフィフにしようかとか話してるみたいだなぁ」
その話にどっと笑いが起こる。でも……アラフィフまで現役貫く気満々なんだろうな。若人も負けてられないかも。
夕食後、サイはソウキさんと寝る準備に向かったようだ。リビングにはホムラさん。
「あの、ホムラさん!」
「ん?」
「さっき弟が……ごめんなさい」
「別にいいよ、もう何年も前のことだし、子どもだろ?色んなことに興味を持つのはいいことだよ」
「そのっ」
この人はいつだって優しい私のヒーローだから。そうあろうとしてくれるんだ。
「もしも辛いことがあったら言ってくださいね!私がライトニングナックル、キメますから!」
「それは戦闘用だろ?」
「なら勝利の舞踊ります!」
「……ぷっ」
ホムラさんが吹き出す。
「はははっ」
「ホムラさん?」
「そうだな……お前がそうやって俺のために頑張ってくれるだけで支えになってるよ」
「……っ」
「いつもありがとうな」
「わ、私の方こそ!」
ホムラさんには幸せでいて欲しいのだ。
「今日はもう寝るわ。子どもがいるのに酒飲むわけにもいかねえし、お前もそろそろ寝な」
「は、はい!」
それでも気を遣わせていることには代わりない。
「トキヤー、そろそろ寝るから来てくれ」
「はーい、いいですよー」
……ん?
「今夜は朝まで一緒だ」
「はいはい、ばぶちゃん。今夜は添い寝してあげますからね~~」
がっはぁっ!!まさかの添い寝!添い寝かよ!むしろもう付き合ってください結婚してください~~っ!
しかし上機嫌なばぶホムラさんを見送れば、今日は私もぐっすり寝られる気がするのだ。
――――翌朝、元気に起きてきたサイが無事に帰りの列車に乗るのを見送ったのだった。
因みに一晩トキヤさんに添い寝してもらったホムラさんは……添い寝にハマった。
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