第3話 大バズりとか聞いてないイエロー
――――休日の朝は優雅である。
「ちょっと寝過ぎちゃったかなぁ」
でもどうせみんな休日は遅めだよね。あ、でもソウキさんとトキヤさんはいつも通りだっけ。
その時、事務所が制作したルミナス戦隊オリジナル曲が流れる。
「はい、もしもしー」
『ちょっと姉ちゃん!』
「は!?サイ!?休日の朝っぱらからどうしたのよ」
弟の
『どうしたもこうしたもないよ!何なの勝利の舞って!』
「……そ、それはっ」
身内とは言え本場の県民に怒られる時が遂にキタァーっ!?
『姉ちゃんの事務所の公式チャンネルとかSNSとかで大バズりじゃん』
「ええっ!?いつの間に!?」
そりゃぁニュースでは流れただろうけど……事務所、いつの間にぃっ。因みに戦隊ルミナスは隊プロ所属である。
『そんで、友だちから姉ちゃんの弟なんだから教えてくれって』
いや、地元小6たちあれ踊る気か!?
『だから姉ちゃん、振り付け教えてよ。今度遊びに行くからさー』
「ああ、うん……イイヨ」
断れるはずがない。もう故郷に足向けて寝られないもの。
『やったー!じゃぁ明日いい!?姉ちゃんの休みの日なら母さんも反対しないよね!』
「ええ、明日?」
今日はイエロー同窓会だから明日は空いてるわよね。
「いいけど、出動入ったらお留守番だからね」
『分かってるよー。因みに泊まり!三連休だもん』
そういやそうだったぁーっ!
『姉ちゃんの部屋泊まっていい?』
「え、私の部屋!?」
いや、今は通販用に梱包した同人誌の山!これは弟に見せられない!
「さすがに姉弟とはいえ男女だし……その、ルミナスブルーのソウキさんの部屋とかどうかな?頼んでみるから」
ホムラさんは……たまに寝起きに絶叫するしもしもの時のためにトキヤさんはフリーにしておくべきだ。
ソウキさんに断られたらダメ元でヨウさんに……。
「マジで!?ルミナスブルーって超かっけーじゃん!ブルーなのにフレンドリーだし!」
「あはは……そうかも」
昔は熱血のレッド、クールなブルーとはよく言ったものだ。今もブルーと言えばクール一点張りと言う硬派もいるほどである。
『じゃぁ姉ちゃん、明日駅まで迎えに来てね!』
「分かった。着く時間後で教えてね」
『はーい』
取り敢えず……まずはソウキさんにお願いしに行かないと。
リビングに出れば、ちょうどランニングから帰ってきたと見られるソウキさんと遭遇する。
「おはよう、キキちゃん。休日なのに早いね」
「おはようございます、ソウキさん。今朝弟から電話がありまして」
「そう言えば弟くんがいるんだってね。今小学生?」
「はい、6年生です」
「6年生かぁ、年齢が離れてると結構かわいいって言うけど」
「まぁ……ちょっと生意気ざかりですけどかわいいっちゃかわいいですよ」
やっぱり弟だし。
「弟くん、北関東だったっけ」
「はい。それでその、明日来ることになっちゃって」
「明日?出動がなければオフだよね」
「はい。でも実はちょっとお願いがありまして」
事情を説明すれば。
「俺の部屋?うん、もちろんいいよ」
「わぁっ!ありがとうございます!」
さすがはソウキさん。話の分かる人で助かった!
「でもホムラには言っておいた方がいいかもね。今日は珍しく朝からトレーニングするって言ってたし、行こうか」
「そうですよね!」
何たってリーダーでシェアハウスの家主だし!しかしあのホムラさんが朝からトレーニングだなんて珍しい……。地下のトレーニングルームに向かう。防音扉を開いた途端、異常音がけたたましくこだまする。
「アアァ゛ァァーっ!何が同窓会じゃぁっ!気色悪い!回答が出席しかない糞食らえエエエエェッ!!!」
そう叫びながらサンドバッグを包丁で……切り刻んでいた。サンドバッグって切り刻むものだったっけ?
あとサンドバッグの中身って砂じゃなくて布っぽいやつなんだ……。
(※中の素材については色々あります)
「あー……うー……うがあぁぁあっ」
そうしてサンドバッグが粉々になった頃、ホムラさんが血走った目をこちらに向ける。
とてもじゃないが頼める雰囲気じゃねぇーっ!
「おや、おふたりもこちらへ?ちょうどホムラに温かい肉まんを持ってきたところなんですよ」
その時天使が舞い降りた。
「キキちゃんとソウキくんもどうですか?」
まさに肉まんの天使。そう言わずしてどうする。
ホムラさんなんてもはや完全にばぶちゃんだ。
トキヤさんから肉まんを受け取り、つまみ部分をちゅーちゅしてる。いやそこちゅーちゅするんですか!?それはトキヤさんの雄っぱいちゅーちゅするイメトレと思って良きですかぁっ!!?
「……あれ、後で片すから」
ホムラさんがボソリと告げる。
「いや、おっさんがやっておくからな」
こちらに様子を見に来たヨウさんが声をかけてくれる。
「ヨウさん……ちゅーちゅ」
そう言ってトキヤさんから肉まんを受け取り差し出す。
「サンキュ。食ったらやっとくから」
そう言ってもぐもぐと肉まんを口に放り込み後片付けを始める。
私とソウキさんもお手伝いしサンドバッグの残骸を片付けたところで改めてルミナスの朝食である。
「おはよう。みんな地下で何やってたの?」
「あ、おはようスミレちゃん。ちょっとね~~」
蒸し返したらせっかくのホムラさんの肉まんちゅーちゅが水の泡。因みに今一つ目を吸うように完食し二つ目をちゅーちゅしている。
「あ、それでみんなにお願いがあるんだけど!」
どうせ言うことになるんだし、トキヤさんがいてくれた方が安心だよね。
みんなに弟が来ることを話す。
「うん……まぁソウキもいいならいいぞ。俺も……頑張る……」
何を……だなんて決まってる。さすがに弟にあれは見せられない。
「その、ホムラさん!これ過去作ですけど!」
差し出したのは『バブみ全開!レッド×ピンク』の第2巻である。
肉まんをまるごと口にはむはむしながらホムラさんがページを捲る。
「たくさんよしよしするからね」
「ん」
トキヤさんが空気を読んでホムラさんの頭をよしよししてくれる。後で……第1巻も差し入れよう。
「それにしてもその、同窓会だっけ。行きたくないならいいんじゃない?」
ホムラさんが肉まん完食後とあるハガキを見ながら無の境地になっていたためソウキさんが切り出す。
「ブルーなんてそもそも同窓会なんてないし」
「そうなんですか!?」
それにも驚きだ。
「その……ブルーはクール硬派や個人主義派が多くて一体感ないし」
まあそう言うイメージだよね。ルミサポのブルーちゃんはソウキさんに似てフレンドリーなクールビューティーなんだけど。いや、だからこそルミサポが合っているとも言える。
「でもこれ……出席しか選択肢がない」
ホムラさんが見せてきたのは『出席・出席』しか選択肢のないハガキ。レッド界隈……ブラックすぎない!?レッドなのに!いやしかしホムラさんがこうなった一端もこのレッド界隈が関わってるし。
「あーと……別の用事とかでごまかせねえかな?先輩レッドからの誘いとかさ」
とヨウさん。
「でも叔父さん、うちのかわいいばぶレッドを虐めるレッドはあかんやで」
とスミレちゃん。スミレちゃん、東北出身じゃなかったっけ。
「スミレは……かわいいから許す」
そういやホムラさん、関西人だったな。その前にばぶレッドって言われるのはいいのかよ。
「大丈夫大丈夫!おいちゃんの同期だし……ほらお前らも知ってるだろ?戦隊オジサンのレッド。多分酒に誘われれば行くし」
伝説のオジサンレッド軽いな!?
「おっさんになるとさぁ……多少のことは気にしなくなるから」
たとえホムラさんが発狂してもヨウさんみたいに受け流してくれるってことか。
「お……早速オッケー来たぞ!」
早っ!オジサンレッド反応早っ!
「ハガキにもそう書いとけって」
「返信は……メッセージアプリだから。開始までにメッセしなきゃ」
ハガキを見れば日付……今日じゃん。あらかじめハガキで圧かけて当日直前までにメッセージアプリで!?二重圧じゃないのレッドが完全にブラックぅっ!
ルミサポのレッドちゃんは大丈夫かなぁ?今度スミレちゃんも交えて女子会しなきゃ。
「あー……おっさん操作がよく分かんないんだけど、オジサンレッドからの返信そっちにつけられねえか?」
どうやら事情を知ったオジサンレッドが一筆書いてくれたらしい。
「任して」
早速姪っ子のスミレちゃんがヨウさんとホムラさんの端末を操作する。
「これでオッケー」
「因みにオジサンレッドは何て?」
見ればそこには。
『ルミナスレッドはおいちゃんと2人っきりで差し飲みすっから欠席ってことにしてくれい!すまんな、若人たちよ!オジサンレッド』
オジサンレッドかっけええぇっ!
「……うん、オジサンレッドと……飲んでみたい」
あぁぁぁっ!ホムラさんもめっちゃいい表情ううぅっ!
良かった。本当に良かった。私も安心してイエロー同窓会に行ける。しっかしレッドのブラック同窓会。実のところどうなのかなぁ。同期たちに聞いてみよう。
――――飲み処『俺はイエロー』。
まさにイエロー同窓会にうってつけ。大盛りも頼める元イエロー先輩経営の飲み屋だ。
「お久~~」
「お久ー、キキちゃん」
「早速勝利の舞やってたとこよー」
「ギャーッ!?」
お座敷席だからって早速何やってんだコイツらぁっ!
「ちょ……やめてよ!」
「ほらほら本場の舞見せたって」
卓には既に大盛りの料理に炭酸……あと酒。
養成所の入所年齢は22歳までなので二十歳過ぎた勢が……。
「既に酔っ払ってんじゃないのっ!」
「あ、二十歳未満は酒厳禁だぞー」
酔っ払ってない二十歳以上もいるけども。
「ほらやったれやったれ」
「んもう仕方ないわね!」
どうせ明日弟に見せるし!デモンストレーションよ!
「イエス!ストレンス!ヴィクトリー!」
ポーズを決めたところであり得ないひとと目が合った。
「あー……確かお前な、イエロー初の女性っての。てか勝利の舞って何?」
手には郷土名物焼きまんじゅう。茶髪に金色の瞳、細身ながらもパワフルアクロバットなイエローで知られている。
「お前も知ってるだろ。レジェンドイエローの
告げたのは私のインターシップ先だったオールイエローことオル黄のイエロー・キハダ先輩。ほんと……イエロー同窓会ってしれっと先輩も混ざりに来るの何でなのよぉっ!?
私は生粋の県民を前に土下座した。
「ほんっとすんませんでしたあぁぁぁぁっ!!」
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