恋心を売買する世界でヒロインが俺の"恋心"を買った

HALL

第1話知らない女子が変なことを言ってきた

 夕陽が差し込む教室。


 四月の柔らかい光が机の端を染め、風で揺れるカーテンの影がゆらりと揺れる。

 

 俺、神谷優斗は、窓際の席に腰を下ろし、ぼんやりと外を眺めていた。桜の花びらが校庭の土に落ち、風に舞っては淡いオレンジ色の光の中で散る。


 (……なんだろう、胸騒ぎがする)

 

 理由はわからない。

 新学期の忙しさやクラスの雰囲気なら、まだ馴染めないせいかもしれない。

 

 ……でもそれだけじゃない。

 心の奥で、何かが欠けているような気がする。

 ……忘れたはずの何か、大切な何かを置き去りにしてしまったような――そんな感覚がする。


 「神谷ー、帰らないのか?」

 

 横の席から声がかかる。隣に座る友人が、笑顔で下校の支度をしている。優斗は小さく手を振って返事をした。


 「うん、もう少し残ってる」

 

 でも、胸のざわつきは消えない。まるで胸の奥に小さな鳥が棲んでいて、落ち着かず羽ばたき続けているかのようだった。

 

 そのとき、教室のドアが静かに開いた。

 振り返ると、そこに立っていたのは見知らぬ女子生徒。

 

 黒い長髪。

 無表情。

 長い睫毛に縁取られた瞳は、冷たく澄んでいて、何かを強く主張しているようだった。


 ……誰だ?

 

 名前も、顔も、話したこともない。同学年であること以外、何も知らない少女が、迷いなくこちらに向かって歩いてくる。


 「……?」

 

 クラスのざわめきが一瞬止まる。数名の友人が目を丸くして何事かとこちらを見つめている。

 だが少女は誰にも目もくれず、一直線に優斗の席まで歩いた。

 

 そして、止まり、静かに告げた。


 「――あなたは、私が好きだったよ」

 

 教室の空気が一瞬で凍る。

 

 「……は?」

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