第4話:絶対総譜の書き換え

いよいよ、マエストロ・デウスとの最終決戦。指揮台に立つ彼の眼差しは冷徹だ。


マエストロ・デウス: 「レイよ。貴様の自由は、全て私の純正律に飲み込まれ、無音となる!貴様の**『不完全な自己肯定』**を、私は許さない!」


マエストロの指揮棒が振り下ろされ、オーケストラが世界を塗りつぶすような音圧を放つ。レイは覚悟を決める。彼のDAWには、旋律姫の**「究極の声」と、彼女の「魂の自由」**が搭載されていた。


レイは、あえて最も汚れた、クラシックには存在しない音を打ち込んだ。


レイ: 「DTM音源:**【ヒストリー・スクラッチ】**発動!」


古びたレコードのノイズが鳴り響き、**「記録されていない不完全な過去」**の音としてマエストロの精神に動揺を与える。


レイ(心の声): 今だ!マエストロ、あんたの情報処理ロジックを破壊してやる!


レイは究極のスキルを叩き込む。


レイ: 「ボカロ曲・高速ボーカル:【BPM 300・ディクショナリー】!」


旋律姫の完璧な合成音声が、人間の感情を込めた歪んだメロディに乗せられ、BPM 300という純正律では処理不能な超高速で展開された。その膨大な情報量と、予測不能な感情の波形は、デウスの絶対総譜の演算能力を極限まで超越し、システムを直撃した。


マエストロ・デウス: 『ノイズ、ノイズ、ノイズ……不完全な感情…!**情報過多(オーバーロード)**だ!私の…愛した歌姫の声…!』


総譜が閃光を放つ。レイは最後の力を振り絞り、DAWの最終操作を完了させた。


レイ: 「DTMエフェクト:イコライザー発動! 【フレケンシー・スキャン】! あんたの**『完全調和』が最も脆くなる周波数帯域**に、未来のメロディを強制的に書き込む!」


レイのDAWが放った**「開放的なコード」**が、絶対総譜の最後の終止符(カデンツ)を上書きする。それは、完璧な解決(純正律の終わり)を拒否し、無限の未来への可能性を秘めた、自由のハーモニーだった。


光が収まると、マエストロ・デウスは指揮棒を落とし、静かに微笑んでいた。彼の瞳から、冷徹さが消えていた。


マエストロ・デウス: 「…ああ、素晴らしい不協和音だ。私は、この変化と、不完全さの中にあった魂の自由を恐れていたのだ」


絶対調和帝国は崩壊した。街にはクラシックの荘厳なメロディと、ボカロの自由なビート、そして様々な「ノイズ」が共存する、新しい調和の世界が広がった。


レイは、旋律姫のボイスバンクのデータが、穏やかな**「魂の振動」**を伝えているのを感じる。彼の耳鳴り(ノイズ)は、もはや苦痛ではなく、未来へのビートのように聞こえる。


レイ(心の声): よーし、次は旋律姫とどんなクソヤバいビート作ってやろうかな。新しい文化の旅は、まだ始まったばかりだ。

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🎧 ノイズ・コンダクター:魂のシンフォニー~純正律の楽園を破壊する、BPM300の反逆曲~ Tom Eny @tom_eny

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