第57話 偽ギャバンの本名

 二百五:整備工場の秘密基地 🛠️

​ 本郷 猛とギャバンコスプレの青年は、辛うじてエンジン停止したHONDAセダンを工場内に押し込んだ。廃業寸前とはいえ、このガレージは外部から遮断されており、追跡者や、上空からの監視を避けるには最適だった。

​ 本郷は、腹部のポリープの再刺激を避けるため、慎重に工具箱の蓋に腰を下ろした。彼は、腹部に貼ったセンサーから端末に送られるデータを確認し、すぐに青年へ指示を出した。

​「まず、このHONDA車のエンジンオイルを完全に抜き取り、バクテリアンの検体を確保しろ。そして、君のバイクもだ。この**『社会の病』**をこれ以上広げさせてはならない」

​ 青年は、メッキ加工のヘルメットを脱いだ。汗で濡れた顔に、真剣な眼差しが輝いていた。彼は、本郷の冷静な指示に、初めて確かな**『科学者』**としての信頼を置いた。

 二百六:ギャバンコスプレ、本名:星野海斗 🌟

​ 青年は、油まみれになった作業服の袖で汗を拭い、本郷に向かって深く頭を下げた。

​「すまない、藤岡さん。自己紹介が遅れました。俺は、**星野海斗ほしのかいと**といいます。このガレージは、父の代からのもので、今は俺一人で細々とやっています」

​「星野君か」本郷は、初めて彼の本名で呼びかけた。「君のその**『英雄の姿』には助けられた。感謝する。私の本名は本郷 猛**だ。藤岡は、追跡を避けるための偽名だ」

​ 海斗は、本郷の真の名を聞いても動揺しなかった。彼は、本郷の技術が真実であれば、出自など問題ではないと知っていた。

​「本郷さん。俺の妹は、結社が五霞に撒いた『病』、ブラックファイブの変異細胞に感染し、今も病院で苦しんでいます。俺が**『ギャバン』**のコスプレをしているのは、**病に打ち勝つ、諦めない『英雄』**の力にあやかりたかったからです。仮面ライダーなんて本当はいないの知ってるけど、あんたなら信用出来そうだ」

​ 彼の目には、妹を救いたいという切実な願いが宿っていた。

 二百七:新たな移動手段と自己治療の開始 🔬

​ 本郷は、海斗の熱意を受け止め、再びナノマシン制御端末に向き合った。

​「わかった、星野君。君の妹さんは、私が必ず救う。だが、その前に、私自身が**『健康な体』を取り戻す必要がある。このポリープは、私の『戦闘』と『治療』**を妨害する、最も小さな、そして最も危険な敵だ」

​ 海斗は、本郷の傍らに寄り添った。

​「俺に何ができる?」

​「まず、このガレージにある、汚染されていないHONDA以外の車を探せ。そして、私がポリープ除去の**『自己手術』を行う間、君は周囲の『変異エネルギー』の波長を監視し、敵の接近を知らせてくれ。君の『英雄の目』**が必要だ」

​ 海斗は、すぐにガレージの奥へと向かい、埃をかぶった旧型のアメ車を見つけた。それはHONDAとは無縁の、重厚で頑丈な車だった。

​ 本郷は、海斗が持ち場についたことを確認すると、腹部にナノマシン注入器を装着した。

​「ポリープ除去プログラム、最終調整開始。成功確率は、65%……賭けだ」

​ 彼の顔は、再び**『科学者』と『患者』の二つの表情を浮かべた。彼は、自らにナノマシンを注入し、「自分の内臓」**を戦場とする、孤独な戦いを開始した。

​ 星野海斗の援護の下、本郷 猛は無事にポリープの自己治療を完了できるでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る