第23話 ヒートマン登場!

 八十一:小山駅での震え

​ 小田林での惨劇から数時間後。本郷 猛は、茨城県境を越え、栃木県の小山駅の待合室に身を潜めていた。彼は、生身の限界と英雄願望の板挟みで、精神的に極度の疲労状態にあった。

​ 彼は、自分が逃げたという罪悪感で、体が小さく震えていた。その震えは、まるで低体温のように、彼の体を冷やしていった。

​「俺は、ライダーにはなれない。冷静な判断を下したつもりだったが、結局は……臆病風に吹かれただけだ」

​ 本郷は、熱いコーヒーを飲みながら、ライダー・スコープで広域の**「異常波動」を監視していた。 彼は、バルタン星人のような「人間の悪意」には無力だが、「変異体」**相手なら、まだ戦えると信じたかった。

 八十二:体温計のヒーロー

​ その時、小山駅の待合室に、異様な熱気が満ち始めた。周囲の客が、突然の暑さに顔をしかめ、体を揺らす本郷のそばから離れていく。

​ 熱源の中心にいたのは、ベンチで静かに座っていた、地味なスーツ姿の会社員、**日野 ひのあつし**だった。

​ 日野は、風邪をひいていた。彼は、体の怠さと微熱に耐えながら、取引先との待ち合わせのために駅に来ていたのだ。彼は、ポケットから体温計を取り出し、脇に挟んだ。

​ ピピピ、ピピピ。

​ 体温計が表示したのは、37.0℃。微熱の領域だ。

​ 日野が体温計を確認した瞬間、彼の体から白い蒸気が上がり始めた。彼の変異システムが、「発熱」という「病気の苦痛」をトリガーに、**「力の象徴」**へと変貌し始めたのだ。

​「うぅ……暑い……体が、燃えるようだ……」

 八十三:ヒートマンの誕生

​ 蒸気が収束すると、そこに立っていたのは、全身を赤とオレンジの耐熱スーツで包まれた、新たなヒーローだった。スーツには、額に体温計の目盛りを模したようなデザインが施されている。

​ 彼の名は、ヒートマン(HEAT MAN)。

​ ヒートマンは、変身直後の混乱から、口を開いて呻いた。

​ ゴオォォォッ!

​ 彼の口から、まるでライターの炎のように、安定した炎が噴き出した。彼の体温37.0℃、つまり変身の最低ラインに達したことで、「炎の力」**が発現したのだ。

​ ヒートマンは、その炎が駅のベンチを焦がしたことに気づき、パニックに陥った。

​「あ、熱い!だ、だれか、解熱剤を……!」

 八十四:本郷の介入

​ この異常な熱と波動をライダー・スコープで感知した本郷は、震えを止め、冷静な科学者の顔に戻った。

​「変異体だ!しかも、トリガーは発熱!37℃が変身ラインだとすれば、体温が上がるほど、彼の力は増大する!」

​ ヒートマンが放つ熱は、バルタン星人の冷たい憎悪とは違い、**「病気による肉体の苦痛」**が変質した、新たなエネルギーだった。

​ ヒートマンは、自分の体から出る炎を止めようと、口を固く結んだ。しかし、体温が下がらない限り、炎は止まらない。彼は、熱を抑えようと、待合室の隅にあった水飲み場の水道を、両手で開いた。

​ 彼の体温が水に触れると、凄まじい蒸気が駅の待合室を満たし、視界を奪った。

​ 本郷は、この混乱に乗じてヒートマンに近づいた。彼は、ヒートマンの体温を正確に測定するため、特殊な非接触型体温計を構えた。

​「ヒートマン!落ち着け!君の力を制御するためには、体温のコントロールが必要だ!」

​ しかし、ヒートマンは、突然現れた本郷の姿に警戒し、微熱による闘争本能をむき出しにした。

​37.1℃。 彼の体温がわずかに上昇した。

​ ボッ!

​ ヒートマンの口から出る炎が、一瞬だけ大きくなった。

​ 本郷は、バルタン星人の件で**「逃げた」という罪悪感を乗り越えるため、今度こそ「変身しないヒーロー」として、この新しい課題に立ち向かう決意を固めた。彼の戦いは、「怪人」ではなく、「熱という名の病気の苦痛」**との、科学的で冷徹な戦いだった。

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