第11話 鷹山トシキの本名
三十五
諸川の工場街。ウルトラマソが張った光のバリアの中で、ケルベロス・マソは激しく混乱していた。
右の頭(痛み)はバリアを焼き尽くそうと炎を吐き、左の頭(法)は「破壊は不正義だ」とそれを止めようと中央の頭(理性)に訴えかける。三つの意識が軋み合い、ケルベロス・マソの体内で凄まじいエネルギーが渦巻いた。
その時、ケルベロス・マソの**中央の頭(大西誠の理性)**が、微かな光を放った。
「タ、助ケテ……。ワタシハ、正シク……シゴトヲ……シタカッタ……ダケ……」
彼の根源にある**「法」と「倫理」の意識**が、自滅寸前の肉体を突き動かした。ケルベロス・マソは、三つの頭でバリアの一点を集中攻撃し、光のバリアを破って、北の結城市街地へ向けて逃走した。
ケルベロス・マソが去った直後、諸川に鷹山トシキを乗せた協力者の車が到着した。
三十六
鷹山は、現場に降り立ち、ウルトラマソの残した光の残滓、そしてケルベロス・マソが逃げた方向を確認した。
「結城へ向かったか!あの多重意識のままだと、結城の静かな街がパニックになる!」
彼は協力者に指示を飛ばした。
「すぐに結城へ向かえ!ただし、一般の警察には通報するな。あれは銃でどうにかなる相手じゃない」
車が結城へ向かう県道を疾走する間、鷹山は自らの過去、そしてこの一連の事件における役割について、決断を迫られていた。ゴカキックから始まり、クリハシ・クラッシャー、そしてケルベロス・マソ。この「悲劇の連鎖」を止めるには、彼自身も「裏の探偵」という仮面を脱ぐ必要があった。
鷹山は、通信機の秘匿回線を起動した。回線の向こうには、彼が追う組織「ショッカーもどき」と対立する、情報機関の古参のリーダーがいる。
「こちら鷹山。重要な報告がある。そして、この通信を以て、私の**『作家』という擬態**は終了する」
鷹山は一度深呼吸し、ハンドルを握る協力者にも聞こえる声で、自らの本名を告げた。
「私の本名は、本郷
協力者は驚愕に目を見開いた。「ほ、本郷……先生?」
「そうだ。そして、私のターゲット、ダーク・システムは、この地域の人々の**『身体的な苦痛』をトリガーに、『負のエネルギー体』を収集し、『超次元ゲート』を開こうとしている。彼らは、ケルベロス・マソが持つ『法則(法)』のエネルギー**を、ゲートの起動に利用するつもりだ」
三十七
ケルベロス・マソは、結城市内の古い城跡のそばで、力尽きていた。三つの頭は静かに息をしており、中央の頭(大西)の顔は、涙を流しているようにも見えた。彼の体は、矛盾したエネルギーに耐えきれず、今にも崩壊しそうだった。
そのケルベロス・マソの前に、青い粒子から再構成されたバラバのマスクマンが、再び姿を現した。 彼のトライデントは、今度は**「捕獲用」**の電流を纏っている。
「遂に見つけたぞ、究極の失敗作にして、最高のエネルギー源よ」
バラバのマスクマンは、勝利を確信した。ケルベロス・マソは、逃走と内部分裂により、もはや戦闘不能の状態だった。
トライデントがケルベロス・マソの背中の鎖状の棘に触れようとした、その時。
「待て!手を出すな、ダーク・システムの怪人!」
激しいエンジン音と共に、鷹山トシキ――改め、本郷 猛を乗せた車が、砂利を巻き上げて現場に滑り込んだ。
本郷猛は車を飛び降りると、自らの胸元に手を当てた。そこには、変異体を解析するための特殊な装置が埋め込まれている。
「私は、お前たちの**『法則の回収』**を阻止する。大西誠の苦痛を、お前たちの勝手な実験に利用させはしない!」
彼は、**「科学者」としての知性と、「監視者」**としての冷徹な意志をその目に宿し、バラバのマスクマンと対峙した。彼の正体が明かされたことで、物語は、怪奇小説から、秘密組織との戦いへと、その性質を大きく変えたのだった。
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