第7話 ベムラーモドキ登場

 二十

​ 総和の工場街で、ゴカキックとウルトラマソの対峙が始まろうとしている、その時。

​ 鷹山トシキは、この三つ巴の戦いの状況を分析しながら、ヘルメットの通信機で秘匿回線に繋いでいた。彼は組織の目的を探るため、ゴカキックを捕獲対象とする組織の動きを優先的に追うべきだと判断した。

​「ウルトラマソの浄化能力は絶大だ。だが、その光がゴカキックの身体を破壊する前に、組織の狙いを突き止めなければ」

​ 鷹山が、身を低くして組織の怪人たちが逃走に使うであろうルートを探っていた、その瞬間。

​ 工場街の南側、古河市街地から少し離れた三和地区の、静かな農道に、一台の不気味なバンがゆっくりと滑り込んできた。

​ バンの後部ハッチが開き、中から降りてきたのは、全身を青黒い皮膚のようなスーツで覆い、巨大な角と爬虫類のような顔を持つ、ベムラーに酷似したコスプレをした男だった。しかし、そのコスプレはあまりにも精巧で、皮膚の質感や目の光沢に至るまで、生々しいリアリティがあった。

​「ベムラー……だと?よりによって、最初の怪獣か」

​ 鷹山は思わず息を飲んだ。彼の裏の探偵としての勘が告げていた。これは、単なるコスプレではない。この男は、これまでに現れたどの「異形」とも違う、**ある種の「案内人」**のような役割を帯びている。

​ ベムラーのコスプレをした男は、背中から巨大な金属製のケースを取り出すと、工場街の方向、つまりゴカキックとウルトラマソが対峙している場所に向かって、ゆっくりと歩き始めた。

​ 

 二十一

​ その頃、総和の工場街では、ウルトラマソとゴカキック、そしてショッカーもどきの怪人たちが激しい攻防を繰り広げていた。

​ ウルトラマソの浄化の光を浴びまいと必死で回避するゴカキック。

 そのゴカキックを捕獲するため、ウルトラマソの動きを妨害するショッカーもどきの怪人たち。

​ ウルトラマソは、彼らの妨害をものともせず、手から放つ青いエネルギーで怪人たちを薙ぎ払いながら、ゴカキックに照準を合わせ続けていた。

​「グオォォォォ……!」

​ ゴカキックは、胸部の肋骨状の突起を軋ませながら、本能的に、この戦場から逃げなければならないことを悟った。彼は、その巨体から想像できないほどの跳躍力で、ショッカーもどきの包囲網を突破し、三和地区へと続く道へ逃走を図った。

​「ターゲットが逃走した!追え!しかし、調停者から目を離すな!」

​ ショッカーもどきのリーダー怪人が、無線で怒鳴る。


 ​二十二

​ ゴカキックが三和地区に入った瞬間、彼の巨大な影が、農道を歩くベムラーコスプレの男の上に落ちた。

​ ゴカキックは、目の前に現れた、自分と同じように異形でありながら、どこか**「滑稽な」**存在に、一瞬だけ動きを止めた。

​ ベムラーコスプレの男は、まるでゴカキックの登場を予期していたかのように、足を止め、その爬虫類のような顔を上げた。彼は、言葉を発する代わりに、持っていた金属製のケースを、ゴカキックの足元に丁重に置いた。

​ そして、男は両手を広げ、まるで**ゴカキックを「歓迎」**しているかのような、大仰なジェスチャーをした。

​ ゴカキックの赤い瞳が、その金属ケースに向けられた。それは、まるで**「鍵」**のような形をしており、ゴカキックの甲殻から発する波動と、微かに共鳴しているように見えた。

​ その瞬間、鷹山トシキがナナハンに乗って、この場に辿り着いた。

​「やめろ!それに触れるな、ゴカキック!」

​ 鷹山は叫びながらバイクを横滑りさせ、ベムラーの男に向かって飛びかかった。しかし、ベムラーの男の反応は、人間のものではなかった。

​ 彼は鷹山の動きを正確に予測し、まるで空気のようにその場から滑るように後退した。

​「ようやく来たか、**『裏の観測者』**よ」

​ ベムラーの男が発した声は、ノイズがかった合成音声のような、無機質な響きだった。

​「その金属ケースは、『トリガーの種(シード)』。君たちが生み出した歪みの力を、さらに増幅させるための……**『招待状』**だ」

​ 男はそう言うと、持っていた小さな発信機のようなものを地面に叩きつけた。

​ ドォォン!

 ​地響きとともに、ベムラーの男と金属ケースの周囲に青い光の渦が巻き起こった。

​ 鷹山が目を覆い、再び目を開けた時、そこにゴカキックも、ベムラーの男も、金属ケースも、全て消えていた。

​ 残されたのは、ベムラーの男が言った「トリガーの種」という言葉と、ゴカキックが消失する直前に残した、**「異臭を放つ黒曜石の甲殻の破片」**だけだった。

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