第21話 初めて知る万能先輩たちの弱点

 管理棟に戻ると、四時から大浴場が使用可能と教えられ、そのまま風呂に入って行くことになった。


 風呂場は開いたばかりなので、他の人はいなくて貸し切り状態だった。

 広々した大浴場で、冷えた体をゆっくり温めていると、「ほーっ」と声が出た。

 気持ちがいい。

 そこで今井先輩に聞かれた。ダイレクトに。


「さっき転んだ時、起き上がれなかったの、ユキのせいだろ?」

「そうだよなあ、上に乗っかって向かい合われたら、身動き取れないよな」


 二人共気付いていたんだ。

「はあ。まあそうです」

「かなりやばい体勢だってこと、分かってなさそうだよな。しかも乗っかったままお前の事を必死で起こそうとしていてさ。かなり慌てていたんだろうな」


 それは無理だよね。俺は硬直してピーンと真直ぐになっていたし。

「それにしても、あれはお前の事を男と思っていないのか、好きなのか、のどっちかだな」


 ハハハハハ。

 俺(ポチ)の乾いた笑い声が、広い浴場に響いた。



「ところでさ、俺が引っ張り上げなかったら、沈んだままで居る気だったのか?」


「うーん、どうでしょう。壁ドンならぬ、海ドン。命がけですね」


「YESなら、そのまま掻き抱いて海から立ち上がる。なんかロマンチックだな。NOなら溺れるっていうのは嫌だから、突き飛ばして逃げる、かな」


「ユキ相手にそれはひどいだろう」


「ヒロシはどっちの気分だった?」


 二人共、好き放題言っている。それに、いつもよりずっと、気軽で踏み込んでくる感じだ。

「里見先輩に触ること自体無理です。だからどっちもなしでしょうね。どいてくれるといいなあ、と思っていました」


「お前、もう少し欲を出してもいいと思うよ。多分お前が触っても、ユキは嫌がらない。ユキも良くお前の事、触ってくるだろ」


「あ、そう言えば俺の髪やら、顔やら触るのは好きみたいですね。モデルの仕事の時に、良くおもちゃにされています」

 

 そこにガヤガヤと人が入って来た。結構大人数の集団だ。

 すっかり疲れが取れて温まり、しかも腹が空いてきたので、風呂からあがって着替え、今朝待ち合わせたロビーに向かった。



 コテージは広々した二階建てで、一階のリビング前にバーベキューコンロが設えてある。

 俺たちは、すぐにバーベキューの支度に取り掛かった。

「ヒロシ、包丁使える?」

 井上先輩に聞かれた。


「まあ、下手だけど一応」


「じゃあ、ソーセージに切り込みいれて。切り込みって分かるよね?」


「火が通りやすいように、斜めに切り込みを入れる、ですよね」


「良し。やっぱりあんたって使える。あっちの二人は全くだから、包丁持たせないでね」


 まさかの、調理スキル低め?

 きょとんとする俺に、

「やる気も無けりゃ、センスもないのよ。もう見放しているの」


 かなり辛辣な言われようだ。

 そう言えば買い物でも、なんか駄目っぽい匂いが漂っていた。


「ほら、二人はトウモロコシの皮剥きして。それからコンロの準備」


 井上先輩は、彼らを顎でこき使い始めた。

 そして二人共、大人しく従っている。

 女子二人は豚の塊をひもで縛ったり、鶏肉にハーブやニンニクをすり込んだりし始めた。

 俺はソーセージの次に、玉ねぎやピーマンのカットを担当した。

 ジャガイモのホイル包みは、上側に十字に切り込みを入れてホイルで包む。

 それらを大皿に盛り付けると、タレ漬けの肉を別の皿二枚に盛り付け、外のテーブルに運んだ。


 二人は器用に火を起こしていた。

 煙と火が立ち上がり始めている。いかにも男の役目っぽい。

 それにしても。

 万能な二人の調理スキルが、そこまで言われるほど低いのかな? もしそうなら驚きだ。


 あーれっ?

「あの、先輩がた。朝食のカレーって、作れ……ます?」

 えって感じの表情からして、駄目そうだった。

「無理」

「俺も」

「あのー、じゃあ誰に作ってもらうつもりで言ったんですか?」

「由美、は怒るか。ユキ、は無視しそうだな」

 今井先輩が悩んでいる。

 うわあ、まさかの無計画。


「ヒロシ、出来るか?」

「まあ、カレーくらいなら、何とか」

 二人は嬉しそうに、「助かった」 と言い合っている。


 今日は普段見ない姿を、たくさん見ている気がする。

「腹減ったな」

 つぶやいた緒方先輩は、大声を張り上げた。


「おい、火が熾ったぞ。もう焼いていいか?」

「待て!」

 鋭い声が飛んできた。


 井上先輩が小走りにやって来て、ジャガイモのホイル包みを炭の中に突っ込んだ。

 里見先輩が鍋を持って来た。

「こっちのコンロに炭を移して」

 緒方先輩が、コンパクトなコンロの方にトングで炭を乗せていく。


 里見先輩は、その上にスタンドを置き、ダッチオーブンを乗せる。

 スキレットを、その横に乗せて温めはじめた。鶏のもも肉を焼くつもりのようだ。 ニンニクとキノコとハーブが、鶏のもも肉二枚と一緒に置かれている。

 

「こっちは私たちで見るから、そっちのコンロで肉と野菜を焼く係、ヒロシがやってね。肉は塩味から焼いて。その次がソーセージね。大きいから結構時間がかかると思う。そっちの二人は、追加の炭を準備して待ってなさい」

 しゅんとする二人。


 今井先輩が、調理用のトングと菜箸を持って来て、肉の皿それぞれに置いた。


「焼くって言ったって、トングも箸も無しに、どう焼く気でいたの?」


 二人共、鋭い突っ込みに首をすくめている。本当に駄目なんだな。

「いっそ清々しいですね」

 思わず言ってしまった。


「そう、清々しいほど、何にもできないのよ」

 キッと彼らを睨んでから、里見先輩はこっちを向いた。


「ヒロシは唯一まともそうね。期待しているわよ。この二人が変な事しないよう、見張ってね」

 そう言い置いて、慌ただしく室内に戻って行く。

 それから紙皿の束と箸、ナイフとフォーク、飲み物やコップなどを、女子二人で次々に運んできた。


「俺も手伝いますよ」


「ありがとう。コンロの周りに椅子を並べて。後はダッチオーブン用のコンロ横にもスツール一個置いといて」

 二人は信用されていないのか、放置されている。


 俺を羨ましそうに見上げるさまは、ご主人様に駄目犬扱いされた大型犬みたいだ。

「ハムを皿に盛り付けてもらえますか。それとパンを薄切りにして、一緒に並べてください」

 かわいそうなので、仕事を見つけてあげた。二人はぴょんと立ち上がり、急いで冷蔵庫に向かって行った。 

 

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