第27話 裏の生徒会長再び…
ある日の昼休みに、下見の時に会った議員と、廊下でばったり出くわした。
俺が挨拶すると、議員は大声で挨拶を返してくれた。
「やあ、田中君、次の生徒会長だってね。来年もよろしく」
「まだ決まりってわけではありません」
「謙遜しなくていいよ。頑張ってね。俺も生徒会長経験者なんだ。生徒会のOB・OG会のパンフレット、後日送らせて貰うよ」
議員が立ち去ると、後ろにいた秘書の荻さんがさっと寄って来て、住所を訪ねた。
俺はまず、遠足の時のお礼をもう一度言い、その後なんとなく雑談になった。
「今日はどういう用件でいらっしゃったのですか」
「校長に学祭の挨拶だよ。実務は君たち生徒会とだけどね。私が担当するから、今回もよろしく」
すっと差し出された手を、反射的に握った。
「おおっ」という声が周囲から上がった。
いつの間にか遠巻きに見られていたようだ。
「ここの高校は特殊だよね。高校生のうちから、各種業界とコネができるのだから、うらやましい限りだ。生徒会はその元締めだもの。私もここに入ればよかった」
「僕は緒方先輩に引きずり込まれたくちです。今は感謝しているけど」
「緒方君はずば抜けて優秀だけど、君もだよ。仕事がしやすい。そういう人材はなかなか居ない」
うっわ。くすぐったい。
おだてても何も出ませんよ、と言おうとした。
「ところで、コマーシャルのあれ、どっちが本命?」
これが聞きたかったのか。
ムッとして、定番のがっかりトークをかましてやった。
やはり、がっかりしていた。
いい大人でも、人の恋の行方が気になるらしい。
教室に戻ると、真田が声をかけてきた。
「さっき、議員さんたちと握手していたでしょ。皆が、裏の生徒会長再びって、盛り上がってたよ」
「今度は裏じゃないぞ」
「あ、今度は裏も表もだね。さすが実力者」
はあーっとため息が漏れる。
「ところでさ、真田は生徒会に入る気ない? 今、候補を挙げているんだ」
真田は、はあ? という顔で俺を見つめる。
「なんで私?」
「話しやすいから」
「選ばれたらもちろんやるよ。憧れだもの……ぜひ、ぜひともこの真田めを田中様の下僕に」
うわっ、急に芝居がかってきた。
「真田って、良い性格しているよな」
「ありがとう」
負けた。
その時、教室の入り口でざわめきが起こった。
振り向くとドアの所に里見先輩と井上先輩が立っている。
俺は立ち上がって、二人の元に急いだ。
「何か急ぎの用ですか?」
尋ねた俺を、里見先輩がギロっと睨んだ。だいぶ不機嫌そうだ。
「今、話していたのが、推薦した女子?」
「はい。その話をしたところです。選ばれたら是非やりたいって、前向きな返事を貰いました」
「わかったわ。リストに入れとく。ところでヒロシ、こんな場所で話すと、入りたい子がガンガン寄ってくるよ。気をつけなさい」
ふと周囲を見回すと、視線が。
でもこれは、美少女二人が降臨したせいだと思う。真田までポーッと頬を赤くして見とれている。
そんな風に軽くとらえて、俺はその言葉を真に受けていなかった。
その放課後、さっそく寄ってきたのは瀬木さんだった。
「田中君、話すの久しぶりね。コマーシャル見て驚いたよ」
……俺も、話しかけられて驚いているよ。
黙っていたら、彼女は俺を見ながら、コテンと首を傾げた。
「夏休み、何かあった?」
「特に何もないけど」
変わったのは身長だけだ。また三センチ伸びた。
「雰囲気が変わったよ。なんか、真っすぐ立ってる感じ」
嫌な奴に良いこと言われると、物凄く複雑な気分になるのな。
「えーと、ありがとう」
「生徒会の役員、私も立候補します。ぜひともよろしく」
一応、頷いておいた。
立ち上がって、帰ろうとしたら、数人が近寄ってきた。たぶん用件は瀬木さんと同じだろう。他のクラスからも数人が顔を出している。
囲まれて話を聞いていると、いつの間にか里見先輩がその中に混じっていた。
「ヒロシ、帰るよ」
さっきラインしたのに、なぜ迎えに?
心配してくれたのかな。
「先輩、俺、大丈夫ですよ」
「いいえ、二年生は私たちが抑えたけど、一年生だけでも捌くのは大変よ」
里見先輩がパンっと手を叩いた。
「立候補は昨日で締め切りました。ゴメンね」
里見先輩の目は瀬木さんをビシッと睨めつけている。
「行こう、ヒロシ」
「それなら真田さんも間に合っていませんよね」
瀬木さんがすぐに言い返す。
うるうるした目は相変わらずチワワだけど、その中身はブルドッグだったようだ。
「真田さんに関しては、昨日、田中君が推薦したの。記録もあるわよ」
言うなりクルッと背を向け、里見先輩は出ていく。これ以上あんたの相手はしないわ、という言葉が後ろ姿にダブって見える。
俺はすぐに後を追った。
「あれが例の瀬木さんでしょ。小山より、ずっと質が悪そう」
やっぱりあの話を今井先輩たちから聞いていたんだ。今まで一度も話題に上ったことがなかったので、不思議に思っていた。
いつもなら大騒ぎして、チョロシ呼ばわりされるのに。
「正直、もう関わりたくないです」
「そうね、隙を見せないほうがいいわよ。生徒会の役員はしっかりした面子を選んだから、守りは固いわ」
え、守り?
「あの真田って子もいい感じ。ヒロシ、結構見る目が付いてきたね」
……俺は真田のことをあまり知らない。だから、どこを見てそう言っているのか、見当もつかない。
「俺の下僕になるって言ってたけど……」
「うん! 合格。彼女は決まりね」
次の日も里見先輩が迎えにきた。
俺を囲んでいるクラスメイトたちを押しのけて、俺を引っ張り出す。
次の日、早々に次期生徒会の役員が内定した。
副会長 二年B組 松本雄太
書記 二年C組 木本 桜
書記 一年C組 真田 友香
会計 一年D組 加納 健一
非公式にではあるけど、そのメンバーの名は周知されて行った。もちろん、それ以上の売り込み合戦を抑えるために、わざと流しているのだ。
そして生徒会役員選挙の日、俺は無事に生徒会長として承認された。
その次の日、俺が生徒会役員名を正式に学校側に伝え、次期生徒会の形が整った。これは最短での決定だったらしい。
就任あいさつで、俺は公約を一つだけ述べた。
「今まで以上に楽しめる学校にしていきます」
そして、生徒会メンバーが挨拶をした。全員が俺を盛り立て、堅実な生徒会運営に尽力する、というようなことを述べていた。
先輩が言っていたように、真面目で固いメンバーなのだと、俺は安心した。
そんなある日の昼休み、突然真田に聞かれた。
「田中君と里見先輩って付き合ってるの?」
「まさか」
「だってこのところ毎日お迎えに来ているじゃない」
「……過保護だよな。大丈夫だって言ってるのに。お迎えが癖になったみたいなんだ。井上先輩にも過保護だっていじられてた」
ふーん、と言いながら、納得していない様子の真田。
「過保護なお姉様っていうのも、萌える。うーん、そっちの線もありか」
「もしかして、面白がってる?」
「面白いもの」
俺は里見先輩にラインを送った。
『真田に面白がられているから、お迎えやめてください』
それでやっと、里見先輩の過保護モードが解除された。
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