第18話 夏の思い出

「いい出来だと自負している。皆ありがとう」


 CMプランナーがそう言って、皆に感謝を伝え、放映日を教えてくれた。


 自分の顔がテレビで流れるのは気恥ずかしい。

 しかも恋愛編に編集されるとは思ってもいなかったので、気恥ずかしいくらいでは済まない。


「メイクと髪形で、いつもとは少し雰囲気が違うから分からないかも」

 俺の言葉は里見先輩にすぐ論破された。


「何言っているの。どう見てもヒロシでしょ。それに雑誌に何回も載っているのよ。すでに顔をさらしているじゃない」


 そうか、そうだった。

 でも雑誌への露出は、あくまで里見先輩の添え物で控えめだ。

 こちらはしっかりと出演者の一人として出ているし、更には恋愛ストーリー仕立なのだ。

 一応、恋愛編は、時々挟み込む程度という話だ。

 きっと大して目立たずに済むだろう、と自分を慰めた。


 試写会の帰りにスタバに寄って、まったりしていたら、

「夏の思い出を作ろう」

 急にそんなことを言い始めたのは緒方先輩だ。


 何を唐突に。


 そう思った俺を置き去りに、

「いいな」

 と今井先輩。


「どこに行こう」

 と早速、検索を始める井上先輩。


「暑いじゃない」

 文句を言う里見先輩。


 通常、高校三年の夏休みは、塾の特別講習に通ったりするものだ。特に東大を受けるのなら、大体の人はそうじゃないかな。

 この四人が普通の範囲に入らないのは分かっている。俺は黙ってやりとりを見ていた。


「じゃあ、海水浴にでも行くか?」

「いいね」

 と今井先輩。


「せっかくだから泊まりでバーベキューしよう」

 そう言うと、井上先輩はさっさとキャンプ場を検索し、さっさと予定を立て始めた。


「ねえ、海水浴場隣接のキャンプ場見つけた。コテージ二つ?」

「大きめ一棟でもいいけどな」

「6人までのコテージ、ベッドルーム二つ。バス・トイレ付き、本館に大浴場あり。学割有り」

「それ、いいね」

「最短で来週の水曜日が空いてるよ」

「それでいいか?」

「「「賛成」」」


 決定、早っ!


 そして俺はワンテンポ遅れて、「賛成です」とつぶやいた。


 こうして一泊二日の夏旅行がサクサクと決定した。


 行く先は千葉の海辺のキャンプ場で、コテージにはキッチンと冷蔵庫もある。


「私が会計やるから、一人一万円出して。コテージ代とバーベキュー場の賃料と材料代、それに花火代ね」

 バッと万札が出揃った。

 今日の試写会で、一万円ずつ貰っていた。


 これ、俺が稼いだ金なんだ、と改めて思う。

 まだ出演料をもらっていないので、そのあたりピンとこない。

 素人なのと、里見先輩の事務所を通しているため、金額は多くはないのだ。


 それでも高校生の臨終収入と思えば大きな額だった。


 さて、何に使おうか、と思っていたら、井上先輩に命令されてしまった。


「ヒロシはパソコン買いなさいよ。持ってないの、あんただけだよ」


 コーヒーフラペチーノの残りをズズッとすすり、耳に蓋をした。


 俺は一人っ子なんでわからないが、もし姉がいたら、毎日こんなだろうか。

 姉だったら、家に帰れば必ず居るってことだよな。

 それはキツイ。


「なんだか微妙な表情だな。嫌なら嫌って言えばいいのに」

 今井先輩は苦笑している。


「姉がいたら、こんなかなって思っただけです」

 井上先輩は、ちょっと照れたようだ。


「まあ、姉代わりだからね。ヒロシは教え甲斐があって楽しいし」

 照れながら、次第に嬉しそうになっていく。


 それにつれて、俺の中の罪悪感はゲージアップした。


「井上は一人っ子で、弟か妹が欲しいってよく言ってたもんな」

 今井先輩が、結構甘い目をして井上先輩を見つめていた。


 見てはいけない物を見てしまったような気がする。

 もう駄目だった。溜息まじりで俺は言った。

「今度、パソコン見に行ってみます」


「当日は、駅周辺のスーパーに寄って、買い出しするよ。エコバッグ必須だよ。私クーラーボックス持っていくからね」 


 今井先輩が、バシバシと指令を飛ばす。

 それ、実質持つのは今井先輩だろうな。そう思って今井先輩の方を見ると、目が合った。

 さっきの優しい目のままで微笑んだ。

 最近、二人の仲を隠すのをやめたのだろうか。


 それにしても、知っている人同士のカップルって、ドギマギする。

 隠してあったものを盗み見したみたいな、落ち着かない気分になる。  



 当日、集合場所の駅に向かうと、待ち合わせ時間の10分前なのに、皆集まっていた。

 駅構内で、そこだけくっきりと目立つ集団は、あの四人だ。


 白いショートパンツ姿の里見先輩は、モデルのように見える。モデルだけど。


 その横、井上先輩は、ヒラヒラした薄いロングワンピース姿。肩が出ていてリゾートって雰囲気。フワッとした茶色っぽい髪に、黄色い花をあしらった麦わら帽子が乗っかっている。


 男の先輩たちは、薄手のゆったりしたパンツにTシャツ。似たような服装だけど、雰囲気が全く違う。

 くだけた雰囲気で、カッコいいのはどっちも一緒。


 その集団に近寄るには、勇気が必要だった。


 俺はなるべくそうっと、回り込むようにして集団に近付いていった。 


「ヒロシ、こっち」

 俺を目ざとく見つけた里見先輩が、伸び上がってこっちに手を振る。


 止めてくれ、視線が!


 学校の校門とは違って、駅には色々な年齢の人たちがいた。


 「へえー」という声が聞こえる。

 「ええー!」じゃないだけマシか?


 小さい子供の「あのお姉ちゃんのカレシ?」という可愛い声が人混みから飛んできて、サクッと俺に刺さった。


 違います。

 よく見てよ。あっちにツーペア揃っているでしょ。俺はオマケ。


「コラ。人に指を向けちゃだめって言ったでしょ」

 母親らしき人がたしなめている。


 もう注目されているので、俺は一気に走った。

「お待たせしました」 

「じゃあ、行くか」

 そう言って緒方先輩が改札に向かう。


 俺は自然と里見先輩と歩き初めていた。


 遠くで「カップルだ」と言う声が上がる。お子ちゃまはお子ちゃまだもんな。

 立ったままで注目されているよりは、動いている方が気が楽なので、俺はほっとしながらホームに向かった。


 一時間ほどで到着し、電車から降りると、俺たちはすぐに駅前のスーパーマーケットに向かった。


「今から楽しいお買い物よ。皆、私に付いて来て」


 テンションが高い井上先輩の横で、今井先輩がにこにこしている。


 思った通り、今井先輩がクーラーボックスやら麦わら帽子やら、色々と持っている。でも、仲良さそうだ。見ていると羨ましくなってしまった。


 神様、俺にも彼女を、一人でいいので、彼女をください!






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