探偵の幻夢録(ヴィデーレ)
由隆大夢
序章 血塗られた盃
第1話 探偵の日常
──窓から…穏やかな光が差し込む。
「ん……朝…か…。」
彼はあくびをしながら、ゆっくりと階段を降りていく。
???
「おっ!来たか。おはよう、アル。」
熊の様な体格と、渋い雰囲気を醸し出す男が、食卓の椅子に座り、グラスを揺らしながらそう言う。
アルセリオ
「ああ…、おはよう…"親父"。」
シグルド
「おう!…良く眠れたか?」
アルセリオ
「少し懐かしい夢は見たが、概ね良く眠れたさ。」
シグルド
「そうか!そりゃ良かった。」
???
「夢って…また過去の夢か…?辛かったら言えよ。力になれるかも知れないからな。」
アルセリオとは反対の耳に、良く似た耳飾りをつけている男が話しかけてくる。
アルセリオ
「おう。ありがとな、レオ。」
レオナール
「謝礼はいらない、アル。なにせ、当然の事だからな。」
ぐぅ〜〜……
ルリ
「アル兄…ルリ、お腹空いた…何か作って。」
神秘的な雰囲気を持つ小柄な少女が、お腹を鳴らしながらそうおねだりする。
アルセリオ
「はいはい。…何か、食べたいものとかはあるか?ルー。なんでも良いぞ。」
ルリ
「ほんと〜!?…それじゃあ、オムライスが食べたい!くまさん描いて〜。」
アルセリオ
「分かった。オムライスに…ケチャップでくまさんだな。ちょっと待ってろ。」
少し経つと、美味しそうなオムライスが出来上がり、食卓に並べられる。
ルリ
「わぁ〜。くまさんかわいいー!」
シグルド
「おいおい…アル。俺達には描いてくれねぇのか…?」
レオナール
「むっ?親父殿がそう言うならば、俺もぜひ描いて欲しいな。」
アルセリオ
「誰が描くかよ。ガキか?てめぇら。」
シグルド(キラッ)
「俺もまだまだピチピチの57歳だぞっ?」
アルセリオ
「何処がピチピチだよ。クソ親父。」
レオナール
「親父殿はお魚だったのか…。ならば俺は…魚ではないから、ピチピチじゃないな……」
アルセリオ
「黙って食ってろポンコツっ!!」
レオナール
「ポンコツ…?俺の名前はレオナールだ。今後は間違えるなよ。」
アルセリオ(頭に手を当ててため息をつく)
「はぁ…だめだなこりゃあ……。」
ルリ
「アル兄…おかわり。」
アルセリオ
「おっ?もう食っちまったのか?相変わらず速いな。…ほれ、おかわりだ。」
お皿に先程よりも大盛りでよそい、くまさんを書いてルリの前へと置いた。
シグルド
「はっはっは!!!今日も愉快な早朝だな!!」
アルセリオ
「俺は愉快じゃないんだが…まぁ、良いか。」
そう不満そうに口では言うが、彼の顔には、少しばかりの笑みが浮かんでいた。
***
ガヤガヤ…
──街の喧騒が耳に馴染む。
魚屋のおっさん
「おっ?リオじゃ無いか!どうだ?どれか買っていくか?ピチピチだぞ!!」
アルセリオ
「いや!いい。今日はいい!」
八百屋のおばさん
「リオちゃ〜ん。うちのお野菜買っていくか〜い?新鮮なお野菜だよ。」
アルセリオ
「おばさん、今は買いに来たわけじゃ無いから大丈夫だよ。」
アルセリオ
「おっ?あったあった…。」
彼は、探していた物を見つけた瞬間、少し機嫌が良くなった。
アルセリオ
「よっ!ゴルドーのおっさん。今日も買わせてもらうぞ。」
ゴルドー
「んっ?リオじゃねぇか。いつものだな。ちょっと待ってろ。」
大男はそう言って、コカトリスの焼き鳥を手渡す。
アルセリオ
「あんがとよ。」
ベンチに腰をかけながら口に頬張る。
アルセリオ
「くぅ〜〜。これだよこれ!やっぱうめぇなぁここの焼き鳥は。」
???
「…………。」
美味しそうに食べるアルセリオを、いつの間にか隣にいた少女がじーっと見つめてきた。
アルセリオ
「なんだ…?ガキ。欲しいのか?」
その問いに、彼女は素早くコクコクと頷く。
アルセリオ(手渡しながら)
「ほら、一本やるよ。」
???
「ありがと…なのです。」
彼女は感謝を示しながら、ゴクリと唾を飲み込み、一口食べる。
???(深々と礼をして)
「凄く美味しいのです。ほんとうにありがとうございます。」
そうは言っても、彼女の表情は変わらず、何処か頬が僅かに赤くなっているだけであった。
アルセリオ
「おう。どういたしまして。」
(妙に礼儀正しいガキだな…)
アルマ
「私の名前は、アルマ…なのです。こっちはガウディウムなのです。」
スゥ〜……
そう言うと、アルマの目と髪の色が反転し、纏う雰囲気が変わった。
ガウディウム
「おうよ。よろしくな!あんちゃん。」
アルセリオ
「ああ。よろしく頼む。」
(今のはなんだ…?人が変わった…と言うより、魂が変わった?
──まさか一つの人間の器に、二つの魂が共存してやがんのか?すげぇな…)
内心で驚くアルセリオを尻目に、アルマの目と髪色は、元に戻っていった。
アルマ
「このお礼は…また今度しますので、お名前を聞いても良いですか?」
アルセリオ
「良いぞ。俺の名前はリオ。
夢追い人をやってる。」
その言葉を聞くと、アルマはまたもやアルセリオをじーっと見つめてくる。
アルマ
「…そう言うことにしておきます。それでは、私を探している人がいるので、また。」
再び、アルマは深くお辞儀をし、後方へと駆けていった。
アルセリオ(手を振りながら)
「ああ。また…な…」
(こりゃ…偽名だってバレてたな。そういうのが分かんのかねー?)
アルセリオ
「それにしても…どっかで聞いたことある名だったな…。気のせいか…?」
***
ガチャ…
アルセリオ
「お邪魔するぜ?デパウルのジジイ。」
デパウル
「なんだぁ…?オレはジジイ呼びを許した覚えは…っと、なんだ…アルセリオか!!
ガハハ!そんで?オレに何の用で来たんだ?…もしや、またフィクスの奴に用事か?」
アルセリオ
「その通りだ。
いつもの奴を補充しときたくてな。」
デパウル
「ちょっとまってやがれ。
叩き起こしてくらぁ…!」
ガタゴト…と言う音を立てながら、フィクスが階段を降りてくる。
フィクス
「はぁ…また君かい…?アル。僕…まだ寝てたいんだけどさ。
…それで?どうせ弾の補充だろ?あとは、魔導具についてもか…。」
彼はめんどくさそうに頭を掻く…。
アルセリオ
「任せたぞ。いつもの様にな。」
フィクス
「はいはい…。分かりましたよっと…。」
(小声で)
「まったく、なんで僕が……。」
アルセリオ
「俺だって嫌だね。お前に頼むのだって血反吐吐きながら耐えてんだぞ?
だが、これを容易出来んのはテメェだけだ。フィクス。」
フィクス
「だろうね…。それと、気になってたんだけどさ。いつまでそんな旧式使ってんの?
せっかくなら、僕にくれれば良いのにさ。」
アルセリオ
「嫌だね。父さんの形見なんだ…渡すわけねぇだろ。それに、どうせ研究してぇだけだろが。」
「お前に任せりゃ確かに早いとは思うが…妙なことされそうでな。」
フィクス(眉間に皺を寄せ)
「はぁ…君はそれの価値を分かっていない…。ただの旧式じゃ無いんだ!!
近くで見せてくれないから解明出来ないけど…材質も、構造も、その秘めたる力だって特別なんだっ!!
──まったく…宝の持ち腐れだよ…」
アルセリオ
「お前が何を言ってるかはまったく分かんねぇが…これがすげぇのはわかる。なんせこんだけ使っても、手入れの一つも要りやしねぇしな。」
フィクス
「はぁ…その程度の理解かい…?本当に勿体無い…。僕よりも長く近くで見てきただろうに、君は目が見えていないのかな?」
アルセリオ
「節穴ですみませんねっ!
それで?"アレ"はいつ出来上がる?」
フィクス
「ああ、もう少し待ってくれ。ただでさえ難解な物なんだ。
そうすぐに出来る訳が無いだろう…?」
アルセリオ
「そうか…。分かった。出来るだけ早く頼むな。入り用なんだ。」
フィクス
「分かってるさ。だから今、色々とスケジュールを前倒しにして作ってるんだよ。おかげで僕は寝不足さ。」
「他にも仕事があるってのに、毎回毎回、こんな厄介な物を作れとせがむなんて、ほんと図々しいよね、君。」
アルセリオ
「…職業柄さ。」
ぼそぼそと文句を連ねながら、フィクスは頼まれた物を箱の中から取り出していた。
フィクス
「やっぱりその銃…。僕にくれたりは…」
小さな声で、そう本心が溢れた。
アルセリオ
「耳が付いてないのか?それとも、使いすぎで脳でも壊れたか?」
フィクス
「ちっ…。それじゃあこれはやるから、出ていってくれ。」
バンッ!!
フィクスは舌打ちをすると、頼まれた銃弾だけを渡し、鍛冶屋から勢い良く締め出した。
アルセリオ
「乱暴だな…ったく……。」
(まぁ…俺は作れねぇから、気長に待つしか手は無ぇな。)
***
──人混みが道を塞いでいる…
アルセリオ
(んっ……?なんだ?随分と集まってるな。)
アルセリオは人々の会話に耳を傾ける。どうやら、ここ最近で頻発している事件の、被害者が新たに増えたようだ。
若い男
「また…この事件か…。最近多いな…。」
買い物帰りの女
「金貨に埋もれて圧死って話よ?そんな事、普通あるのかしら?」
歳を取った男
「ねぇと思いたいが…どのみち、犯人も分からないんじゃあ…どうしようもねぇよなあ…。」
アルセリオ
(連続変死事件か…確か未だに、まったくと言って良いほど、尻尾を掴ませてねぇって聞いたが…)
アルセリオ(小さく)
「あっちの奴に聞いてみるか…。」
そう決心したアルセリオは、巡回中の騎士の元へと歩いていく。
アルセリオ
「あの…『
銀の鎧に身を包んだ“巡礼騎士団”の男が、すぐにこちらへ振り向いた。
巡礼騎士
「ああ…シグルドさんの所の新人リーダー君か!!お噂はかねがね…。
えっと…今回の件ですね?あまりお伝えしてはならない決まりなのですが、貴方方ならば問題ありませんね。」
アルセリオ
「それでは、質問に答えていただきたいのですが…被害者は現在で何人ほどで?」
巡礼騎士
「これで5人目になります。まったく関連性が無く…我々一同も困惑しているのです…。」
アルセリオ
「ふむ…。死体の殺害方法は分かっているので…?今回は圧死との事ですが。」
巡礼騎士
「そうですね。皆、別々の死に方をしています。
──四人目の人は路地裏での餓死、三人目の人は持ち家ごと爆死。
二人目は両目をくり抜かれ、上を見上げる形で発見。
最後に一人目の人は、ガラスに突っ込んだままの…おそらく自損と思われます。」
アルセリオ
「…なるほど、情報提供感謝致します。それでは、皆様の道へと…幻灯を灯さんことを…。」
巡礼騎士
「ええ…あなた方の灯が、我々の剣よりも頼りになることもありますから。」
そうして、その場を後にした。
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