幕間【王達の密談】
──ある夜中の事だ。皇王ルドヴィクスの執務室にて連絡用の魔導水晶が淡く点滅を始める。
………。
ブォンッ
──静寂を破るようにして、甲高い男性の声が執務室に響き渡る…。
アルヴレイド
「ルードぉ。元気してるか〜?」
ルドヴィクス
「……なんだ?藪から棒に…。今は忙しいのだ。手短に話せ。」
アルヴレイド
「まさか、また貴族派の連中か?
なにせ、今はルードが上手く均衡を作ってるとはいえ、古きに囚われたタイムハルトに、
自分の利益ばっか考えてるヴェルナー、力にしか興味がない上、頭がそこまで良くないグラウル。実力主義だからこそ、協調性の無い元老院の奴ら。」
アルヴレイド
「どれをとっても厄介だよねぇ〜。ただでさえ最近はドミネクリプスの干渉に、カルレラ共和国や魔国の軍事介入で忙しいってのに、内部まで面倒くさい事のてんこ盛り。ほんと酷いねぇ〜。」
ルドヴィクス
「その通りだ。だからさっさと要件を言え。」
アルヴレイド
「えぇ〜ルードのいけずぅ〜。ちょっとくらいお話ししたっていいでしょ〜?俺たちの仲なんだからさぁ〜?」
ルドヴィクス
「はぁ〜…。俺たちの仲というが、ただ…お前のとこの学院で、同級生であっただけであろう?俺たちの関係はそれ以上でも以下でもない。」
アルヴレイド
「あれ〜?俺たちがお別れする時に、『また会えるかな…?』とか言ってたのは誰ですか〜?」
ルドヴィクス
「んなっ!?それは若い頃の話だろう!掘り返すなっ!!」
──普段の態度とは打って変わって、恥ずかしそうな顔をする皇王なのであった。
アルヴレイド
「ほんと、あの頃は楽しかったよねぇ〜。俺がいっつもルードの手を引いて、下町へお忍びで出掛けたり、二人でウルヴザ大森林に行って狩りをしたり…。
まぁそれは流石にしこたま怒られたけど…。あの時のルードは俺の後ろをテクテク着いてきて…可愛かったなぁ…。なんなら最初、女の子かと思ったもん。」
ルドヴィクス
「やめろ…。それは俺の黒歴史だ。……だが、楽しかったと言えばそうだな。」
ルドヴィクス
「そう言えば、お前のとこのアウロラはどうした?かなりの難敵だったろう?」
アルヴレイド
「それがねぇ〜。有効関係…築けちゃったんだよねぇ〜。」
ルドヴィクス
「何!?一体どうやってあの堅物共を手中に収めたのだ?」
アルヴレイド
「手中には収めてないよ。ただ、利害関係は成立した。あっちの動きを制限しない代わりに、
ルドヴィクス
「なるほど…。それはお前にしか出来ぬ芸当だな…。それに、今の俺にはその余裕がない。」
アルヴレイド
「そうだろうねぇ〜。……さて、本題に入るよ?ルドヴィクス。」
──アルヴレイドの声色が突如低くなり、場の空気が変容する…。
ルドヴィクス
「やっとか。待ちくたびれたぞ。」
アルヴレイド
「早速だけど、《
さらに《
んで、それに対して、《
ルドヴィクス
「それはまた…。胃が痛くなる話だな…。」
ルドヴィクスはそう言って頭を抱える。
ルドヴィクス
「何故こうも面倒事が重なるのか…。」
アルヴレイド
「また何かあったのか?」
ルドヴィクス
「ああ。こちらでも、七大罪獣である、
《
アルヴレイド
「それは本当か?ルドヴィクス…。だとしたら大海が荒れ狂うな…。アレの力は確か…。」
ルドヴィクス
「"生きとし生きる全ての生命を対象とした、範囲型の夢境技"だ。精神攻撃に近い故、防ぎようがない…。
仮にその攻撃を防いだとて、遠隔で無差別の攻撃を仕掛けてくる…。それも際限無しだ。
"動かぬの災厄"とはまさに奴の事だな…。」
アルヴレイド
「怠惰って感じだねぇ〜。」
ルドヴィクス
「伝承に残されているものだけでもここまで厄介なのだ。実物はこんなものでは無いだろう。せっかくだ、…そちらのアウロラを貸してはくれまいか?」
アルヴレイド
「それは無理だね。いくら彼女たちでも大罪獣を相手取るとなると、死を覚悟しないといけなくなるし…、そこまでの恩を俺は彼女らに売れない。」
ルドヴィクス
「それもそうか…。無理を言った、すまない。」
アルヴレイドの表情が和らぐ…。
アルヴレイド
「別にいいよ。気にしないで。」
「そう言えばルード。協力してくれるかで言ったら、君のとこにあの探偵がいたでしょ?
あの子に頼めば良いんじゃない?頭は切れるし、交友関係も相当広いでしょ?」
ルドヴィクス
「それはそうだが、こちらにも不可能な理由がある。」
アルヴレイド
「…イゼルロット公爵家の事かい?」
ルドヴィクス
「ああ…。中々気まずい。」
アルヴレイド
「あれは仕方が無かっただろう?あの時のルードはまだ若かったし、力もそこまで強く無かった。その上、解体される前の当時の元老院連中が増長して、明日は我が身の状態だったじゃないか…。」
ルドヴィクス
「それでも…、公爵家に"奴ら"まで送っておいて、没落を事前に防げなかったことは事実だ。」
アルヴレイド
「そうは言ってもねぇ〜。同時に国中で
それで?捜査の進展は?」
ルドヴィクス
「まだだ。未だ尻尾すら掴めておらん…。分かっている事も、魔国の《魔契の
「当時奴らの侵攻を最も食い止めていたのが、ダグラス・フォン・イゼルロット卿であったからな…。痺れを切らし、先に潰そうと画策したのだろう。」
アルヴレイド
「でも、これは勘だけど、それだけじゃない気がするんだよねぇ〜。もし、魔国グラスナーヴァ以外に、狙ってくる勢力といえば…」
ルドヴィクス&アルヴレイド
「魔界…」
二人の声が重なり、しばらく静寂が広がる…。
ルドヴィクス
「………。やはりお前もそう思ったか。魔界…勇者によって封印されて久しいが、その恐ろしさは、民草にも良く知られている。」
「悪魔に外典魔獣。大陸ではウルヴザ大樹海の最深部に居るような化け物どもが当たり前のようにそこら辺を散歩していると言われている。」
アルヴレイド
「…悪魔に至っては、一人一人が一騎当千の猛者で、龍種の次に完成された生命なのに、それが魔界には蔓延っていて、数も億はくだらないらしいしねぇ…。」
「…そんな奴らがあんな派手なことをしてまで付け狙っていた"ナニカ"…。
──例えば、"失われた古代の残骸"とかかな〜?」
ルドヴィクス
「ふむ。……まさか"アレ"か?」
アルヴレイド
「心当たりがあるのか?ルド。」
ルドヴィクス
「ああ、確かイゼルロットに代々引き継がれていると言われている物があるらしい。名は知らぬが、どうやら次元関連の物らしくてな…。」
「もしら、奴らの目的は魔界からの離脱か?」
アルヴレイド
「なるほど…。もし、その公爵家に代々受け継がれてる奴が、別空間同士を自由に行き来できる、いわば"扉"の役割を持っている物だとすれば…。」
ルドヴィクス
「ああ、狙うのも良くわかる代物だろう。」
「魔界は普段、ル・エトワールのダイモスによって、この人間界と隔絶されているが、もし奴らがこちら側への新たな移動方法を手に入れれば…未曾有の大災害へと繋がる…。
──クソッ!もしそうだとすれば、今の内に打てる手を打っておかねば!」
アルヴレイド
「まぁまぁ落ち着いて、ルード。まずはゆっくりと対策を考えよう。
焦っても何も生まないでしょ?」
ルドヴィクス
「そうだな。すまない…熱くなっていた…。改めよう。だがやはり、打てる手は打っておきたい…。備えあれば憂いなしだ。」
アルヴレイド
「そうだね…。じやぁ、とりあえず俺は"フィアリア"殿のところへ行ってみるよ。彼女は魔界に最も近いからね。」
ルドヴィクス
「ああ…頼む。俺は別でダイモス卿の元へと赴こう。既に気づいておられるかも知れないが…行ってみる価値はある。」
アルヴレイド
「あれ?ルードって…ル・エトワールの人たちと関わりなんて持ってたっけ?」
ルドヴィクス
「それなりにな。特にアンタレス卿とは仲良くやらせてもらっている。
そして、アンタレス卿繋がりで、ダイモス卿に会えないかを打診してみるとしよう。さて、善は急げだ。早速書簡を送っておこう…。」
アルヴレイド
「俺も後日赴くよ。それじゃあ気をつけて。」
ルドヴィクス
「ああ。何かあればまた連絡を寄越すと良い。」
──そうして、二人の王は今日も奔走する。
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