第4話 強欲の頁

コン…コン…コン


ガチャッ…


資産家の男

「こちらになります…」


 男がそう言うと、大きな図書室が目に映る。


 古びた本棚が、壁一面にずらりと並んでいる。だが手入れは行き届いていない。


 ランプの仄暗い光に照らされ、埃が舞い上がった。


資産家の男

「元々…とあるオークションで手に入れた物でしてね…?凄く前の物らしいんですが、装飾が気に入りまして、買い取った所存です。」


「それなりに値が張ったので、盗まれたと知った時は、本当に気分が落ち込みましたよ…」


アルセリオ

「なるほど…それは災難でしたね。」


 そう言いながら、アルセリオはあたりをくまなく見て回る。


アルセリオ

(虫食いが酷ぇな…埃も多い…)


「あの、誰に盗まれたとかの見当はついているんですか?」


資産家の男

「それが…まったく。まぁ珍しい物なので狙われたのでしょうが…困ったものです。」


アルセリオ

「どれぐらい、大切にしているもので?」


資産家の男(必死に)

「はい…それは本当に、心から大切にしています。」


アルセリオ

(この感じ…執着に近いな…件の古文書…やべぇ代物なんじゃねぇだろうな…)


アルセリオ

「分かりました…。とりあえず、色々とあたってみます。何か進展したら、また来ますね。」


資産家の男

「はい…よろしくお願いします。」


 そうして、アルセリオはその場を後にする。


  ***


──アルセリオは街中を歩きながら思考する。


アルセリオ

(それにしても…随分とやばそうな話だったな…ちょっと見回っただけでも、珍しい本ばかりだった。

 どうやら、相当な収集家みてぇだな。)


アルセリオ

「心当たりがあるとすりゃあ…」


 古文書を買い漁っていた依頼人の顔が、ふと脳裏をよぎる。


 そう考えて、彼は向かう方向を変える…。


  ***


カランカラン…


シグルド

「おっ?戻ったか。それで?犯人が誰か分かったか?」


アルセリオ

「いや…流石にまだだ。俺はエスパーじゃねぇんだぞ?…まぁだが、少し気になってる事がある。」


シグルド

「ほぅ…?聞かせてみろ。」


アルセリオ

「資産家の自作自演の可能性だ。」


シグルド

「そんなに挙動不審だったのか?」


アルセリオ

「いや。そう言うわけじゃ無いんだが…違和感を感じた所が合ってな?」


シグルド

「違和感……?」


アルセリオ

「ああ。奴の図書室に入らせてもらった時、大切にしてるって言ってた奴の顔が、少し執着じみててな?ちょっと引っかかったんだよ。」


シグルド

「よくある話だろ?執着するほど気に入ってたとかよ。」


アルセリオ

「そうだな。そう思うだろう。かく言う俺も納得はいった。だがな、それにしては…図書室の本の手入れが行き届いて無かったんだよ。

 ちょっと埃がついてるだけならまだしも、不自然に虫食いしてたり、本棚で、シリーズ物の本がバラバラにおいて合ったりな。


──それに…あいつ、古文書の話をしてる時だけ、微妙に目が泳いでた。」


シグルド

「そりゃあ…確かに変だな。その線は危惧しとかなきゃならなさそうだ…」


 自分の中の思考に入っている二人に、唐突にある情報が入れ込まれる。


レオナール

「おい!アル!!」


アルセリオ

「どうした…?レオ。」


レオナール

「また…例の殺人事件が起きたんだが…その被害者が、あの依頼人なんだよ!!」


アルセリオ&シグルド

「……っ!?」


シグルド

「おいおい…。早速外れか?」


アルセリオ

「マジかよ…本当に無差別だな…」


シグルド

「面倒な事になりやがった…行くぞ、アル。」


アルセリオ

「ああ、急ぐぞ。」


 二人はレオナールと共に現場へ赴く。

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