飛空船の冒険団

あるとらす

第一章

第0話 飛空船

 二人の少年ムーンとライトは、ある洞窟にて――


「ムーン、来るぞ」


「分かってる!」


 ムーンは叫び声とともに、岩を蹴って横に飛んだ。次の瞬間、黒くねばつくような触手が地面をえぐり、石片が飛び散る。


 洞窟で対峙したのは、触手をまとった生き物であった。粘液に包まれた身体、鈍い光を放つ眼、動きは素早い。


「こいつ、どこから湧いてきたんだよ……!」


 ライトが短剣を構え直しながら、ムーンと横に並んで位置をとる。冷や汗が頬を伝い、洞窟の湿気に溶けていく。


「どうする!? 行き止まりだぞ!」


 2人は行き止まりと生き物に挟まれた状態になる。


「串刺しだ」


 ムーンが声を上げ、洞窟の地面に向かって開いた手を向ける。その瞬間、地面から一本の岩槍が触手の生き物を貫く。


ギギッ!!


 貫かれた触手の生き物は虫特有の音をあげ、動きを止めた。


「ふぅ、やったな」


 ライトに向け、笑顔で親指を上にあげる。


「おい、てめぇ……洞窟で習ったばっかのゲースの魔法使うなっておっさんから言われたよな?洞窟が崩れたらどうする」


 そう怒気を込めて、ライトは安堵していたムーンの襟を掴み、そのまま前後に力強く揺らす。


「すまんすまん、でも非常時だから、な?」


「他にも魔法あったろ、お前が新しく覚えた魔法を使いたかったからじゃなきゃな」


「んなわけ、ないじゃん?流石に焦って咄嗟にだよ」


 ムーンは仕方なかったと言わんばかりの表情をライトに向ける。


「嘘だろ、だったらなんで――」


ギチギチ……カサカサ……ジュブッ......ドゴッ


ライトの言葉を遮るように不快音が洞窟に響き、何か地面が抉れる音も聞こえる。


「「!?」」


 それに気づいた2人は音がした方に目をやる。


 そこには絶命したかと思われた触手の生き物が最後の足掻きか、不快音を発しながら地面に何十本の触手が、潜り込んでいっていた。


ゴゴゴゴ……ッ!


 地鳴りが洞窟内に満ちた。壁がきしみ、天井から細かい砂粒と石片がぱらぱらと降り注ぐ。


「こいつ!なんかやばいぞ!」


 ただ暴れているわけじゃない。これは“何か”を起こそうとしている動きであった。


「う、うわああああああっ!」


 ムーンの叫びが、崩れ始めた天井の轟音にかき消される。


ゴゴゴッ……ドォン!


 遅れて洞窟全体が揺れた。天井が崩れ、岩壁が裂ける。地面の足元がぐらりと傾き、ムーンとライトは体勢を崩す。


「やべ、足場が――!」


 その言葉の直後、岩盤が大きく裂け、二人の身体は重力に引かれるように闇の奈落へと落ちていった。


ドボォン!!


 激しい水の衝撃が全身を包み込む。そこは自然とは思えない、滑らかに削られた岩肌と直線の通路が続く、人工的な地下水路だった。水の勢いに押されて、二人はあっという間に流されていく。


 激しい流れはやがて緩やかになり、ムーンはなんとか通報に登る為であろう梯子に手を掛け、水面に顔を出した。


「ぷはっ......!、どこだここ……」


 水が流れ着いた先、地下の空間とは思えないほどの開けた場所に出ていた。天井の中心には大きな穴ができており、そこからまばゆい陽光が差し込んでいる。金色の光が、濡れた岩肌や水面に反射し、空間全体を幻想的に照らしていた。


 水路は大きな人工池のような場所に繋がっており、その周囲には古代の文明を思わせる巨大な石造りの柱や、苔むしたアーチがそびえている。


「……遺跡、か?」


 声に出してから、ムーンはようやくその場所の異質さに気づいた。


 天井の抜けた穴からは外の風が入り、地上の鳥の鳴き声まで聞こえてくる。だが、それは“ここが地上に近い場所”ではないという証拠にはならなかった。むしろ――


「地下に……こんな場所が……」


 遅れて流されてきたライトも、水面から顔を出し、辺りを見回して目を丸くした。


「なんだこれ……洞窟の先に、こんなもんが……」


 天井から差し込む陽光と、静まり返った空間。人工池の中心部――そこにあったのは、古びた巨大な“何か”。長い年月を経てなお存在感を放つ。


「……あれ、船か?ははっ、こんな所があったなんて……リアラにも見せたかったな……」


 そう言い、ムーンがその船を……見たことのない光景を見惚れたかのようにずっと見続ける。


 そして、この船が世界を切り開く。



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