第17話 カラオケ
徐々にみんな酔いが回り、部長の武勇伝が始まった。「おれが若いころは、上司に言われれば酒なんて一気に飲んだもんだ」。若者の表情が曇る。ここはカラオケに部長の意識を持っていこうと思い、「部長、ここらで一曲どうですか?」とデンモクを渡す。「おお、そうか。」カラオケ好きな部長は上機嫌になる。「なに歌おうか?」「ここは十八番のハマショウの『もうひとつの土曜日』じゃないですか?」事前に課長から聞いていた情報をもとにぶっこむ。「ああ、よく知ってるな。それでいこう」部長の少し音程とテンポがズレる「もうひとつの土曜日」が店内にこだまする。他に好きな男のいる女を想う歌詞が切ない。
岸くんが少し笑いながら耳打ちしてくる「聞いたことない歌ですが、少しズレてます?」「超有名な歌だよ。とにかく手拍子して、サポートしとけ」と笑い合う。
部長の歌が終わり、みんなの拍手喝采に上機嫌だ。「次、岸くん歌ってみろ」と部長が岸くんに振る。
さて、ほとんど酒が飲めない若者はこの無茶ぶりにどうするのか。「係長、こんなとき、なに歌えばいいんでしょうか?」と聞いてくる。「まあ、スナックのカラオケなんて、下手で当然で自分が歌って気持ちのいい歌を入れていいけど、みんなが知ってる歌だと盛り上がるよね」と教える。「ははあ。なるほど」とうなずく。曲のイントロが入る。
DA PUMPの『U.S.A』だ。俺は入った瞬間に笑う。「いい。いいよ岸くん!」岸くんは酔ってもいないのにノリノリで歌う。場が一気に盛り上がる。部長も手をたたいて笑っている。
次の曲は「恋するフォーチュンクッキー」が入っている。たぶんとなりの香織ちゃんだなと予想する。香織ちゃんもノリがいい子なので、立ち上がって歩きながらフリ付きで歌う。アイドルか!カウンターの中でゆうきちゃんも踊っている。丸の内ちゃんもつられて踊り、店の中は大盛り上がりとなる。歌い終わって戻ってきた香織ちゃんが「向こうのカウンターにめっちゃ美人いるよ。いっしょに踊ってくれて、私が照れちゃうくらい」と小声でみんなに伝える。「へえ。お近づきになりたいもんだな」ベテランの清水さんが赤い顔をして言う。
しばらくして、ちょうどトイレから返ってきた丸の内ちゃんがボックス席の近くを通りかかる。「あ、さっきはどうもねー」と言って香織ちゃんが引き留める。(うお。さすがおばちゃんパワー)「あ、いえいえ、私も楽しかったです」丸の内ちゃんは笑顔でさらりと流す。男性社員は目が釘付けだ。「お礼に一杯飲んでいってよ」と香織ちゃんが誘う。俺は(断っていいよ)と必死にジェスチャーするが、「じゃあ一杯だけ」と言って香織ちゃんが避けた俺の隣の席に座る。「うおお。どうぞどうぞ」うちの男子が盛り上がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます