第7話 オールド・クロウ
第四章 オザケン
弱った吸血鬼ヅラをしながらもスナックのいいところをつぶさないように受け入れつつ、いろいろ牽制して距離をとろうとしてみるが、相変わらず丸の内ちゃんはぐいぐい絡んでくる。次はオレの飲んでるオールドクロウのロックに興味を示し「なに飲んでいるんですか?」と聞いてくる。
「バーボンのロック」と返答。すかさず「バーボンとは?」向こう側から、ポッチャマが「ウイスキーの一種だよ」と苦虫を噛んだような顔をして声を挟む。オレは気にせず「そう。平たく言えばウイスキーの一種。アメリカのケンタッキー州で主にとうきびから作られたウイスキーをバーボンっていう。ロックで飲むのは水で薄めるとウイスキーの香りとか、味が薄くなってまずくなっちゃうから。バーボンは独特な香りを楽しむ酒なので、ロックかストレートで飲んだほうがいい」とオタク特有の早口で語り、「ゆうきちゃん、ショットグラスちょうだい」と、頼む。
ゆうきちゃんは「一気に飲んじゃダメだよ」と、丸の内ちゃんに笑いながら言う。ショットグラスにオールドクロウの琥珀色の液体を少し入れ、丸の内ちゃんに渡す。強い酒をストレートで飲んだ経験があまりないらしく、匂い立つ香りにかなりビビッてる様子。「これふつうに飲んでいるんですか?大人ですね」なんて言って、ちびりと飲む。「あー。喉が燃えるー!」と少し赤くなって笑う丸の内ちゃんに見惚れてしまい、笑ってごまかす。ポッチャマの舌打ちが聞こえそうだ。
そんなかんじで盛り上がっていたら奥のボックス席の丸の内ちゃんの連れがやってきて、そろそろ帰るよと言った。うむ。そりゃ女の子1人、こっちにきちゃったらつまらんよね。
丸の内ちゃんは席を立つ前に「最後になんか歌ってください!」と言ってきたので、「歌えるかどうかわからんけど、なんか好きな歌ある?」と伝える。すると「私、オザケン好きなんです」とはにかみながら言う。オザケンって小沢健二?あの?と聞きなおす。(あれ、ほんとはこの子いくつだろう??オザケンのど真ん中は40半ばくらいじゃね??)といろいろ疑問が浮かぶ。
そして「オザケンは1曲だけ歌えるのがあるわ。「ラブリー」だけどそれでいい?」と伝える。(この曲、昔の彼女が好きだったんだよな)と心でつぶやく。刹那、別れ際の苦い思い出が甦る。泣きながら「あなたは本当に幸せになる気があるの?」と言う元カノが現れる。「大丈夫ですか?怖い顔してる」心配そうに覗き込む丸の内ちゃんを見て我に返る。(もう恋なんてしない)心に念を押す。「大丈夫。久しぶりに歌うので思い出していただけだよ」なんとか笑顔をつくる。
オザケンの軽いポップな前奏が鳴り、恋に落ちなくちゃな歌がはじまると、お店全体で手拍子が始まって、丸の内ちゃんと目を合わせて笑ってしまう。『ラブリー』を歌い終わったところで、丸の内ちゃんと同僚たちは地下鉄の最終便に向かって、嵐のように帰っていった。
ふー。おれもそろそろ帰ろうかと思った時に思い出す。『生ノースマン!』ギリギリでゆうきちゃんに渡して、ミッションコンプリート。ゆうきちゃんは「これ、おいしいやつ!」と喜んでくれて、何より。
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