第2話 妖気の森

 俺は帰って、医師の診断を受けていた。医師は聴診器で俺の身体を診察したり、妙な魔方陣でみょんみょんいわせながら俺の全身を調べたりした。


 その音はなんの音なんだ。


 しばらくして、医師は神妙な顔をしていった。




「身体は健康そのものです。なんらかの心因性により記憶喪失がおきたのかもしれませんね」


「恐らく入学式の緊張で記憶を無くしちゃったんでしょう。診てくださってありがとうございます」


「ええぇ」




 医師までなんか得体のしれないものを見る目をしていた。医師は挨拶をすると帰っていく。




 シャーリーと向き合う。今の俺にとっては一番近しい人間だろう。




「というわけだ。シャーリー。俺は入学式という重大な式典の緊張で記憶が飛んでしまったらしい。実家にもそういっておいてくれ」


「ええぇ。……わかりました。原因は不明ですがディーベルド様が記憶喪失というか人格が変わっていることの旨は報告させていただきます」


「頼むよ。それで頼みたいことがあるんだけど……」




 シャーリーが心なしか顔をきりっとさせる。こいつ無感情なやつかとおもっていたけど、結構表情が豊かなやつだな。




「なんでしょうか」


「寝間着気に入らないから、普通のシャツとズボンを用意してくれ」




 この真っ赤なガウンはないわな。




「はあ……確かディーベルド様がお気に入りのものですが」




 心なしか期待外れだったような表情をしている。




「今日から嫌いになったんだ」


「わかりました。用意しておきます」


「あとはこの学院の禁書庫に入りたいんだが、侯爵家の権限ならなんとかなるかな?」




 シャーリーは表情を真剣なものに戻す。




「侯爵家はこの学院の設立にも深くかかわっていますから、禁書庫の立ち入りも許可されると思いますが、禁術の使用はいくらディーベルド様でも犯罪として取り締まられますよ」


「大丈夫だ。ちょっと研究資料として借りるだけだ。それも人の役に立つことだ」


「ディーベルド様が人の役に立つことをするというのが、信じられませんが、わかりました。学院に交渉して近日中に立ち入りを許可していただきましょう」




 ははは。こやつめ、いいよる。それにしても学院との交渉もやってくれるなんて有能メイドだな。




「ありがとう。あと修行をしたい。妖気の森と精霊湖、貪欲の砂漠のダンジョンの場所を教えてくれ」


「怠惰といわれたディーベルド様が修行を……しかし、いくらディーベルド様でも貪欲の砂漠は死にますよ。こちらが学院の地図になっています。ダンジョンへの扉も書かれています」




 いくらディーベルド様でも、というは幼いころのディーベルド様は神童とよばれていたのだ。しかし怠惰な性格のせいでその技術は錆びついている。そんなでもゲーム内で戦うと異様に強いんだからたまったものじゃないね。それはともかく。


 近くの棚から学園の地図を取り出してくれるシャーリー。




「大丈夫。無理そうだったら妖気の森で帰るから」


「是非そうしてください。ディーベルド様がお亡くなりになったら、私の首も飛びますので」


「……マジか。無理はできないな」


「はい。マジです」




 それは、本当に死ぬわけにはいかない。俺が死んだらこの子も責任を問われて殺されてしまうのだから。安全第一で行こう。




 常備していた回復アイテムを持って、俺はディーベルドの装備を着た。赤と黒でデザインされた防具と剣だ。恰好まで悪役をしている気分だ。上位装備を手に入れた暁には絶対更新してやる。




 俺は学園の端っこにある森に面した転移門の前に立った。ここからが、俺のやりたいことの始まりだ。ひとつ深呼吸。身体の空気を入れ替える。


 俺は転移門へと足を踏み込む。転移門は俺の身体を螺旋状に変化させながら吸い込んだ。




 次の瞬間、紫色の木々に囲まれたおどろおどろしい森に立っていた。後ろには転移門が見える。まずはマンドラゴラの収穫と、アインツベルの指輪の回収か。




 妖気の森を探索していく。ピクシーがあらわれた。底の見えない闇の瞳を持つ、頭に花が咲いた人型大根だ。手を振り上げて、緑色の魔力弾を放ってくる。俺は横にステップすると、木にぶつかった。




 気を取り直して術後硬直のピクシー近寄って切った。ピクシーは身体を瘴気に還ると、消えていく。ピクシーの下には花弁がドロップしていた。拾う。なんだこれ?早すぎる。ゲームのときとキャラクターの反応が違いすぎる。これは、強くなれるぞ。




 俺は戦闘後にその場で何度かステップをしたり、素振りをしたりして、自身に新しい感覚を刻み込んだ。これでマシになったらいいが。




 道中でてくる、ピクシーとゴブリンは排除していく。経験値稼ぎになるからな。


 ところどころに見覚えのある地形があるので、マンドラゴラの群生地に行くのは苦労しなかった。


 俺は耳に綿を詰めてマンドラゴラの葉を握って引き抜いた。




『あああああああああああああああああああああぁ!』




人の叫びにも似た声が辺りに響き渡る。しばらく抜いて状態で放置しておく。叫びが辺りに響き続ける。叫び声に引かれた魔物たちが近寄ってくる。俺は回避の練習をしながら一匹ずつ確実に処理をしていった。




 100匹は倒しただろうか。ようやくマンドラゴラの声が止んだ。拾って袋に仕舞い込む。これで3分の1だ。マンドラゴラを手に入れた!




 そうして転移門のところに戻ると、今度は逆の道を進んでいく。


 ピクシーやゴブリンは倒していく。レベルアップの実感がないな。シナリオによってはディーベルドを複数回戦うことがあるが、その度に強くなっているからディーベルドにもレベルアップあるはずなのだが。


 強くなっているのだろうか。分からない。メニュー画面とか開けたらいいのにな。




 反対側の道はしばらくして分岐していた。右の道に行くと行き止まりになっていた。ここだな。


 俺は行き止まりのさらに奥に進む。すぐに円状の広場が見えた。広場の中心には錆びた指輪が落ちている。これだなっと。俺は指輪を回収してポケットに仕舞い込む。アインツベルの指輪をゲットと。




 これで、後はボスを倒すだけだ。分岐していた道まで戻って、左の道に行く。




 そこには大きな妖樹が生えていた。トレントだ。根をうねうねと動かしながらこちらに近づいてくる。俺は手を向けた。




「火柱フレイムピラー」




 妖樹の足元に現れた魔方陣から、火柱が迸る。全身が一斉に炎に包まれて、やがて、倒れた。魔法の一撃でボスモンスターがやれるのか。


 魔法の威力も申し分ない。というか無意識に魔法を使えたな。これでゲームのボス並みに体力があったらマジでチートだ。


 敵は瘴気に還って、トレントの大木をドロップした。アイテム袋に仕舞い込む。


 現在のところ、敵が弱すぎて、自身がどれだけ強いのか分からないな。


 トレントが最初に生えていた場所にできた帰還門に足を踏み入れた。

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