隣に越してきたゆるふわ美少女が毎晩飯テロしてくる
なっくる@【愛娘配信】書籍版発売中
第1話 ウチの隣は可愛い飯テロリストさん
ぴんぽ~ん!
夕暮れ迫る初夏の午後七時。
仕事を終え帰宅したばかりの僕の耳に、量産品のインターホンの呼び出し音が届く。
「うわ、もう彼女が来る時間!? 残業で遅くなったせいだよ」
急いで身だしなみを整える。
スーツは着たままでいいや。
手櫛で髪を整え、鼻毛が出ていないかチェックする。
……ぼっちオタリーマンである僕、
なら彼女は何者かというと……。
かちゃん
「ごめんね、待たせちゃって。今帰って来たばかりだったから」
いそいそとキーチェーンを外し、ドアを開ける。
ドアノブを回す手が、僅かに震えた。今日も耐えきれるだろうか……そんな考えが脳裏をよぎる。
「そうだったんですね。すみません涼くん。できたてを食べて欲しかったんです」
そこにいたのは、僕より少し背の低い少女。僕のことをあだ名で呼んでくれる、とても可愛い女の子だ。
「今日は、きのこのリゾットを作ってみました♪」
ミトンをはめた両手でホカホカと湯気が立ち上るお鍋を持ち、満面の笑みを浮かべている。
「えへへ、涼くんのお口に合うといいんですけど」
恥ずかしそうにはにかむ女の子は白いセーラー服姿で、可愛いブタさんのアップリケが付いたエプロンを着けている。
「今日こそ、自信作ですから!」
赤い眼鏡のフレームが、きらりと光る。
片側だけサイドテールにしたゆるふわミドルヘアー。
膝丈の白いスカートからは、黒タイツに包まれた程よい肉付きの脚が伸びる。
オタクの好き要素を全てぶち込んだようなお清楚女子高校生。
彼女の名前は望月ひより(※偽名)。
近くにある中高一貫学園の看護科に通う三年生で、二週間ほど前にウチの隣に引っ越してきた。
「そうなんだ。た、楽しみだなぁ」
とあるきっかけで、毎日夕食を作ってくれる関係になった美少女だ。
「それじゃ、上がって。ご飯を炊くのは間に合わないから……パンを出すよ」
「はいっ♪」
望月さんは一度鍋を戸棚の上に置くと、綺麗な所作でローファーを脱ぎ、きっちりと並べる。
「おじゃまします」
そして僕に一礼。
動作の一つ一つから育ちの良さを感じる。そんな彼女は……。
「もう一度温め直しますので、コンロ借りますね」
「あ、うん」
望月さんはそのままパタパタとカウンターキッチンの奥へ。
「……ふぅ」
帰宅してすぐ、お隣の美少女女子高生が制服姿で手作り晩ごはんを持って来てくれる。
考えうる限り、最強に都合がいい妄想を煮詰めたような状況である。だけど。
「ふぅ~」
もう一度深呼吸した僕は、丹田に力を籠める。
胃腸の調子を、整えておかなければ。
「今日も完食する……絶対に倒れない!!」
気合を込めて、そう宣言する。
そう、望月さんの作る晩ごはんは……使う食材が独特なのだ。ゲテモノと表現してもいい。
昨日は特にヤバく、彼女を見送った後ぶっ倒れて朝までトイレにこもっていたくらいだ。
そんな彼女の料理を、なぜ僕が毎夜耐えているのか。
「ふんふ~ん、もう少し煮詰めて。想いをたっぷり乗せて~♪」
キッチンから望月さんのゴキゲンな鼻歌が聞こえてきたので、廊下からそっと様子をうかがう。
「……隠し味を、入れちゃいましょう」
ささっと左右を確認すると、制服の胸ポケットから小瓶を取り出す望月さん。
小瓶には白い粉が入っていて、ご丁寧にドクロが描かれたシールが貼られている。
「ふっふっふ、誰にも見られていませんね? 毒を盛る予行演習はばっちりです!」
うん、そうだね望月さん。
僕が見ているし、全部聞こえているよ?
「えいっ♪」
可愛い掛け声と共に小瓶の蓋を開け、怪しげな粉をリゾットに振りかける望月さん。どう見ても粉チーズではない。
(う~ん、恐らくタロイモから抽出したシュウ酸カルシウムかな。なら大丈夫か)
ちょっと……いやかなり口がイガイガする系のえぐみの元。
初日の放電系食材や、昨日のアロエ(の外皮、お腹がピーピーになる)よりよほどましである。
「よし、ばっちり! 涼くんのお陰で、わたしは隠し味の隠蔽技術を学びましたっ!」
リゾットをかき混ぜる望月さん。
シュウ酸カルシウムの顆粒は、リゾットの中に溶け消えた。
(そうだね、ばっちりじゃないね。いろいろ盛ったね望月さん)
隣に住む清楚で可愛い望月さんは、僕を練習台に毒盛り料理を研究する系女子高生だった。
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