第5話

 彼と話すようになって、なんども驚かされてきた。彼はただの蝉ではない。そう考え始め、彼が本当に蝉なのか疑問に思うようになってきた。


 「君はとても詳しいね。僕ひとりでは辿り着けない答えに、簡単に辿り着く」


 「いや、そんなことはない。あくまでもこれは俺の見解だから。俺の考えが万人に正しいと思ってもらえるとは限らない。俺は俺の考えを信じているが、所詮俺は蝉だ。わからないことの方が多い」


 それでも、私にとっては衝撃的だった。彼ならこの地球が丸いことを理解しているのではと考えるくらいには。


 「地球が丸いことを、君は知っているかい?」


 「そんなことはさして重要ではない。丸かろうが四角だろうが、俺が世界の端という、そんな場所にいくことはないのだから。それに、地球は地球自体の引力で引かれているのだから、丸いのは当然と言えば当然だ。形が不出来だろうが、しかくになることはないだろう?」


 完敗だった。


 そのあともしばらく話したのだが、彼は一度席を外した。昼食を摂りに行ったらしい。少し早いような気がした。


 私は彼からたくさんの考えを貰ったが、私からはなにも与えることができずにいた。きっと彼はなにも求めちゃいないだろうし、私が彼に与えられるものも少ないだろう。しかし私は対等な関係として、与えられるだけではいけないと、そう思った。


 食事から戻ってきた彼に、なにか欲しいものはないかと訊ねたが、やはりなにもなかった。


 「些細なことでいい。なにか、君に」


 「対等であるということは、与え合うということではない。対等であるということで、それだけで、なにかを与え合っているのだから」


 「私にはわからない」


 「頑張って理解しな。物書きをしているのだろう。そうだ、どうしても恩返しをしたいというのなら、話を聞かせてくれないか。君の話でいい。なにか君がしっている物語の話でもいい。聞かせてくれ」


 「そんなことでいいのなら」


 私は話した。私のこれまでの歴史を。面白味のある話ではないが、それでも蝉は真剣に聞いてくれて、時には気持ちのいい相槌をうってくれた。


 私は誰かに話を聞いてほしくて、物書きをしてきたのかもしれない。そう思えるほど、その時間は楽しかった。彼も、楽しかったならいいなぁ。


 これは私の自論だが、対等な関係とは、互いが対等であると認識したときに結ばれるものではないかと。


 十一日目が過ぎた。

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