痛覚を消す薬

 

第1話

男1「お前、この注射を打て」


男2「なんですか? これ?」


男1「痛覚を消す薬だ。戦場で痛覚なんてあったら戦いに支障が出るからな」


男2「へ〜、伊藤計劃の『虐殺器官』みたいですね。でも僕は嫌です。使いたくありません」


男1「なぜだ?」


男2「だって痛覚がなくなったら、自分が死んだことに気づかないかもしれないじゃないですか。僕は幽霊にはなりたくないんです。ずっと彷徨ってたら、いつまでも天国に行けませんもん」


男1「人を殺して天国に行けるとでも?」


男2「行けますよ。もともと仕掛けて来たのはあいつらなんですから。……先輩は職務で死刑囚を殺した刑務官が地獄に堕ちると思ってるんですか? それと同じですよ」


男1「俺は堕ちると思っている。どんな理由があれ人を殺したのなら等しく地獄行きだ。たとえ、親の人工呼吸器を止めた場合でもな」


男2「ははは。面白いですね」


男1「何がおかしい?」


男2「ここまで意見が噛み合わないならどっちかが必ず間違ってますよ。だって、信仰してる宗教によって死後の扱いが変わると思いますか? そんなの絶対にありえないですよ」


男1「そんなことはない」


男2「そうですか? それなら、人を殺しても天国に行けると教えている宗教があった場合はどうです?」


男1「……」


男2「あーあ。こんなことになるなら、教祖が説法を説く前に『これはあくまで僕の意見です』って言って欲しいですよね。……先輩の言った通りになったら嫌だなぁ」

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痛覚を消す薬   @hanashiro_himeka

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