明滅するはんぶんこの夜

九条律志

明滅するはんぶんこの夜

掃除機の音が止んだあと

部屋には 沈黙が粉雪みたいに降り積もる

床に残ったのは わたしたちの欠片

拾おうとしても 指先からこぼれていく


窓の外 信号が明滅しながら

まるで呼吸みたいに 夜を続けている

そのたび胸の奥で

言葉にならない想い病が ふっと疼いた


「はんぶんこにしよう」って

あなたは笑ったけれど

未来は分けられなかったし

悲しみは均等じゃなかった


掃除機のコードを巻き取るみたいに

戻せたらいいのにと思う

絡まったままの時間も

抜け落ちた温度も 


欠片はもう 名前を忘れた光の粒になって

テーブルの端で微かに明滅している

触れたら消えそうで

離れたら二度と出会えないみたいだ


それでも最後に あなたが残した言葉だけは

はんぶんこにならなかった 

全部 丸ごと この胸にある 


だからもう 掃除機はかけない

散らばった欠片のままでいい

想い病が治らなくても

いつかこの明滅が 静かな灯りになる気がするから

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明滅するはんぶんこの夜 九条律志 @cheshirecat1046

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