路上占い、あれこれ84【占い師は聞く、聴く、訊く】

崔 梨遙(再)

今回は2252文字ですよ-!

 僕が夜のミナミの路上で占いをしていた頃の話です。



「座っていいですか?」


 見ると、20代の前半か半ばの女性。学生には見えない、OLか? こう言っては失礼だが身長、スタイル、顔、全て平均的だった。よって、興味は無かった。


「どうぞ」

「はい、ああ、歩きっぱなしだったから座れるのが嬉しいわぁ」

「大荷物ですね、ブランド物ばかり」

「ボーナスが入ったから、自分へのご褒美なんです」

「今日は何を占いましょうか?」

「え! ちょっと座りたかっただけなんやけど・・・そうねぇ、結婚かな?」

「結婚運、いつ頃結婚するか? 見ればいいですか?」

「あ、でも・・・正直、譲れない条件はあるの」

「どんな条件ですか?」

「私、1人娘やから婿養子がええねん」

「はい、では占います」

「待って、もっと聞いてや。ほんで、身長は180センチくらい、背が高い人がええんねん。それから・・・やっぱりイケメン? イケメンがええなぁ・・・それから、私はその人のことを好きになるんやけど、それ以上にその人は私のことが好きで、愛してくれて・・・いややわ、照れるわ」

「では、占います」

「待って! 聞いて!」

「いや、どんな条件だろうと占えますよ。婚期とか」

「聞いてほしいねん。ここまで話したんやから」

「はい、では、どうぞ」

「ほんで、年収は1千万以上やなぁ・・・そこは譲られへんわ。私、玉の輿に乗りたいもん。長男は嫌、相手の親の老後の面倒は見たくないから。私の両親の老後は見て欲しいけど。それから・・・それから・・・」


「・・・そんなもんかなぁ、ほな、占ってや」

「はい・・・あ、数年は無理ですね」

「なんで? なんでアカンの?」

「いやぁ、男性は現れるのですが・・・お相手が火の気質なんです」

「だから?」

「火は濁らず汚れず、美しい精神性の持ち主です。水は濁りますが火は濁りません。そして、外見も美しい可能性が高いです」

「ええやん、それのどこがアカンの?」

「火は何も残さず消えます。貯金、貯蓄には向かないんです。収入面で、お客様の条件をクリア出来ないと思います。ですから、当分は無理だと判断しました」

「そうかぁ・・・イケメンで貧乏かぁ・・・ツライなぁ・・・でも、貧乏人に用は無いからなぁ・・・」

「でしょう? そういうことです」

「でも、私、脱いだら凄いんやで。Eカップのウエスト58センチ。どう?」

「いや、だからといって結婚運はアップしませんよ」

「そうかぁ・・・宝の持ち腐れやなぁ」

「失礼ですが、その理想で今までのご経験は?」

「え? 学生時代の1人だけ。イケメンやったから、処女を捧げるにはええかなぁと思っただけ。早く処女を捨てたかったから」

「ご多幸をお祈りいたします」

「ちょっと! 勝手に終わらせんといてえやぁ」



 いったい僕は何を聞かされていたのだろう? 疲れた。帰ろうかなぁ・・・。


「すみません、占ってください」


 男子中学生の3人組。最悪や・・・。


「君達、中学生やろ? もう遅いから帰ったら?」

「お兄さんは、若い頃夜遊びせえへんかったんか?」

「・・・夜遊びしてたわ」

「ほな、ええやんか」

「わかった、わかった、何を占うねん?」

「俺、彼女できるかな?」

「好きな女子はいるんか?」

「あ、かわいいと思う子は沢山いるけど、好きな子はおらへんわ」

「ほな、特に決まった相手はいないということで恋愛運を・・・」

「待って、爽子って女子がいるねん。その子との恋愛でお願い」

「はいはい、爽子ちゃんね・・・」

「おい、タカシ、なんで爽子やねん?」

「だって、あいつやったらスグにやらしてくれるやろ?」

「なんでやねん、女は育てるのが楽しいんやんけ」

「そういう君、女性経験は?」

「え? まだやけど」

「育てたこと無いんかい!」


 ああ・・・僕はいったい何を聞かされているのだろう?



 もう帰る!


 片付け始めたら声をかけられた。振り向くと、まあまあキレイなOL風。顔は美人とは言えないがブサイクではない。姿勢の良さと上品さが好感を持てる。服のセンスもスタイルも悪くない。背は高そうだ。


「あの・・・もう終わりですか?」

「はあ、占いましょうか?」

「お願いします」

「じゃあ、どうぞ」

「あの・・・私、細〇〇ラシャの生まれ変わりなんです」

「え! そうなんですか?」

「はい! 間違いないです。信じていただけますか?」

「はあ・・・そこまでハッキリ言われたら信じますが・・・」

「私、細川〇興様に抱かれていたのがよくわかるんです。戦国の女の悲しさも寂しさもわかるんです。間違い無いです。私はまた細川〇興様の生まれ変わりに出会える」でしょうか?」

「普段は易者の僕の方から訊くことは無いのですが、どうしてご自分がそうだとわかったのですか? 霊能者に見てもらったんですか?」

「いえ、私自身、そうだと自覚しているだけです。霊能者に見てもらったわけではありません」


 まさかの自己申告かよ!?


「いつ頃から、ご自分の前世がわかるようになったんですか?」

「え? 2,3ヶ月くらい前からです。それまでは、自分のことをジャン〇・ダルクの生まれ変わりだと勘違いしていました。その前は、自分はナイチ〇・ゲールの生まれ変わりだと勘違いしていたのですが・・・でも、今度は間違い無いと思うんです。信じてもらえませんか?」



 ああ、僕は何を聞かされているのだろう? 人の話を聞くのも占い師の仕事だとわかっていても、何故か疲れる時がある。路上には不思議な人がいる。明日も、僕は聞いて、聴いて、訊くのだろうか? 気付くと終電も過ぎて、街は華やかさが半減していた。風が吹き、僕の心は少し寒く、少し虚しくなった。そんな夜だった。




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路上占い、あれこれ84【占い師は聞く、聴く、訊く】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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