死神さんと花嫁ちゃん

葦葉

第壱話・はじまり

 ―――まるで、御伽噺に出てくる王子様のようだと思った。



「私の『花嫁』になってくれるかい?」



 何も意味が分からないのに、知らないのに。

 その真っ直ぐな瞳に惑わされて。


 あたしは思わず、その手を取ってしまった―――。







 朝の澄んだ空気が蒼穹の空に広がる。

 ウグイスの囀りを聞きながら、煤竹色の髪を二つにまとめた少女は鼻歌を唄っていた。


「てっんぐさんのっ、おっはなは〜♪ 〜〜〜♪」


 炊き立てご飯のほっとする香りが当たりを包む。……と言っても、食べるのは、雑穀や山菜と一緒に混ぜて炊いた糅飯……を、汁で薄めた雑炊なのだけど。

 それが少女は好きだった。

 隣人は文句を言うけれど……亡くなった母さんが作ってくれた料理を思い出すから。


「起きなさい、! 早く起きないと、朝御飯拔きにしちゃうんだからね!」


 少女はしゃもじを手に、割烹着姿のまま、隣の部屋の襖を開けた。

 使い古した敷布団の上には、今日も今日とて隣人が立て籠っているであろう布団の塊がある。


「うぅ……あと十二時間だけ〜……」

「堂々と半日寝るつもりじゃない!」


 少女が勢いよく布団を引っぺがすと、寝間着を大きくはだけさせた白髪の美少女の姿があった。

 まだ目が覚めきっていないのだろう。白髪の彼女は大きな紅い瞳を潤ませて、煤竹色の髪をした少女を見上げる。


「ひどいよお、ちゃん!」


「ひどいもんですか。あーあ、人間にお世話される妖怪さんなんて、情けないったらありゃしないんだから!」

「妖怪じゃないし、神様だし〜。」

「どっちも対して変わらないわよ。」


 二人の少女は軽口を叩き合いながら、寝室を後にした。



 ―――時は大正。


妖怪たちに支配されたこの世界で、人類は妖怪の支配下に身を置くことで順応し、種を繁栄させていた。

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