死神さんと花嫁ちゃん
葦葉
第壱話・はじまり
―――まるで、御伽噺に出てくる王子様のようだと思った。
「私の『花嫁』になってくれるかい?」
何も意味が分からないのに、知らないのに。
その真っ直ぐな瞳に惑わされて。
あたしは思わず、その手を取ってしまった―――。
*
朝の澄んだ空気が蒼穹の空に広がる。
「てっんぐさんのっ、おっはなは〜♪ 〜〜〜♪」
炊き立てご飯のほっとする香りが当たりを包む。……と言っても、食べるのは、雑穀や山菜と一緒に混ぜて炊いた糅飯……を、汁で薄めた雑炊なのだけど。
それが少女は好きだった。
隣人は文句を言うけれど……亡くなった母さんが作ってくれた料理を思い出すから。
「起きなさい、死神! 早く起きないと、朝御飯拔きにしちゃうんだからね!」
少女はしゃもじを手に、割烹着姿のまま、隣の部屋の襖を開けた。
使い古した敷布団の上には、今日も今日とて隣人が立て籠っているであろう布団の塊がある。
「うぅ……あと十二時間だけ〜……」
「堂々と半日寝るつもりじゃない!」
少女が勢いよく布団を引っぺがすと、寝間着を大きくはだけさせた白髪の美少女の姿があった。
まだ目が覚めきっていないのだろう。白髪の彼女は大きな紅い瞳を潤ませて、煤竹色の髪をした少女を見上げる。
「ひどいよお、珠紀ちゃん!」
「ひどいもんですか。あーあ、人間にお世話される妖怪さんなんて、情けないったらありゃしないんだから!」
「妖怪じゃないし、神様だし〜。」
「どっちも対して変わらないわよ。」
二人の少女は軽口を叩き合いながら、寝室を後にした。
―――時は大正。
妖怪たちに支配されたこの世界で、人類は妖怪の支配下に身を置くことで順応し、種を繁栄させていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます