BIG BUNG

ニカクの漢字

プロローグ:荒野の監獄編

Scene1:大きな爆発

乾いた土と、煤の匂いが混じり合う貧民街の黄昏時。


傾きかけた陽が、歪な家々の屋根を赤錆色に染め上げていた。


どこかの家からは夕食の支度をする煙が立ち上り、路地裏では年端もいかない子供たちの甲高い笑い声が、泥だらけのボールと共に跳ねている。


誰もが今日の終わりと、明日も変わらぬであろう日常の始まりを信じて疑わなかった。

ほんの数瞬前までは。


突如、世界から一切の音が消えた。


耳を圧迫するような絶対的な無音。


そして――爆ぜた。


凄まじい轟音と衝撃波が、薄っぺらい壁も、粗末な家財も、ささやかな人々の営みさえも等しく粉砕していく。


地面はまるで巨大な獣が牙を剥くように裂け、岩の杭が天を突き刺し、爆風に巻き上げられた土くれは凶器となって飛び散った。


やがて、破壊の嵐が過ぎ去る。


舞い上がった粉塵が赤い夕陽を飲み込み、世界は不気味な灰色の帳に閉ざされた。


痛いほどの静寂の中、最初に聞こえてきたのは、焼け付くような匂いと、誰かの細く途切れがちな呻き声だった。


それを皮切りに、地獄の蓋が開く。


「何だ! 何が起こったんだ!?」

「空が……空が、割れている……」

「あの子だ! 広場にいたあいつが何か……!」

「リナ! 私のリナはどこなの! 返事をしておくれ!」

「父さん! 腕が、腕が熱いよ!」

「ここら一帯、跡形もねぇ……俺たちの家が……」

「ママ、痛いよぉ……息が、できない……」


身内の名を叫ぶ悲痛な声。現実を受け入れられない呆然とした呟き。怒りと憎悪に震える非難の声。そして、尽きかけていく小さな命の訴え。


あらゆる絶望が渦を巻き、貧民街を包み込んでいく。


そして、その全ての元凶――扇状に広がる破壊の、その中心点に。


一人の少年が、ただ独り、立ち尽くしていた。

砂埃に汚れ、所々が裂けた着衣。


煤で黒くなった頬を、一筋の涙が伝った跡だけが白く際立っている。


彼の瞳は、眼前に広がる惨状を映してはいるものの、その意味をまるで理解できていないかのように虚ろだった。


自分の掌を見つめる。


ついさっきまで、この町には温かい誰かの感触があったはずだった。


だが今は、微かに立ち上る白い閃光のようなエネルギーの残滓が揺らめいているだけだ。


自分の中で何かが弾け、あふれ出した。それだけは覚えている。抑えきれない怒りと悲しみが、この何かと共鳴し、牙となった。


「……あ……ぁ……」


乾いた唇から漏れたのは、言葉にならない嗚咽。

現実が、じわりと少年の心を侵食し始める。吹き飛んだ家屋。散乱した生活の痕跡。折り重なるように倒れている、さっきまで笑い合っていたはずの人々。


その少年こそが、この地獄を発生させた張本人である。


多くの犠牲とともに、彼はこの日、根源に触れる力――「石の能力」を発現させたのだ。


やがて、生き残った者たちの憎悪に満ちた視線が、虚ろな少年に突き刺さる。


彼は世界の被害者であると同時に、世界を破壊した加害者となった。


逃れられぬ罪の重さをその小さな肩に刻みつけ、物語は静かに、そして残酷に幕を開けた。

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