02話 広場内での出来事

 むう。と頬を膨らませながら子供のような顔をしているジニアにエリカは「くすっ、ジニアちゃんはほんとに子供みたいね、昔とそっくり!」と笑みを溢しながらそう言った。


「あ? 俺が昔と性格が同じってどういうことだよ! お前だって昔っから飛行船とか飛行機とか大好きじゃねぇかよ!」

「ッ!? それだったらジニアちゃんだって!!!」

「はぁ……お前ら、いい加減にしろよ。あの人の言った通り広場っつーところに行かねぇとまた怒られるぞ」


 2人の会話を呆れながら喧嘩を抑制したリオ。


「じゃあどうやって広場に行くんだよ、俺らこのセカイに初めて来たんだぞ」

「? おにーちゃんたち、広場に行ったことないの?」

「こいつは?」

「リオちゃんたちの知り合い?」

「さぁ……」

「知らない子だ」

「広場ならあっちにあるよ? わたしが連れて行ってあげようか?」


 少女はにこやかに笑うと、リオの手をしっかりと握り、広場へと連れて行く。


「あぁおい! 急に引っ張るな!」

「! リオ!?」

「ちょっと待ってよ! ジニアちゃんっ」


 少女に手を引かれ、リオは広場へと急がされていた。ジニアとエリカも後に続くが、その少女がときどき2人の顔をちらりと見ては、むっとした表情を浮かべるのが妙に引っかかる。


 だが違和感を抱く暇もなく、3人は広場へ辿り着く。

 そして、足が止まった。


 冷たい汗が背を伝う。視界に広がっていたのは、七色の結晶に閉じ込められた未成年の子供たちだった。


「に〜ちゃっ! に〜〜ちゃっ! 連れてきたよっ! 兄さんのお気に入りっ!」


 リオの手をしっかりと握ってきたスズランはそのままカラスの元へとにこやかに笑いながら、カラスにリオを受け渡した。手首と頭を同時に捕まれ身動きの取れないリオ。


「これでコウの命令は達成した。お前ら2人は邪魔だ、消え失せろ」


 カラスがそう言うと同時に、怒りを顕にしながらこちらへと向かって走るジニアとエリカを結晶で固めると、「バリイイン」という音で固めていた結晶は瞬時に粉々に砕け散った。


「……んで、なんでリオを狙ってんの?」

「まさかあのとき私たちを見ていたのは、あなたなの?」

「…………完全遮断を使っていれば良かったか……まあいい、コウの野望をお前らに話すわけがないだろう? 安心しろ、リオ・カルディは」


 カラスが言葉を言い終わる前にジニアは右手を上にあげ近くにいるリオを除き、カラスの重力を動かした。


「ぐっ……」

「リオ!」

「スズ!!」


 2人同時に声を掛けたジニアとカラス。リオはジニアとエリカの元へと走り出した途端、スズランの特権である「重力操作」が、同じ特権であるジニアの「重力操作」を完全に打ち消した。


「ッ……すごい威力だな、ジニア……だが、次はない」

「次はない。だって? 誰に物言ってんの? お前……」


 リオはにんまりと表情をカラスに向け、両手を広げながら目を閉じた。


「俺の目の前にいる敵共を抑制しろ、「カラミナリティ・レディアスト」」


 リオが口を開いた瞬間、文字にも音にも置き換えられない“歪み”が空気に滲む。耳に届くのに意味が掴めない。まるで世界そのものが拒んでいるような、そんな響きだ。

 そして口を開き詠唱を唱えると、辺りの建物からパラパラと、瓦礫が崩れそうな音が聞こえ始める。人差し指をカラスとスズランの目の前で縦に振ると、けたたましい音と共に近くにあった建物たちが崩壊し始めた。


「なんだ!?」

「なんの音だよ!!」


「お前ら! その場から離れろ!!! 建物が崩れちまう!!」


 ジニアのその言葉で近くにいた住民たちは崩れそうな建物から離れる。「ドガアアアン!!」という音と共に崩壊してしまった建物。幸いその建物の中には人はらず、怪我人はいなかった。


「フッそれで俺たちを抑制したつもりか? リオ・カルディ」

「その余裕は一体何なんだ、カラス」

「さてな。面白いものが見れた、お前も“セツナ”と同じような詠唱を唱えるとは……」


「“□□□”」、「“□□□”」、「“□□□”」。今朝男性がノイズ混じりに言っていた言葉を思い出しているリオ。

(いや、まさか、な……)


 カラスはスズランに「帰るぞ」と言うとにこやかに笑い、「うんっ!」と言いながらカラスの首に抱きつくスズラン。


「また会えたらいいな、リオ・カルディ……」

「ばいばーい!」


 スズランはリオたちに手を振ると、カラスは黒い翼を出し、スズランと共に姿を消した。


「セツナ、セ、ツナ……? その名前、どこかで……」

「リオ、 リオ!!」

「! ジ、ニア……」

「急にどうしたんだよ、何か変だぞ、お前」

「いや、なんでもない……」

「なんでもないわけないじゃない! リオちゃん、あいつに会ってからなんか変よ!?」

「……気にすんな、大丈夫だから」


 ――俺の夢の奴といい、今回の奴といい、なんで俺の名前を知っていた? なんで、な、んで……そもそも、俺は、あの男を、知っている…………? セツナとかいう男の名前も聞き覚えがある、何故だ、何故……

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