外れスキル【チート・クラフト】の勘違い伝承譚~前世でゲームを作り続けて過労死したおっさん、ゲーム世界にて神話になる

間野ハルヒコ@盗賊SSS漫画化準備中

1.追放

「オズワルド・ブラックフォージ様のスキルは【チート・クラフト】です」


 神父が恐る恐るそう言った。

 男爵、ドラザール・ブラックフォージの怒号が響く。


「馬鹿な! ブラックフォージ男爵家の長男が【クラフト】スキルだと! それも…チートぉ⁉ 何かの間違えだ! やり直せ!」


 神父がひぃと声をあげ、信託の儀をやり直すが、やはり【チート・クラフト】と出た。


 信託の儀で与えられるスキルは人生を決定づけるほど大きなもの。

 その差はあまりにも大きい。


「しかも、よりにもよって【チートスキル】か」

「きっと、前世の行いが悪かったのだわ」

「ブラックフォージ家も終わりだな」


 信託の儀を受けていたブラックフォージ男爵家の長男オズワルド・ブラックフォージは内心で動揺していた。


 チートスキルとは言葉通り「卑怯なスキル」という意味だ。

 チートスキルは通常スキルよりも出力が安定せず、そもそも発動しないことが多く昔から役に立たない外れスキルだと言われている。


 なぜこのようなスキルを女神様がお与えになるのか。

 神学者たちはこう結論づけた。


『それは前世の行いが悪かったからである』



 チートスキルを授かるということは、前世で悪徳を積んだ証拠とされている。

 そのような罪人の魂が歓迎されるはずもなかった。


 オズワルドは途端、侮蔑の目を向けられる。

 チートスキルを獲得した。ただそれだけで。


「くそ! 頼む! カルド! お前だけが頼りだ!」


 父のまなざしを受けて俺の弟、カルド・ブラックフォージが緊張した面持ちで神託の儀に臨んだ。


「か、カルド・ブラックフォージ様のスキルは【剣聖】です!」


 教会がざわめき、父と弟が喜びの声をあげる。


「よくやった! カルド! お前は自慢の子だ!」


 あまりにも素早い手のひら返しに唖然とするオズワルド。


 12歳~15歳の少年少女が教会でスキルを授かる神託の儀は、人生を大きく左右するとは聞いていたが…。


 こんなに簡単に、すべてが決められてしまうものなのか。


 オズワルドの心情などお構いなしに、父が告げる。


「オズワルド! お前はもはやブラックフォージ家の者ではない! 一刻の猶予も与えん! この場で追放する! 二度と顔を見せるな!」


「そんな! 父上! 俺はこれまでカルドの何倍も剣を振ってきました! 俺が剣で負けるわけがありません!」


 スキルは人生を左右するほど強力だと言われている。

 しかし、そのスキル差を実力でねじ伏せたなら?


 きっと父は思い直してくれるはずだ。


 カルドはサボり癖がひどく、ろくに訓練もしていない。

 勝機はある。


 そう、オズワルドは思った。


「ふん、いいだろう。お前はスキルの恐ろしさを知らんのだ。人間の価値とはその才能のみであると、ここでたたき込んでやる。やれ、カルド!」


「ハッ! 手加減はしませんよ、オズワルド兄さん!」


 カルドが腰から剣を抜き、ぶらりと下段に構える。

 

 余裕ぶったチンピラのような構えだった。

 オズワルドは剣を抜き、油断なく正眼に構える。


 一気に叩く!


 オズワルドが間合いを詰めようと踏み込んだ瞬間、カルドが雑に剣を振った。


【ライトニング・スラッシュ!】


 光の斬撃が飛ぶ。


 神託直後だぞ! そんなのアリかよ! 


 オズワルドは回避しようとしたものの左腕に斬撃を受けてしまった。


 リーチが違いすぎる、これでは近づくことすら……。


「ハハハハ! いいぞ! カルド! 剣聖の力! このワシにとくと見せてくれ!」


「ハハッ! 兄さん、運が悪かったと思ってくださいねぇ!」


 カルドがこちらに走ってくる。


 そうか、父は…ここで俺を殺すつもりなんだな。


 憎い。


 スキルひとつで手のひらを返す父も。

 積み上げた努力を才能だけで踏みにじる弟も憎い!


 やってやる!

 チートだろうがなんだろうが! 俺にもスキルはあるんだ!


「来い!【チート・クラフト】!!」


 俺がそう唱えると、目の前に大量のウインドウが現れた。


「仮想OSを展開しました」「メモリが不足しています」「自己成長型戦略エンジン・アルマを起動します」「コマンドプロンプトを起動します」「メモリが不足しています」「汎用3D制作ソフトMomaを起動します」「汎用3D制作ソフト3DMaximを起動します」「汎用ゲームエンジン・サニティを起動します」「汎用ゲームエンジン・フルリアルエンジンを起動します」「光学モーションキャプチャーソフト・フォトントラックを起動します」「電磁式モーションキャプチャーソフト・ロカカを起動します」「シミュレーションソフト・フーディールを起動します」「メモリが不足しています」「ライティングソフト・小太郎を起動します」「画像編集ソフト・フォトショを起動します」……。


「な、なんだあれは!」


 父や領民たちが驚く。


 それは世界作成に使用された道具。

 創造主のみが使用できる紛れもなき神の指先だった。


 そのような神具をスキルを得たばかりの人間に扱えるわけもなく。

 

 オズワルドは急に発熱し、足がぐらつきだす。

 立っていることもできずに、膝をついてしまった。


「2340連勤……ワンオペ過労死…。なんだこの異常な苦痛は…! 指の関節が全部痛い…。心臓が張り裂けそうだ…。ゲーム…。そうだ! 俺は、ゲームを作らなければ…! ウッ、あたまが……」


 【チート・クラフト】から創造主の記憶がオズワルドに流れ込んでくる。


 神の死因は過労死であった。


 頭が割れそうだ。

 これがチートスキルの呪いだというのか。


 女神よ! 教えてくれ!

 俺は一体…前世で何をしたというんだ!


 神を殺すほどの苦痛を受けたオズワルドはなすすべなく戦闘不能になり、ブラックフォージ家を追放された。

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