転生した勇者が魔王になってしまった!

森の ゆう

転生した勇者が魔王になってしまった! 第1話

目が覚めた瞬間、俺は絶叫した。


「なんで玉座の上なんだよッ!!」


 黒曜石でできた巨大な玉座。左右には禍々しいドラゴンの彫刻。前を見ると、百人規模の魔族たちがひざまずき、頭を垂れている。


「魔王様……ついにご覚醒を……!」


 ちょ、待て。

 俺、前世では“選ばれし勇者アレク”。魔王を倒してハッピーエンド、と思った直後、黒い渦に飲まれたはずだ。それがなぜ、魔族側のトップに転職してんだよ!


「いやいやいや、俺、勇者だったんだけど!?」


 思わず立ち上がると、ゴゴゴ……と大地が震えた。どうやら魔王の力が漏れたらしい。周囲の魔族たちは歓喜の声を上げる。


「さすが魔王様! その一歩で大地を揺るがすとは!」


「ご健在! ご健在でございます!」


 テンション上がってんじゃねぇよ!

 俺は慌てて玉座の前に立つ、一番偉そうな家来——ローブをまとった魔族に声を荒げた。


「なぁ、お前! どういうことだ!? なんで俺が魔王なんだ!?」


「はっ。我らが魔王様は一度滅び……しかし“勇者の魂を器に宿す転生術”によって蘇ったのです」


「誰が勝手にそんな術使ったんだよ!?」


「先代の魔王様にございます」


 つまり、俺を倒した魔王が、死ぬ間際に俺へ転生魔術を仕掛けたってことかよ。

 性格悪すぎるだろ、あの野郎!


 怒りに震える俺とは対照的に、魔族たちは期待と興奮で震えていた。


「さぁ、魔王様! 世界征服の準備は整っております!」


「どうか下知を!」


 待て。俺は勇者だ。人間側を救うために戦ってた。なのに突然、魔王の軍勢のトップとか悪夢でしかない。


「……聞け。俺は世界征服に興味ない!」


「………………え?」


 魔族百人の声が、同時に裏返った。


「いやマジで。世界壊すとか、全然したくないし」


 すると最前列のローブ男が震える声で言った。


「で、では……いったい我らは、何をすれば……?」


 あぁ……これ、完全に信仰レベルのやつだ。

 俺が勇者だと言っても、どうせ信じないだろう。


 そのとき、玉座の裏からひょっこりと少女が現れた。角は小さめ、白髪に金の瞳。魔族にしては珍しく可愛い系だ。


「魔王さま、無理しなくてもいいよ」


「……誰?」


「あなたのお世話係、リム。前の魔王さまに“この子なら暴走を止められる”って言われて育てられたんだって」


 暴走を止められる?

 俺のこと、どんな欠陥品として転生させたんだよ先代魔王。


「魔王さま。あなたがしたいことをすればいいの。魔族たちの願いを押し付けなくていい」


 落ち着いた声に、場の空気がふっと和らぐ。

 でもその直後、リムはニコッと笑ってとんでもないことを言った。


「ただし——“人間界へ行きたい”なんて言ったら、また大戦になるけどね?」


「……それ、やっぱり無理ゲーじゃん!」


 こうして俺は、勇者なのに魔王として生きる羽目になった。

 世界を滅ぼす気はない。でも人間界に行けば戦争。魔族は俺を崇拝。


 こんな状態で、俺はどうやって生きていけばいいんだ!?


魔王生活(ブラック)1日目、スタート。

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