第30話 友達が必要な理由

シニアも中学も、どちらも練習なし。

考えただけで、胸の奥が少し軽くなる。

試合、走り込み、課題、疲労…全部から一瞬だけ解放される日。

そんなときだった。


――黒木から電話が鳴った。

「明日、俺らとどっか遊び行かね?」


黒木の声が、いつもより少しだけ弾んでいた。

誘われた瞬間、心の中で何かが跳ねた。

行くしかない。

いや、“行きたい”が正解だった。


日曜日。

待ち合わせに着くと、もう全員いた。

黒木、本田、金澤、川越。

5人揃うと、まるでチームの空気がそのまま街に溶けだしたみたいに賑やかになる。


向かったのは大型アミューズメント施設。

バッティングセンター、映画館、ショッピングモール、フードコートまで全部揃っている、なんでもできる場所。


バッティングセンター。

「みんな、見とけよ!」

と黒木が打席に入ると同時に、マシンの球が吸い込まれるように飛んでいく。

カーン!

カーン!

カーーン!!


「え、普通に外野の頭超えてるんやけど…」


「拾う側の気持ち考えろよ…」

本田が笑いながら言う。



俺も打席に入った。

120kmのレーン。

緊張するほどじゃないけど、腕が勝手に固くなる。

――カキン。

詰まった。

でも少しだけ楽しかった。


「晃大、当てんのはうまいけど、飛ばねぇな!」


「パワーまだまだ伸びるって!」


金澤と川越が肩を叩いてくる。



映画館

ホラー映画を見て、黒木がビビってポップコーンぶちまける。

それを見て本田が腹を抱えて笑う。


「いや、あれは反射!反射やって!」


「うわ、言い訳してる〜〜」


そんなやり取りがずっと続く。



ショッピングモール

スポーツショップでグローブを見たり、

野球とは関係ない服を見たり、


「これ晃大似合うって!」と川越が勝手に変な帽子を渡してきたり。

その全部が、なんか新鮮だった。


そして昼飯

フードコートで好き勝手に買ってきて、机を囲んで食べる。

しょうもない話で笑って、

誰かがこぼした水で机が濡れて、

店員に謝って、

また笑って。

野球の時とは違う“仲間”って感じがした。



帰り道

肩が少し痛い。

足も少しだるい。

だけど心は、妙に軽かった。

黒木が言った。


「晃大、また行こな。

こういうの、たまには必要やろ?」


俺は自然に笑った。


「もちろん。

また絶対行こうぜ。」


仲間って…

こんな感じなんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る