第25話 初ヒット
グラウンドに立った瞬間、空気が違った。
対戦相手のユニフォーム、ベンチの人数、応援の密度——すべてが“格式”を放っている。
「宝塚シニア」──噂どおりの強豪だ。ピッチャーの球威、内野の守備の厚さ、外野の追い方。周囲を見渡すだけで緊張がすっと背筋を走った。
一回裏、相手攻撃。序盤だからこそ一つのアウトが重い。
ツーアウト、ランナーなし。打席には宝塚の背番号3、チームを牽引する中軸打者だ。
投手の球は丁寧に外角を突く。カウントが進んで、スライダー気味の変化球で詰まらせに来た。
バットが空を切る音、そして白球がふわりと飛んだ——右中間寄りのフライだ。放物線が長く見える。観客席の呼吸が一斉に止まるのがわかった。
(絶対落とすな)
体が反応した。無尽蔵体力の影響か、初動が鋭い。落下点へ入る最短ルートを選び、二歩、三歩と踏み込み、最後に最小限のステップで位置調整をする。風の流れ、ボールの回転、スタジアムの影──全部を“読む”つもりで視界を細くした。
最後の一歩で体重を右足に乗せ、腕を伸ばす。ミットがボールを“きゅっ”と包み込む感触。
音が消えたように感じる、完璧な捕球だった。
ベンチからは大きな拍手。袴田先輩が力なく拳を振る。
あの瞬間、仲間の顔が一斉にこっちを見た。
「ナイス!」の声が届く。
ただのフライかもしれない。だけど、宝塚の三番を仕留めたことは、チームの士気を落ち着かせる“仕事”になった。
――守備は、試合の“基礎”だ。俺はそれをやれた。
試合は互いに締まった展開で進み、三回表に攻撃のチャンスが来た。
一番が出塁、盗塁で二塁へ。二番の粘りで四球。ワンアウト二・三塁。確実に先制したい場面だ。
ベンチから聞こえる鼓動、監督の短い指示、仲間の視線――全部自分に向けられている。
「九番、レフト、斎木!」
打席に入る。
相手は右の技巧派。ストレートの球威は目立たないが、コントロールが抜群で“芯を外す”球をきれいに集めてくるタイプだ。狙い球は簡単に来ない。
カウントが進む。初球見送り、インハイ見送り。ファールで粘って、気づけばフルカウントだ。
ここで気持ちが切れるか食らいつくか──勝負の分岐点。
相手投手がマウンドで一度腕を振る。観客のざわめきが一瞬高まる。
ボールはやや内角寄り、高め気味のストレート。おそらく“勝負球”だ。
(ここだ。迷わない。)
身体が前に出る。バットが低い軌道で短く出て、芯に伝わる感触が来る。
カキーン!
音が球場の空気を切る。
打球はライナー性に伸び、レフト線を突く。
白いボールがフェアのラインを割るのが見えた。外野手が反応するが、追いつけない。
二塁ベースを蹴る瞬間、土が飛ぶ。スライディング──セーフの判定。
スタンドが一斉に沸く。三塁ランナーが生還し、スコアは3-0。
ベンチの宇治が飛び跳ね、監督が短くガッツポーズを見せた。
自分でも驚くほど胸が熱い。あの一打は“ただの安打”以上の意味を持っていた──
粘って、我慢して、最後に一瞬の判断で成果を出した。
この日のために積んだ素振り、壁当て、長距離の脚、全部が繋がった気がした。
グラウンドの土の匂い。湿った埃が鼻をくすぐる。
打球の衝撃音は自分の胸に響くようで、少し遅れて歓声が来る。
スライディングの瞬間、右手の平に土の冷たさが伝わり、指先に小さな痛み。
ベンチの声、スタンドの拍手、監督の短い叫びが重なり合って“試合の重み”を増していく。
完璧な捕球も、決定的な一打も、どちらも“チームのため”に出したプレーだ。
宝塚みたいな強豪を相手に、俺たちは小さな成功を積み重ねていく。
この日はまだ終わらない。だが、確かな手応えが胸に残った。
(俺はここで戦う。選んだ道で、胸を張ってやるんだ)
佐藤晃大(斎木晃大)
プレイヤーレベル12
ーステータスー
技能:65
筋力:32
知能:30
ー野手能力ーー
弾道:1
ミート:30
パワー:28
走力:35
肩力:36
守備力:36
捕球:12
ースキルーーー
・守備職人
・絶不調波形
・粘り打ち
・バント○
ーアルティメットスキル
・無尽蔵体力
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます