「ヒキニートですが、母ですが?」
@RENTUMU
「拾い物」
誰もいない暗闇を歩いていた。
誰もいないって勝手に思い込んで歩いていた。
きっと誰かから手を差し伸べられていただろうし
きっとなにか声をかけられていただろう。
僕は世界一の被害者面して一番可哀想なやつに
なりたくて…同情してほしくて もっともっと
誰かじゃなく みんなに声をかけてほしくて
どうしようもないかまってちゃんなんだ。
なんとなく外へ出て なんとなく夜道を歩いて
いつものコンビニを横目にあんまり行った事のない坂道を登った。
まぁまぁ急な坂道で 普段寝転がってるだけの僕には多少きつくて 運動はしないといけないんだなっと こんな所で思い知らされる。
やっと 登り切った先に街灯が一つ。
それが照らしていたのは 道路と白線 と 箱。
ガードレールに沿って置かれてたダンボールの箱
…。嫌な予感しかしなかったけど
被害者ぶりたい僕は悲劇を求めてダンボールに歩み寄った。
あたりは真っ暗で 街灯がスポットライトに見えて…。 なんの音もしない。 冬の寒さが灯りをより美しくみせる。
残り3メートルぐらいのところでそれが何かわかった。
「手に…おえない。 なにもできない。」
それが なにか確信に変わる前から
謝罪の念で押しつぶされそうになった。
足が止まり これ以上進めない。
中身が何か 朧げにわかったところで確認が出来ない。
ごめん。だって僕には何も…。
なにもみなかった事にしよう
そう思い込んで 踵を返す。
僕はただ 部屋に引き込もりすぎたから
なんとなく 運動がてら 坂を登ってきただけで
他に何もないし なにも見て
「アァッ! エヘッウアアア」
無理だった。 その声は箱の中身を確信させると共に 助けなきゃいけないって
そんな事頭で考えるより早く 体が動き出して
僕は 毛布にくるまった人間の赤ちゃんを抱き抱え 家まで走った。
後先考えずに ただこれ以上体を冷やさないよう
抱きしめて それでいて繊細に風に当たらないよう走った。
誰もいない家でどうしていいか分からず
とりあえず暖房をつけたままだった自分の部屋で
毛布をとって…あぁ どうしよ これどうしよ?
え?警察だよね?普通 え?お腹空いてるのかな? え?ミルクかな? アカチャンホンポとか? これどどどどうしよう
〜〜〜タイトル〜〜〜
ヒキニートですが?母ですが?
カタカタカタ カタカタカタカタ
「お前それどうすんの?」
「は?知らねーし。なにすればいいの?」
「普通に警察だろ」
「だよなぁ 僕もそれが一番いいって思う」
「まさか 育てるとかいわねぇよな」
「そんなわけないだろ?
常日頃から死にたいって言ってるやつが
人様を育てられるわけがないだろ?」
「だよな? だったら今すぐ警察いけ
てか呼べ! どうにかしてくれる」
…。 そうだよな。 そうなんだよなぁ
チャットしているゲーム仲間のケンシ の言うとおりだ。
それに自分でも言ってる。 それが一番正解だって
わかってる。 それが一番いいって
でも でも僕は知ってる。
忘れようとしてた昔。僕が 僕 になった理由。
「ねぇ貴方はどうしてこんな簡単な問題すら解けないのでしょう?」
「…はい。すみません。」
「すみません?でしたか? 目上の人に謝る時は」
「申し訳ございません。」
「他の子達はみなさん もう一ヶ月も前に九九を覚えていますよ? だというのに貴方はどうしてでしょう?」
ここは じどういくじよーごしせつ。
パパやママがダメな人たちがここに来るって
私はここが大嫌いだ。 ずっと怒られて
ちゃんと9時に寝て 6時に起こされる。
玉ねぎも絶対に食べさせられるし
ずっと…辛いよ。 パパ、ママ。
「それに貴方は一つも女の子らしくない。
洗濯も掃除も出来やしない。
そんな事では良いお嫁さんにはなれませんよ?」
綺麗なポニーメール キリッとしたメガネ
いつも綺麗な制服。 この洋子先生はとにかく綺麗好きで、 てきとうな私の事は特に毛嫌いされている。
「九九も言えない。
家事もできない。 何もできない。それじゃあ女は生きていけません。
男は力仕事があるし 結婚すれば奥さんが全部してくれるからなんとかなるけれども。」
人差し指を少し曲げて
眼鏡をクイっとあげる 洋子先生。
私はこの仕草が嫌いだ。
というか そうか
私は女の子だから ダメなんだ。
なら…。
「なら 私は いや 僕は女の子じゃなくなる
これから男の子として育てて下さい。」
深々と腰を曲げ心の底からお願いした。
今思えばその時から
ただ現実逃避していただけなのかもしれない。
第一人称を 僕 に変えた所で、僕はちゃんと女の子だし 結局 九九 だって覚えさせられた。
洋子先生は 何一つ間違った事は言ってなかった。
まあ 時代錯誤な所はあるけれど。
でも それにしてもあそこは辛い所なのは
僕がよく知ってる。
「…あそこにはあまり行かせたくない。」
「あそこってどこだよ?」
「児相だよ あそこは本当に辛い。」
「しゃふの お前に育てられるより
ぜってーにマシだろ」
「その しゃふ を育てたのが
児相なんだよ」
「けど ちゃんと3食食えるだろ?
お前の場合 まず主食がカップ麺かポテチ
私生活終わってるお前が、健康に子供を育てられるとは到底思えない。」
ケンシの言うとおりすぎた。
「とりあえず 今日は遅い
明日 朝からこの子を連れて 警察に行ってみる」
「そうだな 今は大丈夫なのか?」
「本当に賢い子だよ
僕の部屋に着いた途端 泣き止んで今はスヤスヤ眠ってる。」
「そうか まぁ あと数時間だけでも
母親気分を味わっとけよ。」
この発言の意図は? 深掘りしてもよいのでは?
数時間だけでも味わっとけ?
お前にはそんな機会 2度と来ないのだから?
そう言いたいのでしょうか? この外道は。
だが、 ここまで冷静に話を聞いてくれた
ある種の恩人だ。 いつも通りのレスバを広げるわけには行かない。
なにせ 後ろでは 見知らぬ赤ちゃんが
スヤスヤと眠っている。
荒ぶるタイピング音で 起こしたくはない。
ぐっ とこらえた。 …もしかしてこの我慢は
母親の覚悟 その第一歩なのでは?
て そんなわけないか。
「あぁ すまなかった。
助かったよ。 おやすみなさい」
「お、おう おやすみ」
チャットを閉じて
僕のベッドを 占領している 赤ちゃんに目を見やる。
今は寝てるけど 起きたら お腹空くよな
離乳食とかないよ え?りんご?
とりあえず ググるか
赤ちゃん 離乳食 ない 何食わせる。
んーなんだかよく分からん。
数ヶ月の段階的に だとか
離乳食を食べないときはどうすればいい だとか
ちげーんだよなぁ まずその離乳食が今ここに
ねぇって 話をしてんだよなぁ
それに 離乳食ってそもそも何?
なんかドロドロしてるおかゆっぽいものだよな
ワンチャン おかゆでいける?
ググる。 離乳食とは?…。
離乳食開始は生後5〜6ヶ月が目安です。
て そうじゃん。 離乳食じゃん
乳から離れる食 じゃん。 僕 馬鹿すぎ
とりあえず 赤ちゃんで知ってる単語にとらわれてた。
ちげーよ ちげーちげー。
この子はまだ明らかに 乳 を離れられる段階にねぇ!!
かといってだ! 僕から乳が出るわけがねぇ
男の子目指して生きたからか
私の乳は 谷は愚か 山すらまともにできた事ねぇのに。 は? 舐めんなよ?
こちとらおおいなるものを失ってまで
僕っ子やってんだ! 筋金入りだ!バーロー!
て 自分の貧乳にキレてどうすんだ…。
まずは ミルク だよな。 て牛乳でいいのかな?
ググる
赤ちゃん ミルクがない時
コップ一杯の水(約200ミリ)のぬる目のお湯に
大さじいっぱいの砂糖を溶かしたもので代用できる。 とな
ほうほう。 一旦の希望が見えた。
さぁ 残りの問題は まず ぬるま湯って何度なのか。 そして 大さじいっぱいをどう測るか。
…先は長そうだ。
その後も約1時間おきぐらいに
赤ちゃんは 泣いて、どうにかこうにか作り出したお手製 砂糖水を飲ませて 赤ちゃんは眠って。 また泣き出して どうして泣いてるのかぜんっぜん 分からなくて…。
朝日が昇る頃には僕のHPはほぼ0。
に対して この子は屈託のない笑顔で 僕の頬やら鼻やらを触ってくる。
挙句 鼻先を食べられて 赤ちゃん独特の匂いがして 少しの不快さと目の前の可愛さで押しつぶされてって
…。この子よく見たら
顎の下に 小さなほくろがある。
それにぱっちり二重で…大人になったらモテるんだろうな。
そー言えば匂う
オムツ?なるものを一度も変えてない
やっぱり ベチャベチャのうんちをしていて
って 本当に小さいちんちん。
とりあえず 僕のバスタオルをうまく巻いておいた。
「はぁ〜。 つっかれた。
とりあえず警察 行きますか。
朝の8時 よろよろと この子を抱いて
家を出た。 日差しが出てる時間に外に出るのはいつぶりだろう…。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁ!? 何がどーなってそーなったんだよ!」
ことの深刻さに 僕はけんしと 通話していた。
あまりに動揺しすぎて どうしたらいいのか
え?どうしよ え?え? どうしよ
「え?どうしよ?」
「どうするってお前… そだ…てるのか?」
「…そだ…て…る? 僕が? この子を?」
「ありえないか。
というか なにがどうなった? もう一度説明しろ!」
「えーとだからぁ」
〜〜〜〜
警察署の前についた。
これは…何?どうしたらいい?
もしかして 落とし物か?
「あの…赤ちゃん拾ったんですけど」
って言うの? 怪しすぎない? 僕 捕まらない?
どうしたら…。
「キャハハっ」 腕の中の子が笑っていた。
「そうか そうだよね。
普通に大人の人に頼めばいいんだよね」
少し安心して 僕は警察署の仕切を跨いだ。
「あの…すみません」
「あ、そこの受付機を操作して
番号が呼ばれましたら こちらまでお越しください」
「あ、はい。」
おばさんに 淡々と対応された。
こ…怖い。怒ってる?
何?疲れてるんですか?今僕
ぶつけられたんですか? イライラみたいなの
いやいや、あっちは仕事してるだけだもんな。悪意とか全くない。 ちょっと態度が冷たいって感じたけど
そんな事はない。 他意はないはず。
受付表にはデカデカと 1番 と表記されている。
当たりを見渡せば僕の他には誰もない。
ピンポーン ひょうじばんごー1番の方
窓口までお越しください。
音声アナウンス。
え? なんで一回 受付機挟んだの?
普通に 話聞いてくれれば良くない?
僕の他には誰もいないんだから…て良くない良くない。 おばさんは淡々と粛々と仕事をしているだけ。 他意はない。他意はない。
「それで? どうされました?」
いや違う 太々しい! あまりにも
これが マックとかの店員なら速攻クレーム入るレベルだよ! ありえない!
なんだ こいつ 世間を知らねーのか
そんなんで 生きてけはしねーぞ!って
明らかに僕より先輩で 僕よりよっぽど立派に社会人してる。
落ち着け。 僕
「キャハハっ あうあうあー」
赤ちゃんを見て さらにまた落ち着けた。
「あの…実は昨日 この子を道で拾いまして…。」
「は?」
「あ、いやだから この子を道で拾ったんです。
昨日」
「あのね 子供を産むってのは
母親になるってのは並大抵の覚悟じゃできない事なの。 あなたもう 立派な母親でしょ?
この子が小さいうちは それは大変な事も多いけれど 案外 あなたのお母さんとかが助けてくれるわよ!! そーやって お母さんは強くなって行くの。 色んな人に助けられて
その子のために一生懸命に 一生懸命に。」
「あ、いや ちがくt」「いい! これ以上何か言ったら育児放棄やら 殺人未遂やらで捕まえるわよ!
わかったら覚悟持ちなさい!
貴方はもう!お母さんなの!
その子にとってたった1人のお母さんなの!
はい! 胸を張る!」
「あ、はい!」
「顎を引く!」 「はい!」
「そして その子の目を見なさい!」
「はい!」 「どう? 可愛いでしょ?」
「はい。 天使みたいです。」
「応援してあげるから 困った事あったら
また来なさい」
「あ、はい! わかりました!
ありがとうございます」
深々と腰を折って感謝を述べて
そのままUターンして
「Uターンして 今に至ります。」
「…。はぁ ほんっとどうしようもない。
警察を頼れないっとなると というかまぁ
そのおばさんのせいなんだけど…」
「だよね! 普通にそうだよね?」
「いやお前も悪いよ?」 「へ?」
「選択肢をいくつか考えるわ
選択肢 1 夜になったらもう一度 警察に行く。
そのおばさん以外なら まともに対応してくれるだろう。
だが、その場合 どうしてもっと早く来なかったのかとか いろいろ聞かれるとは思う。
だが これが最善策だな。
選択肢 2
…。お前が拾った段ボールにもう一度戻す。
何もなかったことにする。 なにも。
この場合の
デメリットというかまぁ 何も考えるな
今まで通りの生活を送るだけでいい。
選択肢 3
お前が…育てる。
デメリッ…いやいやいや無理無理無理
すまない 今のは忘れてくれ
まぁ俺がパッと思いつくのはこの2つかな
あとは適当にそこらの宗教の教会とかに
放り込む。 キリスト教がいい。
神の申し子として 育てられそうじゃん。
ある朝 司祭がいつものよう祭壇に祈りを捧げに来たら そこに響き渡る 赤ん坊の声。
見知らぬ赤ん坊は 天使の瞳をこちらに向けて微笑んだ。
あぁ これはイエスの生まれ変わりだ と。
あっちの人はちょっとアレだから簡単に受け入れて育ててくれるよ」
…。 けんしの言ってる事は全て納得?できるものだ。 できるかな? まぁ僕が考えるよりもずっとマシな策だと思う。
また 警察にいけばいいんだよな
てかさ? 「てか今110番通報すればいいのでは?」
「あ、そうじゃん それで解決だろ」
よかった。 そろそろ ウチにある砂糖もなくなるところだった。
「じゃあ かけるわ」
「ほい。 どうなったかかならず教えろよ?」
「わかった じゃあ切るわ」
「えはっあはぁあああーー!!」
赤ちゃんが泣いていた。 今までにないぐらい
1番大きな声で泣いてる。
抱き上げて 分からないなりにあやす。
「ごめんね? 僕じゃ君を育てられないんだ」
「あぁあ! あああー!」
僕の言葉を聞いてるのかな? 理解してる?
そのぐらいこの子は今までとは違って大きな声で泣いてる。
どうにもあやせられない。 もう通宝しちゃおう
赤ちゃんは泣いてるけど。
110 と 通報。
「もしもし…。」 「もしもしぃ 110番です。事件ですか? 事故ですか?」
事件か 事故か…。 まぁこれは僕にとって一大事件だな。
「事件…。」 「はい。どうされました?」
「はい。 昨日なんですが 赤ん坊を拾いまして…
なので 引き取りに来て欲しいんです。」
「はい? どういう事でしょう?」
「昨日の夜 久しぶりに外に出たら
道に段ボールが落ちてまして…。
その中身を見たらこの子が入ってまして。」
後ろで赤ちゃんの鳴き声が響いている。
「…。わかりました
とりあえず 警察官を向かわせましたのでしばらくお待ちください。」
「はい。 助かります。」
そのまま通話を切って 5分ほど待った。
この時間すら止まってるんじゃないか?と思えるほどこの時間は長く
サイレンが遠くの方から聞こえてきた時
解放感と…どこか諦めに似た感情に陥って
赤ちゃんの鳴き声が1番大きくて
赤ちゃんを抱き上げて 最後に沢山謝った。
「ごめんね ごめんね ごめんね ごめんね」
いつのまにか 涙が出ていて、ちょっとの間だけだったけど 可愛くて 可愛くて
それでこの子が本当に悲しそうな顔をしていて…。
僕の袖を小さな手で ギュッと掴んでいて。
離れ…たくない。 けど どうしようもない
ピンポーン
「警察です 大丈夫ですか?
ドアを開けてください!」
どうしたらいい? どうしよ どうしよう
「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい」
大きな声で謝る。 え? なんで謝ってんの?
というか ドアを開けたらいいんじゃないの?
なんで謝ってんの? 開けろよ ドア。
「大丈夫です。 落ち着きましょうか
ドアを開けられますか?」
「ごめんなさい ごめんなさい」
響く赤ちゃんの鳴き声 僕の謝罪
異様な景色で 異様な状態。
「わかりました。ここに警官1人いてますからね?
落ち着いて 深呼吸してくださいね」
酸素が吸えなくて…視界がぼやけて
動けなくて。
この子が 離れる。…また1人になる。
嫌だ 嫌だ 嫌だ 嫌だ 嫌だ
現実が…。
なん…とか なんとかドアにたどり着いて
鍵を開ける事に成功した。
部屋に入ってきた 男性警官。見た事ある。
そう言えば…また だ。 なんで どうして
いつもいつもこうなんだろう
「あの…赤ちゃんを…。 ひr…いまし…t」
手に抱いた、バスタオルの かた まり。
「分かりました。 それで どこですか?
その赤ちゃんは…。」
そう… ぼく。 私はずっとずっと1人だ。
〜〜〜〜エンド〜〜〜〜
「ヒキニートですが、母ですが?」 @RENTUMU
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