第12話 降る雪とふたり
音もなく雪が降っていた。
石畳や建物の屋根に降った雪は、始めのうちはすぐに溶けていた。夜になると、少しずつ白く積もり出した。
ゆっくりと二人で荒れた部屋を片付けて、ジュードが買ってきた食材で慎ましい晩御飯を作った。
クリストファーはケーキを持って来ていた。ただ、それは慌てて屋根裏部屋に登って来た時に箱の中で酷く潰れていた。
箱を開けて中身を見た二人は笑って、紅茶と一緒に食べた。
雪が音を吸い込んでしまうので、外の音は全くしなかった。明かりの灯った屋根裏部屋は世界に二人だけしか存在しない様だった。
ジュードは窓も入り口のドアも閉めてしまった。もう決めたから。
今までの人生で誰からも助けてもらえなかった気がしていた。
今は、クリストファーだけは信じられる。
窓の外は街灯の光が雪に反射して、街中が優しく輝いていた。
「遅いクリスマスプレゼントを用意したんだ」
ジュードが包みを渡すと、クリストファーも
「僕からも」
と言ってジュードに包みをくれた。二人でそれぞれの包みを開けると、まるでペアの様な手袋だった。
「すごい。何この偶然……」
泣きそうな顔で笑い出したジュードをクリストファーは目を細めて見つめた。
「こっちは誕生日プレゼント」
「え?」
「前にクリスマスの翌日が誕生日って言ってたから」
小さな箱にかかったリボンを外す。蓋を開けると、中にはリングケースが入っていた。
「これって……?」
「エイブリー公国ではプロミスリングって言うんだけど、こっちだとステディリング? まだお互い家族にも言ってないから婚約も結婚もまだだけど、ずっと一緒にいたいなって思って。そんなに重い感じじゃなくて、僕の気持ちなんだ。貰ってくれると嬉しい」
リングケースを開けて、ジュードはシンプルなリングをずっと見つめた。
クリストファーは黙ってしまったジュードが受け取らないことを恐れて、矢継ぎ早に言葉を続けた。
「ほんと、全然軽く考えてくれていいんだけど。ただ貰ってくれたらそれだけで満足。これ、僕のリングとペアなんだけど、一緒につけられたら嬉しいから。毎日じゃなくても、君の気分で。実は今日渡せないかもと思ってて。ジュードが重荷に感じそうならやめようって……」
そんな様子を横目で見ながらリングを取り出したジュードは内側の刻印を見た。
Elle est retrouvée — L’Éternité.
「見つけた_永遠を……?」
ジュードはまた、笑い出した。
「軽くはないよね、
クリストファーは答えた。
「プロミスリングに詩を刻むのも伝統なんだ。僕の気持ちそのままの言葉だよ」
また何も言わなくなったジュードに、
「重いかな? 調子に乗ったかな? でも本当にそう思うんだ。……笑って。笑って、ジュード。君の笑顔が大好きだから」
「……愛してるって言ってくれる?」
「もちろん!君が許してくれるなら。言ってもいい? 重くない?」
ジュードは頷いた。
「愛してる。君がいてくれるだけで、僕の世界は輝いてる」
「僕の方のリングにはまだ言葉を刻んでいないんだ。考えてくれる?」
ジュードはこの今の幸せをずっと感じたかった。クリストファーとなら、永遠が手に入る気がした。
Nous deux, au monde
「この世に二人?」
「うん。そう、どうかな?」
「いいね。今本当に二人だけだ」
うん、うん……ずっと頷いていた。
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