第4話 一人暮らし
海辺の坂の街
国内でも有数の港には、外国航路の大きな客船も貨物船も、時々入って来た。ジュードのアパートは港から
入り口ドアを開けると階段、一階から三階まで折れ曲がった階段の左右に部屋がある。三階まで上って、通路の奥に細めの階段が付いていた。そこを上った屋根裏部屋がジュードの部屋だった。ベッドと机が一つ、トイレとシャワーも使える。キッチンは無く簡易的なヒーターが一つ。少し天井が低いが、ぶつかる様な事もなく。正面の窓を開ければ、港とその向こうの海、気持ちの良い風が吹き抜けた。
学校の寮から運んできたほんの少しの着替えと本、ここへ来てから買った鍋と小さなフライパンとやかん、石鹸とタオルと……。兎に角、詰めようと思えば鞄一つに入るくらいの物が自分の全ての持ち物で、自分を構成する物だった。自分を構成する物と言えば、先日から抑制剤が増えた。急な
単発の仕事として、早朝の新聞配達を始めた。元々は他の地域と同じくジュニアハイスクールくらいの子供がやっていた。ちょうど隣り合った二つの地区の担当の子供が怪我と家庭の事情で一ヶ月休む間の臨時だ。それでも、二つの地区だから、とりあえずの食費分くらいは稼げそうだ。早朝の街を自転車で走り回るのは気持ちがいい。ただ、ルートをよく考えないと……坂道が多い!
まだ人々が寝ている時間に起き出す。港の近くの新聞の集配所に行く。担当地区の新聞を借りた自転車に積み込む。二つの地区の配達場所を無駄のない様にルートを考えながら配達する。終わりの頃には、街の人たちが起き出す。いろんな家族の朝の様子が見てとれる。朝ごはんを用意して、声をかけて家族を起こして、子供や夫を送り出す母親。抱きしめてキスをする。目の奥にそんな優しいシーンを焼き付ける。
ひと月の話が少し伸びて、ひと月半働いて、次の仕事を探し始めたところで二度目の
屋根裏部屋に続く階段は梯子になっている。重い梯子を部屋に引っ張り上げて、隅に立て掛ける。部屋に籠る間に誰も侵入しないように。ドアはもちろん施錠した。ベッドの周りに水や食料を用意する。悪くなってしまうので、何日か保つ果物類が殆どだ。どうせ食欲もない。そして、ただひたすら耐える。ただの動物になってしまったような自分に。無くした未来とか、優しい家庭の夢とかをたまに見る。それ以外はただただ熱に浮かされる。まだ見ぬ誰かを思って、自分を慰める。こんな事になって、こんな自分になって、本当に本当に残念だ。
夏の風が時折吹き込む。遠くの船の汽笛が聞こえる。
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