オーバーロードの帰還:世界最強ゲーマーの覚醒

鳴神健二

第0.0章:追放の始まり(1)

クリック。タップ。クリック。タップ。


軽快な指先がキーボードとマウスの上を踊っていた。リズミカルなタップ音はまるで活気ある音楽のようだった。画面には光が閃き、相手は地面に倒れ、血飛沫があがる。


「ははっ。」

葛城秋彦は笑った。口の端にくわえていたタバコを指でつまみ上げる。銀白色の灰はすでに長く伸びていたが、葛城秋彦がマウスを振り、キーボードを叩いている間も、灰はまったく落ちる気配がなかった。タバコは卓上の奇妙な形の灰皿で手早くもみ消された。

葛城秋彦の手はすぐさまキーボードへ戻る。ちょうど相手に何か言おうとしたその時、「バンッ」という音とともに扉が押し開けられた。


葛城秋彦は振り向かない。まるでこの瞬間を待っていたかのように、ただ一言だけ尋ねた。

「来たか?」


「来ました。」橘みかんの返事もまた簡潔だった。


「じゃあ行くぞ!」

葛城秋彦は再び送られてきた挑戦を拒否した。『ランド・オブ・レジェンズ』のログイン端末からカードをそっと抜き取り、立ち上がって扉へ向かう途中で、服掛けから上着を手に取った。


すでに深夜だったが、「第一世代時代俱楽部」の灯りはまだ明るくともっていた。葛城秋彦と橘みかんは部屋を出て、廊下の突き当たりへ向かって歩く。そこはとても大きな会議室だった。入った瞬間、壁一面を占める巨大なスクリーンが目に入る。その画面には「ランド・オブ・レジェンズ・プロ同盟」の戦績ランキングと、いくつかの技術統計が映し出されていた。


戦績ランキング:第一世代時代チーム 総合19位、下から2番目。


「うちのチーム、下から二番目か……。」葛城秋彦は画面を見つめた。

「全部、俺のせいなのか?第一世代時代クラブは19位か……。」


かつてリーグを三連覇したエースチームにとって、この結果は特に衝撃的だった。今、壁一面に表示されているその数字は、まるで容赦なく全員を嘲笑しているかのようだった。


しかし、部屋の雰囲気は決して重苦しいものではなかった。むしろ、かなり賑やかだった。第一世代時代のメンバーは現在、一人の人物の周りに集まっていた。葛城秋彦が会議室に入っても、誰も気に留めない。ちらりと彼を見た者たちは、冷たく嘲るような視線を向けていた。


「葛城秋彦、クラブは新たに転入してきた孫隼に、あなたのキャプテンの座を譲らせることを決定した。第五も今後は孫隼が管理する。」

葛城秋彦が入ってくると、クラブマネージャーは即座に背を向け、こう告げた。事前の連絡もなく、気遣いもない。到着した瞬間に、まるで使用済みトイレットペーパーを投げ捨てるかのように冷たく直接的な通達だった。


橘みかんが口を開こうとしたが、葛城秋彦に優しく制される。彼は微笑み、首を振って気にしないそぶりを見せた。


「葛城兄さん、到着早々にお席をいただいてすみません。」

テーブル左側の第一席――チーム第一世代時代のキャプテン席。元々は葛城秋彦の座であるはずだった。孫隼はそこに何事もなかったかのように座り、そう言ったが、葛城秋彦には一瞥もくれなかった。これは単なる無関心ではなく、完全な軽視だった。彼の視線は、葛城秋彦と一緒に部屋に入ってきた橘みかんにこそ向けられていた。


確かに、橘みかんは葛城秋彦よりも目を引いた。彼女はLOLプロ同盟でナンバーワンの美貌として知られていた。たとえ彼女がその場を離れ、美女が雲のようにいる芸能界に放り込まれても、依然として希少な美しさを放つだろう。


日常的に橘みかんを見ているエクセレント時代のメンバーですら、彼女が現れた瞬間、思わず呆然と見つめてしまった。しかし、すぐに我に返った。さらに注目に値する人物がいると感じたからだ。


「はは、孫隼兄さん、何を言っているんですか?この席はあなたにぴったりですよ。」

我に返ると、皆すぐに先ほどの言葉に続いた。


「そうだ、もう古くなって時代遅れの者もいるしな!」


「第五様は孫くんが操作すべきです。その時こそ、戦神の真の力が発揮されます。」


それが皆の注目の的だった。孫隼――LOLプロ同盟の新世代の天才プレイヤー。昨年初め、彼はルーキーキングのタイトルを獲得した。その個人成績は同年のMVP(最優秀選手)に匹敵するものだった。今シーズン、孫隼は凡庸なチーム「征雲隊」を率いてLOLプロ同盟で8位に導いた。プレーオフ進出の期待もあったが、途中で成績不振の第一世代時代クラブに移籍したのだ。これは、第一世代時代クラブの成績は散々でも、LOL界で「戦神」と称されるアカウント――バトルメイジの第五様――を所有していたからにほかならなかった。


プロ同盟入りからまだ2年足らずの若者だが、年齢はそれほど高くない。しかし第一世代時代のメンバーは、平気で彼を「兄さん」と呼ぶほど図々しかった。孫隼がチーム第一世代時代の未来のリーダーであることは誰の目にも明らかだったのだ。孫隼はそのお世辞を余裕たっぷりに受け入れ、ついに葛城秋彦に目を向けた。その視線は軽蔑に満ちていた。


「葛城秋彦、第五様のアカウントカードを孫隼に渡せ!」

クラブマネージャーが言った。


どれだけ平然を装っていても、葛城秋彦の胸に鋭い痛みが走った。葛城秋彦――第五様。その名だけで、このアカウントが葛城秋彦に深く関係していることは明白だった。これは、彼がLOLの世界に初めて足を踏み入れたときに作ったアカウントだ。十年。十年間、葛城秋彦と共に歩んできたアカウントだった。かつての初心者は、LOLの教科書的存在として名を馳せる大高手となり、あの小さなバトルメイジは、ランド・オブ・レジェンドで「戦神」と呼ばれるまでになった。


しかし七年前、プロシーンに参入してクラブと契約した際、第五様の所有権はクラブに移されていた。葛城秋彦は、いつかこの日が来ることを覚悟していた。そして、その日はついに訪れたのだ。


葛城秋彦の指先がわずかに震える。プロプレイヤーにとって、手の安定は必須条件だ。しかし今、葛城秋彦の手は確かに震えていた。精神力は決して弱くはない。橘みかんは視線を逸らした。この場面を見たくなかったが、何もできなかった。


皆の嘲笑の視線が注がれる中、第五様の銀色のアカウントカードが孫隼に手渡された。


孫隼の目は興奮と欲望に光った。過去二年間低迷していた第一世代時代クラブに、自ら進んで移籍したのも、すべて第五様の最上位アカウントを手に入れるためだった。第五様の元の使い手、葛城秋彦は近年、クラブと度々衝突していた。孫隼は、自分がその座を完全に奪えると確信していた。


「手に入れた!」

カードを手にした瞬間、孫隼は興奮に震えた。しかし同時に、カードからわずかな抵抗を感じた。


孫隼は葛城秋彦の躊躇を感じ取り、得意げに笑った。

「放せよ、葛城。見ろよ、この手。こんなに震えてるじゃないか。こんな手でどうやって戦神の力を発揮するんだ?俺にやらせろ!俺が戦神の名を再び栄光中に轟かせてやる。お前?引退しろ!」


言い終えると、孫隼は葛城秋彦の無関心そうな瞳に、一瞬鋭い光が宿るのを目にした。ずっと手放したくなかった古いアカウント。だが、葛城秋彦のわずかに震えていた手が、突然ピタリと止まったのを見て、孫隼は驚きを隠せなかった。


「このゲーム、好きか?」

葛城秋彦は突然、孫隼をまっすぐに見据えて問いかけた。


「な…何だ?」

孫隼は目を見開き、言葉を失った。


「もしこのゲームが好きなら、すべてをリスペクトして扱え。見せびらかすためじゃなくな。」


「何を言ってるんだ?これが俺と何の関係がある?」

孫隼は突然、平静を失った。この瞬間、理由はわからないが、なぜか自分が葛城秋彦より一歩も二歩も劣っている気がした。勢いの面で負けたくない。自分は葛城秋彦の代わりに来たのだ。第一世代時代の戦神を手に入れるために来たのだ。


「大事にしろ。」

孫隼が勢いを取り戻そうとしたその瞬間、葛城秋彦はすでにアカウントカードを手放していた。無表情にそう言い放ち、背を向けて去ろうとする。


「葛城秋彦!」

その時、マネージャーが突然呼び止めた。


葛城秋彦は立ち止まり、少し首を傾げる。背後でマネージャーが言った。

「今、クラブにはあなたに合うアカウントはありません。しばらくの間、チームのスパーリングパートナーを務めてもらいます!」


『スパーリングパートナー』


アライアンスで王朝を築き、個人の栄光をすべて手にしたエキスパートが、今やスパーリングパートナーに格下げされたのだ。


孫隼はこの扱いに大いに興味を示し、すぐに笑って言った。

「葛城さんの技術なら、スパーリングパートナーなんて問題ありませんよ。ランド・オブ・レジェンズ・プロ同盟のナンバーワン・スパーリングパートナーは間違いなくあなたです!」


「はは。」

侮辱されても、葛城秋彦は笑うことができた。振り返り、マネージャーを見つめて言う。

「スパーリングパートナー?必要ないと思う。契約を解除しよう!」


「契約を解除?自分で契約解除するつもりか?」

マネージャーの表情は、どこか面白そうだった。


「そうだ。契約を解除したい。」


「衝動的になるな!」

橘みかんがすぐに駆け寄って止めた。アライアンスには規則がある。契約期間中、特別な理由がなければ契約を解除したい場合、違約金を支払わなければならない。葛城秋彦には第一世代時代との契約がまだ一年半残っていた。強引に解除すれば、大きな損害を受けるだろう。しかし橘みかんが恐れていたのは、葛城秋彦が離れてしまうことだった。


「ボスはまだ来ていません。ボスが来るまで待ちましょう!」

橘みかんは葛城秋彦が落ち着くことを願った。


しかし葛城秋彦は、すでにマネージャーの顔に浮かぶ嘲りの色を見抜いていた。苦笑しながら橘みかんに首を振る。

「みかん、まだわからないのか?俺を追い出そうとしているのはボスの目的だ。クラブにとって俺の存在には価値がない。俺はただの給料の重荷だ。」


「そんな、重荷なわけがないでしょう?技術に関しては誰にも負けていないじゃない。」

橘みかんはそう言った。


「これは技術の問題だけじゃない。これはビジネスの問題だ。俺には商業的な価値が一度もなかった。」

葛城秋彦が言う。


「あるはずだった。しかし、お前はそれを放棄した。」

マネージャーが突然、冷たく口を挟む。


「そうだ。これは俺の選択だった。」

葛城秋彦は言った。ランド・オブ・レジェンズ・プロ同盟は現在、盛況を極めていた。あらゆるスポンサーが参入しており、アライアンスのスター選手たちは広告やタイアップの需要が高かった。しかし、トッププレイヤーである葛城秋彦は、広告やタイアップへの参加を一切拒否していた。インタビューや記者会見への参加すら断っていた。まるで古のネット民のように、仮想世界での正体を慎重に隠していたのだ。


クラブは非常に不満を抱いていた。目の前に山ほどの金があるのに、ひとつも利益を得られないのだ。幸い、葛城秋彦の実力は圧倒的で、クラブをアライアンス内で名を知らしめ、多くの名声を得させていた。だからこそ、彼をある程度容認していた。しかし今、成績が振るわなくなったことで、すべてが以前と同じではなくなっていた。


「アライアンスの商業化によって、俺たちは生き残ることができた。しかし今は……」

葛城秋彦は言葉を続けられなかった。この展開が良いのか悪いのか、自分でもわからなかった。現在のアライアンスは欲望で満ちていた。クラブオーナーたちの最初の思考は、チームをどう利益に結びつけるかだった。ゲームへの愛を胸に、名声のためにひたむきに努力してきた葛城秋彦は、発展し始めたばかりのアライアンスを懐かしく思った。今では、栄光の追求も、すべてより大きな利益のために行われているのだ。


橘みかんは何も言わなかった。彼女もまた葛城秋彦と同じ道を歩み、このすべてを見てきたベテランだった。目には涙が浮かんでいる。葛城秋彦が本当に去ろうとしていることを理解していた。止めれば、彼にさらに苦しみを与えるだけだ。


「そうなると、私……」


「その必要はない。」

葛城秋彦は微笑み、橘みかんの言葉を遮った。彼は彼女が言いたいことを理解していた。

「心配するな。まだ絶望しているわけじゃない。必ず戻る。」


「悪くない。さすが俺の知る葛城秋彦だ。本当に野心的だな。それなら違約金の話をしよう!正直に言えば、これまで第一世代時代に長年在籍し、努力と貢献を重ねてきた。無情にはできない。去りたいのなら、皆で座って契約解除の条件を話し合おう。」


「言え。条件は何だ?」

葛城秋彦が尋ねる。


「単純だ。条件は非常に簡単。退団を宣言することだ。」

マネージャーが言った。


「退団?まだ心はないのか?」

橘みかんは激怒した。葛城秋彦は25歳。プロeスポーツ選手としては年長に差し掛かる年齢だ。この年齢で引退することは珍しくない。しかし葛城秋彦はすでに、諦めるつもりはないことを示していた。第一世代時代のマネージャーは、条件として退団を求めた。明らかに彼を狙ったものだった。


引退した選手は、当然プロシーンへの参加権を持たない。復帰できる場合でも、ランド・オブ・レジェンズ・プロ同盟には、引退後1年間は復帰できないというルールがある。これは、翌日チームを変えるような引退を防ぐためだ。葛城秋彦はすでにキャリアの終盤にあり、毎日が貴重だった。今、1年を無駄にすることになる。1年後に復帰しても、年齢的に遅すぎる。高レベルの競技を維持する1年を失うことになるのだ。かつての名声だけで、チームが彼を受け入れるかは疑わしい。そして忘れてはならないのは、葛城秋彦には致命的な欠点があるということだ――彼はビジネス活動に一切関わろうとしないのだ。


これは受け入れがたい条件のように思えた。しかし葛城秋彦は頷いた。

「承諾する。」


「正気ですか?」

橘みかんは驚きの声をあげた。


「これまで何年も努力してきたんだ。一年くらい休むくらい、何が問題だ?」

葛城秋彦は笑った。


「あなた……何を考えているの?」

橘みかんは理解できなかった。


「何もない。」

葛城秋彦は顔をそらした。マネージャーはすでにいくつかの書類を手渡していた。葛城秋彦はそれを受け取り、微笑む。相手は本当に準備してきていたのだ。そう考えると、葛城秋彦は素早くペンを置き、署名した。


彼は去ろうとしていた。葛城秋彦は、この7年間過ごしてきた場所を最後に一目だけ見た。これ以上の丁寧な別れの言葉はなく、静かに背を向け、去る準備をした。


「見送りは私がします。」

橘みかんだけが、後ろから彼に付き添った。


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