10日目 夜まで
口の中はもう肉の塊だ。
歯は残り数本で、指で触るとぐらぐらと揺れて、すぐに抜ける。
抜けた歯が舌の上に乗って、血と一緒に飲み込んでしまう。
歯茎は黒紫に腫れ、押すと膿と血が噴き出す。
唾液は完全に血の泡で、息をするたびに口の端から赤い糸が垂れる。
垂れた血は顎を伝い、首筋を這い、鎖骨の窪みに溜まって、
そこからまた滴り落ちる。
制服の胸はもう黒光りするほど血と泥がこびりついている。肺が焼ける。
咳き込むたびに、喉の奥から生温かい塊がこみ上げて、
口を覆っても指の間から血が噴き出す。
今度は真っ赤で、細かい泡が混じっている。
肺から直接出ている。
吐いた血は地面にべったりと張りつき、
すぐに黒く固まり始める。足はもう動かない。
膝から下の感覚が完全に消えた。
歩くというより、前のめりに倒れて、
手で地面を掴んで体を引きずる。
爪は全部剥がれ、指先は血だらけの肉塊だ。
手のひらも皮がめくれて、白い筋が露出している。
それでも掴む。
離したら終わりだから。幻覚は、もう見えない。
天狼さんの姿も、声も、完全に消えた。
最後に見た笑顔すら、思い出せなくなった。
頭の中は真っ白で、ただ痛みと血の味だけが残る。倒れる。
顔から地面に突っ込む。
鼻が潰れて、血が噴き出す。
意識が落ちる。
暗闇。
でも、すぐに寒さで目が覚める。また這う。
肘と膝で、体を引きずる。
血の跡が、長い一本の線になって後ろに続く。川はもう遠い。
音すら聞こえない。
喉が渇いて死にそうで、
でも這う力すら残っていない。
舌は腫れて口から飛び出し、乾いてひび割れている。
唾を吐こうとしても、血の塊しか出ない。太陽が沈む。
空がオレンジから紫、そして黒へ。
気温が急に下がる。
体がガタガタ震える。
震えすぎて、歯が残ってる部分が全部欠ける。
欠けた歯が口の中に散らばり、血まみれで飲み込む。夜が来た。
星が異様に明るい。
でも、首を上げられない。
地面に頬を押しつけたまま、
ただ呼吸するだけ。息が、白い。
でも、すぐに血の泡に変わる。
肺が、もうほとんど機能していない。
一回息を吸うのに、全身を使う。
胸が、ぎゅっと縮こまる。
吐く息は、血の霧になる。血が止まらない。
口から、鼻から、耳からも滲み出ている気がする。
頭の傷は完全に化膿し、
髪の毛ごと膿が固まって、頭蓋に張りついている。
触ると、頭皮が一緒にめくれる。動けない。
もう這う力もない。
ただ、地面に突っ伏したまま、
血を吐き続ける。夜風が冷たい。
体温がどんどん奪われる。
震えが止まらない。
でも、汗は出ない。
体に水分が残っていない。意識が、ふらい、と浮く。
暗闇が近づいてくる。……寝たら終わりだ。でも、もう、目を開けていられない。血の味しかしない。
痛みすら、遠くなっていく。私は、地面に顔を埋めたまま、
ただ、
息をしていた。まだ、
終わっていない。
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