一話目「喉元」を読んで、まず怖いと思ったのは怪異の有無ではなく、語り手の「疑わずに駆けていった」という反復そのものでした。友人の喉の震えを信じ続けてきた関係が、歌詞の一節や写真の投稿日時という些細な不一致から、少しずつ違う形に見えてくる。種明かしをしないまま「彼女の歌は、すべて本物だった」で終わる構成が、答えを読者に投げ返してくる感じがして、読後にもう一度最初から読み直したくなりました。
紹介文にある「いちばん怖いのは、そう読んでいた自分かもしれません」という仕掛けが、まさにその通りに機能している短編集だと思います。日常の些細な違和感(既読の速度、写真の背景、優しさの裏側)を積み重ねて、人間関係そのものをホラーにする手つきは、派手な怪異よりずっと長く残る怖さがあります。
短編形式なので一話ずつの密度も高く、続けて読みたくなる連作です。サイコロジカルホラー、または「日常の隙間にある悪意」が好きな読者にはとても合う一作だと思います。