Style.13 全力わんこ 恋に吠える!


 ──日曜日、森林公園前。


 明るい森の空気にぴったりな薄いデニム地のショート丈オーバーオールに清潔感のある白いTシャツを合わせた真受は──とびきり“わんこ感”をまとっていた。


 足元は、走り出したくなるような軽量スニーカー。ネイビー調の落ち着いた色味に白いラインが入り、活発さをさりげなく演出。


 そして何より今日のファッションの主役は、左右で丸くまとめたツインお団子。耳のようにちょこんと跳ねたその髪が、真受をいっそう犬っぽく見せる。


(完璧! 私は今日、誰よりも犬……!)


 そこへ現れたのは、いつも通りの寺島陽太。

キャップにTシャツにラフなジーンズ。シンプルなザ・陽太コーデ。


 その隣には、ちょこちょこと歩くウェルシュ・コーギー、サブローの姿が。


「わぁ! 写真より可愛いっ!」


 真受はサブローに駆け寄り、屈んで手を差し出す。


「サブロー、こんにちは! なでなでしてもいい!?」


 サブローは嬉しそうに真受の指をぺろりと舐めた。


「わっ! くすぐったいよぉ!」


 にこにこ顔でサブローを撫でる真受を、陽太は優しく見つめていた。


(寺島くんが見てる……ここ、チャンス!?)


 ぎゅっと両手を顎下で組み、上目遣いで陽太を見つめる真受。


「寺島くん。サブローすごく可愛いね……」


「あ、ありがとう……桐沢さんも、今日すごく可愛い……」

 陽太は頬を指で掻きながら、照れくさそうに目をそらした。


 ──かかか、可愛い!?


 嬉しい! でも、ここで“追い討ち”をかけなきゃ!


 目を潤ませる……潤ませる……


 ──ってどうやんの!?


 とにかく、瞬きを一切せずに「カッ!」と目を開き続ける真受。


「…………桐沢さん?」


 真受は陽太を見つめたまま微動だにしない。

開き続けた瞼が痙攣してピクピク震える。


(目よ潤めっ! 潤めっ!)


「えっと……あの……行こうか」

気まずそうに公園に向かう陽太とサブロー。


 うるうる作戦──早速失敗!


◆◆◆


 公園内を散歩中も真受は“犬系ムーブ”を絶やさないように必死である。


「今日天気良くて、すっごい気持ちいいね……くぅんっ」


「……くぅん?」

 陽太はよく分かっていない様子だが、真受は上機嫌。


(お散歩楽しいっ……“ご主人さま”と一緒に!)


 ──サブローが草原でゴロゴロとお腹を見せながら、「キャン」と鳴いて首を傾げる。


(サブローほんと可愛いっ! そうだ、私もあんな風に……あの角度で……)


「ねぇ、寺島くん……」


「え? なに?」


 陽太に向けて、真受はひょこんと首を傾げる。


「ご、ごごご、ごしゅじ……


 ──パキィッ!

 真受の首から異音が響いた。


「痛ったぁ!? 首が……今、変な音した……!」


「え!? だ、大丈夫!? なんかすごい音したけど!?」


「うん。……だ、大丈夫」

 真受は今更、目がうるうるになった。


◆◆◆


 ──ドッグランにて。


「ほらサブロー、ボール取ってこーい!」

 陽太がボールを投げると、サブローが走り出す。


 それにつられて、真受もピクッ。


(あれ……これは“行け”ってこと……? 私も行った方が……?)


 二、三歩前に出て──ギリで踏みとどまる。


「えっ!? 今、ボール取りに行こうとしなかった!?」

 陽太が驚きながら笑う。


「いや、ごめん。ちょっと……条件反射で……!」

(自分が怖い……!)


「あははっ! 何の反射!? 桐沢さん、面白い!」


「あ、あははは……」

(ダメ……犬になっちゃダメ……犬系女子ってそういうんじゃないんだよね)


 真受は"犬系"を見失いそうな自分に喝を入れた。


「ね、寺島くん。次は私がボール投げてもいい?」


「もちろん!」


 ──真受が投げたボールを、サブローが見事にキャッチして戻ってくる。


「すっごーい! お利口!」


 サブローが口からポトリと落としたボールを真受が拾おうとしたその瞬間──


「よしよし……」

 突然頭に乗る、陽太の手。


 ドキ……!


 真受の心臓が止まりそうになる。


「あっ……ご、ごめん! 今のはサブローを撫でるつもりで……ごめん、本当に!」

 陽太が慌てて手を引っ込める。


 真受の脳はショート寸前。


(え……なに……今のは、ど、ど、どう返せばいいの? わかんない! えーと犬系女子……犬系……)


 真受はちょこんと軽く握った手を前に出し、大きく開けた口から舌をべろんと出すと、犬のように細かな息を漏らした。


「ヘッ……ヘッ……ヘッ……ヘッ……!」


「えっ……!? 桐沢さん!?」

 陽太はビクッと硬直。


(だから違うってええええ!! 何やっちゃったの私! 死んだぁー!)


 真受は心の中で発狂した。



◆◆◆


 その後、夢中でサブローと遊びまくった真受は泥だらけになっていた。


 周囲から笑い声が起きる。


『クスクス、可愛い……』

『犬とあそこまで本気で遊ぶ子、初めて見た』


「えっ……あ、私……」

 気づけば全身ドロドロ。服も髪も泥だらけ。


 ──途端に顔が赤くなる。


「ごめんね、寺島くん……私こんな泥だらけ……恥ずかしいよね?」


 陽太は笑顔で即答。


「ぜんぜん! すっごい楽しいよ!」


「ほんとに?」


「うん!」


(よかった! "やらかし"はあったけど……陽太くんは楽しそうだ……)


 真受はホッと胸を撫でおろす。


(犬系女子作戦、一応成功……したのかな……?)


 真受は心の中で、小さく尻尾を振った。


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