魔王城の飯がマズすぎて家出しました

@mia9503

第1話 ピーマンなんか嫌いだから

魔王は二時間以上食卓の前だった。メイドのユーズが見張っているからだ。本を読んでいる彼女の隙を見て食卓から離れようとしたら。


『ユリア様。ピーマンを食べなければ行かせません。』


と叱られた。


『ピーマンは嫌だもん!』


魔王は抵抗してみたが、ユーズに睨まれ大人しく座った。


『もうすぐ人間界学の授業だよ。』

『そうですね。』

『人間界学って重要だよ。帝王学の中で一番重要かも。そこからいつも敵が来るからちゃんと勉強しないと。』


魔王は学びの重要性を強調するように人間界学の教科書をみせた。でも、ユーズは目をくれなかった。


『立派な志です。ユリア様。』

『もう、急がないとだから!』

『じゃ、急いでピーマンを食べたらいいですね。』

『いちごケーキなら食べるけど。』


ユーズは首を上げて魔王を見た。


『それは人間界の食べ物です。魔族には毒となります。』

『でもおいしそうじゃん。魔界の食べ物ってまずいのしかないんだから。』

『竜の目玉焼きとかはおいしいですね。』

『まずっ。』

『泥みそスープはいかがでしょうか。』

『嫌。』

『敵のものを上にし、自国のものをしたにするのは帝王がすることではありません。ユリア様は魔王の身であることを忘れないでください。』

『うざい。』


頬っぺたを膨らませる彼女にユーズは心配そうに言った。


『ユリア様、いつかおっしゃいましたね。自分も大きな角を持ちたいって。苦いものを食べないと角は伸びませんよ。』

『ユーズはピーマンよく食べる?』


ユーズは黒くてストレートな美しい角の持ち主だった。魔王はいつも彼女の角を羨ましそうに見つめたりほめたりした。ユーズは自慢するように角をさすりながら答えた。


『ええ。もちろんです。』

『じゃ、食べない。』

『どうしてですか?ピーマンをたべたらこんなに綺麗に角が伸びますよ。』

『角だけ綺麗なおばさんにはなりたくないから。』


一瞬、ユーズの手が止まった。彼女はにっこり笑いながらゆっくり立ち上がった。そして魔王に近づきピーマンたっぷりの皿を持ち上げた。


『すみません。今から片づけをします。』

『いよいよ諦めたんだね?ピーマンなんか食べたくないっていつも言ってるのに。ユーズってしつこいんだから。』


魔王は今度こそ食卓から離れようとした。そんな魔王にユーズは囁いた。


『好き嫌いはダメです。』


そして魔王の口を開け、ピーマンをその中に注ぎ込んだ。魔王は吐こうとしたが、それより早くユーズが魔力で魔王の口を封鎖した。


『う、うぇぇ…』


ピーマンを飲み込んだ魔王は死にそうな顔で吐き気をした。


『心配いりません。苦味は角を伸びるだけでおばさんにはしませんから。』


ユーズは食卓の皿を重ねた。彼女は重なったものを持って魔王に言った。


『好き嫌いしないのも帝王学の一部です。全部ユリア様のためだということはご存じですね。』


魔王は答えなかった。


『今日からは毎食ピーマンを出します。食卓マナーを学ばないと魔王の権威が立ちません。』


それだけ伝えてユリアは食堂を出た。

魔王はもう帝王学なんて辞めたかった。王というのに遊びもできず、おいしいものも食べられずいう通りにしかできないから。彼女は拳に怒りを込めて食卓をうった。そうすると食卓から人間界学の教科書が落ちて頭にぶつかった。


『もう!』


魔王は頭をさすりながら教科書が落ちた方向を睨んだ。教科書は開かれていた。人間界食文化について説明されているページだった。いちごケーキが見えた。彼女は思った。

そんなにおいしそうな物が毒であるわけないと。

ランチは朝飯同様ピーマンであるはずだった。魔王はもうあきた。おいしいものを食べたかった。もうピーマンなんか食うのは死ぬより嫌だった。


『人間界にいこう。』


当日彼女はなんの授業にもいかなかった。

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