『俺達のグレートなキャンプ184 釣り名人からピラニアの釣り方を教わろう!?』
海山純平
第184話 釣り名人からピラニアの釣り方を教わろう!?
俺達のグレートなキャンプ184 釣り名人からピラニアの釣り方を教わろう!?
「よっしゃああああ!! 今回のグレートキャンプはこれだぁ!!」
石川が両手を天高く突き上げながら、目をギラギラと輝かせて叫んだ。その勢いで椅子から立ち上がり、テントの前で謎の勝利ポーズを決めている。朝日が彼の後ろから差し込み、まるで救世主のようなシルエットを作り出していた。腰に両手を当て、顎を上げて遠くを見つめるその姿は、もはや何かの宗教画のようだ。
「お、おう...今回は何だ?」
千葉が目をこすりながら寝袋から這い出してくる。髪はぼさぼさで、Tシャツは寝相の悪さを物語るように捻じれていた。それでも目には期待の光が宿っている。石川の突飛な企画を聞くのが、すっかり彼の朝の楽しみになっていた。口元には無意識ににやけた笑みが浮かんでいる。
「釣りだ!! 釣り!!」
「お、いいじゃん! 普通に楽しそう!」
千葉がパッと顔を明るくした。これは珍しい。石川の企画にしては実にまともな響きだ。釣りなんて、キャンプの定番中の定番じゃないか。彼は勢いよく立ち上がり、パンパンと両手を叩いて喜びを表現した。
「でもなぁ...」
富山が不安そうな表情でコーヒーカップを両手で握りしめながら呟いた。カップを持つ手が微かに震えている。彼女の眉間には既に深い皺が刻まれている。長年の経験が告げているのだ。石川の企画が「普通」で終わるはずがないと。予感という名の確信が、彼女の胃を重くしていた。
「ただの釣りじゃないぜ! なんと!! 釣り名人から『ピラニアの釣り方』を教わるんだ!!」
石川が勢いよく人差し指を空に向けて突き上げた。その瞬間、周囲の空気が凍りついた。千葉の笑顔がフリーズし、富山のコーヒーカップが傾いで危うく中身がこぼれそうになる。
「...は?」「...ピラニア?」
二人の声が重なった。
「そう! ピラニア! あの肉食魚! ギザギザの歯でガブガブ食いちぎるやつ!!」
石川が両手を口元に当てて、ガブガブと噛みつく仕草をする。その動きは妙にリアルで、まるで本当にピラニアが憑依したかのようだった。顔を左右に振りながら、獲物を食いちぎる様子を熱演している。
「いや待て待て待て!! ここ日本だよ!? しかも内陸の湖だよ!? ピラニアなんているわけないでしょ!!」
富山が立ち上がってコーヒーカップをテーブルに置いた。カップが木製テーブルにカツンと音を立てる。彼女の両手は既に頭を抱える準備をしていた。
「そこがグレートなんだよ!! ピラニアがいない湖で、ピラニアの釣り方を学ぶ!! これぞ究極の無意味!! 最高にグレートじゃねえか!!」
石川が両腕を大きく広げて、まるで世界を抱擁するかのようなポーズを取った。その顔は達成感に満ち溢れていて、既に何か偉大なことを成し遂げたかのような表情だ。目尻には感動の涙すら浮かんでいる。
「いや、意味わかんないから!! むしろ意味なさすぎて怖いから!!」
富山が頭を抱えた。両手で自分の頭をガシッと掴み、小刻みに震えている。
「いいじゃん富山! どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなるって!!」
千葉が目をキラキラさせながら立ち上がった。完全にスイッチが入っている。彼の中では既に「ピラニア釣り講習会」が最高のエンターテインメントとして確立されていた。両手をグーにして胸の前で振りながら、期待に体を震わせている。
「千葉くんまで...!!」
富山が絶望的な表情で天を仰いだ。
「で、その釣り名人って誰なの?」
千葉が興味津々で尋ねる。
「隣のサイトの山田さん! めっちゃ釣り好きらしくて、昨日俺が『ピラニア釣ったことあります?』って聞いたら、『あるよ! アマゾンでな!』って!!」
「マジで!?」
千葉の目がさらに輝いた。もはや瞳の中に星が見える勢いだ。
「あの、おはようございます」
隣のサイトから、50代くらいの渋い男性が顔を出した。深く日焼けした肌に、使い込まれた釣り用ベストを着ている。いかにも「釣り一筋」という雰囲気を醸し出していた。目つきは鋭く、まるで獲物を狙う鷹のようだ。
「おお! 山田さん! 準備できましたよ!!」
石川が満面の笑みで手を振った。
「昨日の話、本気だったのか...」
山田が困惑した表情で額に手を当てたが、すぐに表情を引き締めた。
「まあいい。釣りってのは真剣勝負だ。ピラニアだろうが何だろうが、俺は本気で教えるぞ」
山田の目が鋭く光った。その瞬間、彼の周りの空気が変わった。まるで戦場に立つ戦士のような気迫が漂っている。
「お願いします!!」
石川と千葉が同時に頭を下げた。その姿は武道の稽古を始める弟子のようだ。
「はぁ...」
富山が深いため息をついた。
湖畔に四人が並んで立っている。朝の湖は穏やかで、水面がキラキラと朝日を反射していた。遠くで水鳥が鳴いている。実に平和な光景だ。だが、これから起こる異常事態を、まだ誰も予測していなかった。
「まず、ピラニアは肉食だ」
山田が真面目な表情で釣り竿を構えた。その姿は完璧にプロフェッショナルだ。
「だから、餌は...これだ」
山田がクーラーボックスから取り出したのは、生々しい牛肉の塊だった。血が滴るような赤身肉。明らかに釣り餌のレベルを超えている。
「う、牛肉...!?」
富山が目を見開いた。
「ピラニアは血の匂いに敏感だからな。新鮮な肉ほど効果的だ」
山田が牛肉を針に刺し始めた。その手つきは慣れたもので、まるで外科医が手術をするかのような正確さだ。
「すげえ...!!」
千葉が目を輝かせながらメモを取り始めた。スマホのメモアプリに必死に打ち込んでいる。その集中力は、まるで大学の講義で最前列に座る真面目な学生のようだ。
「そして、ピラニアは群れで行動する。だから投げるポイントも重要だ」
山田が湖面を見つめる。その目は何かを探っているようだ。風が吹き、水面に小さな波紋が広がる。
「...あそこだ」
山田が指差した先は、何の変哲もない水面だった。少なくとも素人目には。
「何もないように見えるけど...」
富山が首を傾げる。
「いや、いる。ピラニアの群れがいる」
山田の声には確信が満ちていた。そして、彼は釣り竿を振りかぶり、豪快に投げた。牛肉を付けた針が空を切り、水面に着水する。ボチャンという音が湖に響いた。
「...」
四人が息を呑んで見つめる。
数秒後。
グググッ!!
竿が大きくしなった。
「!?」
全員が驚きの声を上げた。
「きた!!」
山田が力強く竿を引き上げた。その動きは力強く、まるで何か巨大なものと格闘しているようだ。竿がしなり、リールが唸りを上げる。
ザバァッ!!
水面から飛び出したのは...
「ピ、ピラニアーーー!!?」
石川と千葉が同時に叫んだ。
信じられないことに、山田の釣り竿の先には、紛れもないピラニアが暴れていた。銀色に光る体、ギザギザの鋭い歯、獰猛な目つき。教科書で見たピラニアそのものだ。
「な、な、な...!!」
富山が言葉を失った。口をパクパクさせているが、声が出ない。まるで陸に上げられた魚のようだ。
「ピラニアは引きが強い。しっかり竿を持たないと持っていかれるぞ」
山田が涼しい顔で言いながら、ピラニアを手際よく外した。その手つきは完璧だ。まるでピラニアの扱いが日常茶飯事であるかのように。
「す、すげええええ!!」
石川が感動で涙を流しながら叫んだ。その目には尊敬と畏怖が入り混じっている。
「山田さん、マジで神!!」
千葉も興奮で顔を真っ赤にしながら、スマホでバシバシ写真を撮りまくっている。シャッター音が連続で鳴り響く。
「え、ちょ、待って!! なんでピラニアが!? ここ日本の湖だよ!?」
富山が混乱で頭を抱えた。
「次はお前たちの番だ」
山田が石川に竿を渡した。
「は、はい!!」
石川が緊張した面持ちで竿を受け取る。その手は興奮で震えていた。
「さっき教えた通りだ。餌は牛肉。ポイントは...そうだな、あそこだ」
山田が別の場所を指差した。
石川が言われた通りに竿を振る。投げ方はぎこちないが、何とか指定されたポイントに着水した。
「おお、いいぞ。あとは待つだけだ」
山田が腕を組んで頷く。
「ピラニアが釣れるまで、心を無にして...」
その時だ。
グググッ!!
「うおおお!! 早い早い!!」
石川の竿が大きくしなった。あまりの引きの強さに、石川の体が前のめりになる。
「落ち着け! 竿を立てろ!」
山田が指示を出す。
「は、はい!!」
石川が必死に竿を立てる。その顔は真剣そのもので、額には汗が滲んでいた。
ザバッ!!
「うおおおお!! ピラニアだああああ!!」
石川の釣り竿の先で、また一匹のピラニアが暴れていた。ギラギラ光る鱗、凶悪な歯。完璧なピラニアだ。
「やったああああ!! 俺、ピラニア釣った!! 人生初ピラニア!!」
石川が子供のように飛び跳ねて喜んでいる。その姿はまるで初めて魚を釣った少年のようだ。目には感動の涙が光っている。
「すげえ!! 石川すげえ!!」
千葉も一緒に飛び跳ねている。二人で抱き合って喜びを爆発させていた。
「...おかしい。絶対おかしい」
富山が呆然と呟いた。
「次、俺の番!!」
千葉が目を輝かせて前に出た。
山田が無言で頷き、千葉に餌の付け方を教える。その指導は丁寧で、まるで本当にアマゾンで釣りをするかのようだ。
「ポイントは...あそこだな」
山田がまた別の場所を指差す。
千葉が投げる。着水。
そして、わずか5秒後。
グググッ!!
「きたああああ!!」
千葉の竿がしなる。
「すげえ引き!! これがピラニア!!」
千葉が興奮しながら竿を操る。その動きは初心者とは思えないほど大胆だ。
ザバッ!!
「ピラニアーーー!!」
三匹目のピラニアが姿を現した。
「よっしゃああ!! 釣れた釣れた!!」
千葉が喜びで震えている。その手はプルプルと興奮で震え、笑顔は最高潮に達していた。
「ピラニア釣りってこんなに楽しいのか!!」
「だろ!? グレートだろ!?」
石川と千葉がハイタッチを交わした。パァン!! という乾いた音が湖畔に響く。
「...」
富山が無言で三匹のピラニアを見つめていた。どう見てもピラニアだ。疑いようのないピラニア。日本の湖に、普通に泳いでいて、普通に釣れるピラニア。
「山田さん、この釣り方のコツって何なんですか!?」
千葉が興奮気味に尋ねた。
「コツか...まず、ピラニアの気持ちになることだ」
山田が真剣な表情で答えた。
「ピラニアの気持ち...!?」
「そうだ。お前がピラニアだったら、どこに群れる? 何を食いたい? それを考えるんだ」
山田の目が鋭く光った。その言葉には重みがあり、まるで禅問答のようだ。
「深い...!!」
石川が感動で膝を折った。まるで啓示を受けた信者のようだ。
「そして、これが重要なんだが...」
山田が二人を手招きした。石川と千葉が身を乗り出す。
「餌の付け方にもコツがある。ピラニアは目がいいからな、肉の付け方で興味を示すかどうかが変わる」
山田が新しい牛肉を取り出し、独特な方法で針に刺し始めた。肉を少し捻りながら、針の先端を微妙に出す。その技術は職人芸と呼ぶにふさわしい。
「おおお...!!」
二人が息を呑んで見つめている。
「それと、投げる時は竿を45度に傾けて、手首のスナップを効かせる。こうするとピラニアが好む水音が出る」
山田が実演する。シュッという音とともに、餌が綺麗な弧を描いて飛んでいく。着水音も計算されているかのように、絶妙な音を立てた。
「この音か...!!」
千葉がメモアプリに必死に打ち込んでいる。「45度」「手首」「水音」という単語が並ぶ。
グググッ!!
「またきた!!」
山田の竿がしなる。
ザバッ!!
四匹目のピラニア。
「はええええ!!」
石川が叫んだ。
「ピラニアは群れで行動するから、正しいポイントに投げれば連続で釣れる」
山田が涼しい顔で言いながら、ピラニアを外す。その手際の良さは、もはや芸術の域に達していた。
「すげえ!! 山田さん、完全にピラニアマスターじゃないですか!!」
千葉が尊敬の眼差しで見つめる。
「いや、まだまだだ。本場のアマゾンにはもっとすごい釣り師がいる」
山田が謙遜するように首を振った。しかしその目には、確かな自信が宿っている。
「俺も もっと釣りたい!!」
石川が再び竿を持った。
次々と投げる。着水。待つこと数秒。
グググッ!! ザバッ!! ピラニア。
グググッ!! ザバッ!! ピラニア。
グググッ!! ザバッ!! ピラニア。
「釣れる釣れる釣れる!!」
石川と千葉が興奮で叫び続けている。二人の顔は紅潮し、目は輝き、まるで何か禁断の快楽に溺れているかのようだ。
気づけば、クーラーボックスの中はピラニアでいっぱいになっていた。ギザギザの歯が並ぶ光景は、ある種グロテスクでさえある。
「...ねえ」
富山が静かに口を開いた。その声は妙に冷静で、それがかえって不気味だった。
「なに? 富山も釣りたくなった?」
石川が満面の笑みで振り返る。
「そうじゃなくて...」
富山が深呼吸をした。そして、意を決したように言った。
「ピラニアしか釣れないの?」
「「え?」」
石川と千葉が同時に固まった。
山田の動きも止まった。
静寂が流れる。
「だって...さっきから全部ピラニアじゃん。他の魚、一匹も釣れてないよね?」
富山の指摘はもっともだった。確かに、釣れるのは全部ピラニア。バスも、フナも、コイも、何も釣れていない。ピラニアオンリー。
「...」
山田の顔が曇った。その表情には、明らかな動揺が浮かんでいる。
「そ、そんなことは...」
山田が竿を持ち、違うポイントに投げた。
待つこと数秒。
グググッ!! ザバッ!!
ピラニア。
「...」
山田が別のポイントに投げる。
グググッ!! ザバッ!!
ピラニア。
「...」
さらに別の場所。
グググッ!! ザバッ!!
ピラニア。
「ピラニアしか...釣れない...?」
山田の声が震えていた。その目には、信じられないものを見たかのような恐怖が宿っている。
「そ、そんなはずは!! 俺は、俺は釣り名人だ!! ピラニア以外も釣れるはず!!」
山田が必死に何度も何度も投げる。
ピラニア。ピラニア。ピラニア。ピラニア。
全部ピラニア。
「うわああああん!!」
山田が膝をついた。釣り竿を地面に置き、両手で顔を覆う。その肩が小刻みに震えている。
「俺、ピラニアしか釣れない男だったのか...!!」
山田が絶望の声を上げた。その声には深い悲しみが込められていて、聞いている方まで胸が痛くなる。
「あ、いや、そういうつもりじゃ...!!」
富山が慌てて弁解しようとした。しかし、事実は事実だ。ピラニアしか釣れていない。
「俺の釣り人生って何だったんだ...!! 日本中の湖を巡って、海外にも行って、色んな魚を釣ってきたつもりだったのに...!!」
山田が天を仰いだ。その目からは、本当に涙が溢れていた。
「山田さん...」
石川が困った表情で山田の肩に手を置こうとした。
「いや!! 俺は諦めない!! ピラニア以外も絶対釣れるはずだ!!」
山田が突然立ち上がった。その目には、再び闘志の炎が燃えている。
「俺は...電気ウナギを釣る!!」
「電気ウナギ!?」
三人が同時に叫んだ。
「そうだ!! ピラニアがいるなら、電気ウナギもいるはずだ!! アマゾンの仲間だからな!!」
山田の理屈はめちゃくちゃだったが、その目は本気だった。
「電気ウナギの釣り方は特殊だ!! まず、餌は...」
山田が再びクーラーボックスを漁り始めた。その動きは必死で、まるで何かに取り憑かれたようだ。
「これだ!!」
山田が取り出したのは、ゴム手袋だった。
「ゴム手袋!?」
「電気ウナギは電気を発する!! だから、釣り上げる時は絶縁が必要だ!!」
山田がゴム手袋を両手にはめた。その姿は、まるでこれから手術をする医師のようだ。
「そして、電気ウナギは...あそこだ!!」
山田が湖の中央を指差した。
「遠い!!」
「遠くなければ電気ウナギはいない!!」
山田の理屈は相変わらずめちゃくちゃだが、その熱意だけは本物だ。
山田が全力で竿を振りかぶる。その動きは、まるで砲丸投げの選手のようだ。
「うおおおおお!!」
シュッ!! という音とともに、餌が信じられないほど遠くまで飛んでいく。湖の中央近くまで届いた。
「すげえ飛距離...!!」
千葉が驚きの声を上げた。
「電気ウナギは深いところにいる!! だから、しっかり沈めるんだ!!」
山田が糸を繰り出し続ける。リールがカラカラと音を立てる。
「来い...来い電気ウナギ...!!」
山田の額には汗が浮かんでいた。その表情は祈るようで、まるで神に願いを捧げる信者のようだ。
数秒後。
グググッ!!
「きた!!」
山田の竿が大きくしなった。しかし、さっきまでのピラニアとは明らかに違う引きだ。重い。とにかく重い。
「これは...!! これは電気ウナギだ!!」
山田が確信を持って叫んだ。
「マジで!?」
石川と千葉が身を乗り出す。
「ゴム手袋をしっかりはめろ!! 電気を食らうぞ!!」
山田が必死にリールを巻く。その顔は真剣そのもので、戦場の兵士のような気迫だ。
ズズズッ!!
何かが近づいてくる。水面下で、大きな影が蠢いている。
「見える!! 見えるぞ!!」
千葉が興奮で叫んだ。
ザバアアアッ!!
水面から飛び出したのは...
「ピ、ピラニア...」
でかいピラニアだった。さっきまでのピラニアの三倍はある、巨大なピラニア。
「...」
山田の動きが止まった。
「いや、電気ウナギじゃないじゃん...」
富山が呆れた声で呟いた。
「...ピラニアか」
山田の声には、深い絶望が滲んでいた。
「でも、デカいピラニアじゃないですか!! すごいですよ!!」
千葉が慰めるように言った。
「...いや、ピラニアはピラニアだ」
山田がガックリと肩を落とした。
「俺、やっぱりピラニアしか釣れない...」
「山田さん...」
石川が心配そうに見つめる。
「もう一回!! もう一回挑戦させてくれ!!」
山田が再び立ち上がった。その目には、まだ希望の光が残っている。
「電気ウナギは絶対いる!! 俺は諦めない!!」
山田が再び竿を振る。
グググッ!! ザバッ!! ピラニア。
「...」
グググッ!! ザバッ!! ピラニア。
「...」
グググッ!! ザバッ!! ピラニア。
「うわあああああん!!」
山田が叫んだ。その声は湖畔に響き渡り、遠くにいた他のキャンパーたちが不思議そうにこちらを見ている。
「ピラニアしか釣れないいいいい!!」
「山田さん、落ち着いて!!」
石川が必死に止めようとする。
「いや、待てよ...」
富山が顎に手を当てて考え込んだ。
「もしかして、山田さんがいるとピラニアが湧くんじゃないの?」
「「え?」」
全員が富山を見た。
「だって、明らかにおかしいじゃん。日本の湖にピラニアがいるはずないのに、山田さんが釣るとピラニアしか釣れない。つまり...」
富山が山田を指差した。
「山田さんが『ピラニアホイホイ』なんじゃないの?」
「ピラニアホイホイ!?」
山田が自分を指差して叫んだ。
「そうだよ!! 山田さんがいるところには、どこでもピラニアが集まってくるんだ!!」
千葉が目を輝かせた。
「それって...すごくね!?」
石川も興奮し始めた。
「すごい...か?」
山田が困惑した表情で自分の手を見つめた。
「めちゃくちゃすごいですよ!! だって、どこでもピラニアが釣れるんですよ!? これ、世界中の釣り人が羨む能力じゃないですか!!」
千葉が熱弁する。その目は本気だった。
「そ、そうか...?」
山田が自信なさげに首を傾げた。
「そうですよ!! 例えば、世界ピラニア釣り選手権とかあったら、山田さん絶対優勝じゃないですか!!」
石川が興奮で両手を広げた。
「世界ピラニア釣り選手権...そんなのあるのか?」
「知らないけど、あったら絶対優勝ですよ!!」
千葉が力強く頷いた。
「むしろ、山田さんのためにそういう大会を作るべきだ!!」
「作るべき!?」
山田の表情が少しずつ明るくなってきた。目に希望の光が戻り始めている。
「そうですよ!! 『ピラニアしか釣れない』んじゃなくて、『ピラニアを完璧に釣れる』んです!! 発想を転換しましょう!!」
石川が山田の肩をバンバン叩いた。
「発想の転換...!!」
山田の目がキラリと光った。
「そうだ!! 俺はピラニアマスターなんだ!! どこでもピラニアを召喚できる男なんだ!!」
山田が急に胸を張った。その姿勢は自信に満ち溢れていて、さっきまでの落ち込みが嘘のようだ。
「それだ!! その意気ですよ!!」
千葉が拍手をした。パチパチパチという音が響く。
「よし!! じゃあもう一回、俺のピラニア召喚術を見せてやる!!」
山田が勢いよく竿を持った。その動きはさっきまでと全く違う。自信に満ち、力強い。
シュッ!! グググッ!! ザバッ!!
ピラニア。
「来た!! 召喚成功!!」
山田が嬉しそうに叫んだ。もはやピラニアが釣れることを誇りに思っているようだ。
「すげえ!! さすがピラニアマスター!!」
石川が感動で拍手する。
「もう一回!!」
シュッ!! グググッ!! ザバッ!!
ピラニア。
「完璧だ!!」
千葉も一緒に喜んでいる。
「見たか!! これが俺の力だ!!」
山田が勝ち誇ったように笑った。その笑顔は清々しく、まるで悟りを開いた僧侶のようだ。
「...なんか、話おかしくなってない?」
富山が呆れた表情でボソッと呟いた。しかし、その声は三人の興奮に掻き消される。
「山田さん!! 記念に俺も召喚させてください!!」
石川が目を輝かせて竿を持った。
「おう!! やってみろ!!」
山田が胸を張って頷く。
石川が投げる。着水。数秒後。
グググッ!! ザバッ!!
「ピラニア召喚!! やったぜ!!」
石川が両手を上げて喜んだ。
「俺も俺も!!」
千葉が竿を持つ。
シュッ!! グググッ!! ザバッ!!
「ピラニア召喚成功!! 気持ちいい!!」
千葉が興奮で飛び跳ねている。
「ははは!! いいぞいいぞ!!」
山田が満足げに腕を組んだ。
三人が次々とピラニアを「召喚」し続ける。もはや釣りではなく、何か神秘的な儀式のようになっていた。
「ピラニア来い!!」
「召喚!!」
「出でよピラニア!!」
三人の掛け声が湖畔に響き渡る。そのたびに、確実にピラニアが釣れる。
気づけば、クーラーボックス三つ分がピラニアで埋め尽くされていた。ギザギザの歯がキラキラ光る、異様な光景だ。
「...で、このピラニアどうすんの?」
富山が冷静に尋ねた。
「「「え?」」」
三人が同時に固まった。
「だって、この量のピラニア、食べるの? それとも逃がすの?」
富山の指摘はもっともだった。ピラニアが数十匹。しかも、日本の湖にいるはずのないピラニア。
「そうだな...食うか」
山田が真面目な顔で言った。
「食べるんですか!?」
千葉が驚きの声を上げた。
「ああ。ピラニアは意外と美味いぞ。アマゾンでも普通に食用だ」
山田が当たり前のように答えた。
「マジで!?」
「ああ。白身で淡白な味だ。から揚げにすると最高だぞ」
山田の目が料理人のように輝いた。
「じゃあ、ピラニアパーティーだ!!」
石川が興奮で叫んだ。
「ピラニアパーティー!?」
「そうだよ!! せっかく釣ったんだから、みんなで食おうぜ!!」
石川が周りのキャンパーたちに向かって手を振った。
「おーい!! ピラニア食いませんかー!?」
「いや、急に誘うな!!」
富山が慌てて石川を止めようとした。しかし、既に周りのキャンパーたちが興味津々で集まってきていた。
「ピラニア? 本物?」
「マジでピラニアじゃん!!」
「すげえ!! 日本の湖でピラニアが釣れるのか!?」
キャンパーたちがクーラーボックスを覗き込んで驚きの声を上げる。
「そうなんですよ!! この山田さんがピラニアマスターなんです!!」
千葉が得意げに説明した。
「ピラニアマスター!?」
「どこでもピラニアを召喚できるんです!!」
「召喚!?」
周りのキャンパーたちが困惑した表情で顔を見合わせた。
「まあ、とにかく!! 今からピラニアをさばいて、から揚げにします!! みんなで食べましょう!!」
石川が勝手に宣言した。
「おおお!!」
周りのキャンパーたちが拍手をした。祭りのような雰囲気が漂い始めている。
「ちょ、ちょっと待って!! 勝手に決めないで!!」
富山が必死に止めようとするが、もう止まらない。
「よし!! じゃあ俺がさばき方を教えてやる!!」
山田が包丁を取り出した。その目は職人のように鋭い。
「ピラニアは歯が鋭いから、気をつけろよ」
山田が手際よくピラニアをさばき始めた。その技術は見事で、まるで寿司職人のようだ。包丁がスッスッと動き、あっという間にピラニアが三枚におろされていく。
「すげえ...!!」
周りのキャンパーたちが息を呑んで見つめている。
「ピラニアは骨が多いから、しっかり取り除かないとな」
山田が丁寧に骨を取り除いていく。その手つきは優しく、まるでピラニアへの敬意を払っているようだ。
「さあ、どんどんさばくぞ!!」
「おおお!!」
キャンパーたちが協力して、次々とピラニアをさばいていく。誰かが油を持ってきて、誰かが衣を作り始めた。完全に即席のピラニア料理大会になっていた。
ジュワアアア!!
油の音が響き渡る。ピラニアのから揚げが次々と揚げられていく。香ばしい匂いがキャンプ場に広がった。
「できたぞ!!」
山田が最初の一皿を持ち上げた。黄金色に輝くピラニアのから揚げ。見た目は完璧だ。
「うおおお!! 美味そう!!」
石川が目を輝かせた。
「じゃあ、いただきます!!」
石川が一つ掴んで、豪快にかぶりついた。
ザクッ!!
「...!!」
石川の目が見開かれた。
「うまい!! めちゃくちゃうまい!!」
石川が感動で涙を流し始めた。
「マジで!?」
千葉も食べる。
「うまああああい!! 白身でサクサクで最高!!」
千葉も感動している。
「だろ? ピラニアは美味いんだ」
山田が満足げに笑った。
「俺も食べてみよう」
周りのキャンパーたちも次々と手を伸ばす。
「うまい!!」
「これはいける!!」
「ビールに合う!!」
大絶賛の嵐だった。
「...まあ、確かに美味しいけど」
富山も一つ食べながら、複雑な表情をしていた。美味しいことは認めるが、状況がおかしすぎる。
気づけば、キャンプ場全体がピラニアパーティー会場になっていた。あちこちで笑い声が響き、ビールが開けられ、ピラニアのから揚げが次々と平らげられていく。
「これ、グレートなキャンプじゃね!?」
石川が満面の笑みで叫んだ。
「グレートだ!! 超グレート!!」
千葉も同意する。
「ピラニア釣りから始まって、ピラニアパーティーとは!! 最高のキャンプだ!!」
石川が空に向かって拳を突き上げた。
「ピラニアマスターの山田さん、ありがとうございます!!」
千葉が深々と頭を下げた。
「いやいや...」
山田が照れくさそうに頭をかいた。その顔には、満足そうな笑みが浮かんでいる。
「でも、結局電気ウナギは釣れなかったな」
山田がボソッと呟いた。
「そうだ!! 電気ウナギ!!」
石川がハッとした表情で立ち上がった。
「まだ諦めてなかったの!?」
富山が驚きの声を上げた。
「当たり前だ!! 電気ウナギを釣るまで、このキャンプは終わらない!!」
石川が拳を握りしめた。その目には、再び闘志の炎が燃えている。
「石川、お前...」
富山が呆れた表情で額に手を当てた。
「山田さん!! もう一回、電気ウナギ釣りに挑戦しましょう!!」
石川が山田に向かって叫んだ。
「...そうだな。釣り師として、電気ウナギを諦めるわけにはいかない」
山田が真剣な表情で頷いた。
「よし!! じゃあみんなで電気ウナギを釣るぞ!!」
「おおおお!!」
周りのキャンパーたちも、なぜか一緒に盛り上がっている。ピラニアのから揚げで気分が良くなっているのだろう。
「電気ウナギー!!」
「電気ウナギー!!」
謎のコールが始まった。
全員が湖畔に集まり、一斉に竿を投げる。その光景は壮観で、まるで何かの宗教儀式のようだ。
「電気ウナギよ、来たれ!!」
石川が大声で叫んだ。
数秒後。
グググッ!! グググッ!! グググッ!!
全員の竿が一斉にしなった。
「きたああああ!!」
全員が興奮で叫ぶ。
ザバッ!! ザバッ!! ザバッ!!
水面から次々と飛び出したのは...
「ピラニア...」
「ピラニア...」
「ピラニア...」
全部ピラニアだった。
「...」
沈黙が流れた。
「やっぱりピラニアしか釣れねえええええ!!」
全員が同時に叫んだ。その声は湖を越え、山に響き渡った。
「まあ、いいじゃないですか!! ピラニアも美味しいし!!」
千葉が前向きに言った。
「そうだな!! もっとピラニア釣って、もっと食おうぜ!!」
石川も同意する。
「ピラニアー!!」
「ピラニアー!!」
再び謎のコールが始まった。
こうして、史上最もカオスなピラニア釣りキャンプは、夜遅くまで続いたのだった。
翌朝。
「...結局、電気ウナギは釣れなかったな」
石川がテントの前で伸びをしながら呟いた。
「でも、楽しかったじゃん!! ピラニアパーティー最高だったし!!」
千葉が満足そうに笑った。
「...私、もう疲れた」
富山がぐったりと椅子に座っていた。目の下には隈ができていて、疲労困憊の様子だ。
「おはよう」
隣のサイトから山田が顔を出した。
「山田さん!! おはようございます!!」
石川が元気よく手を振った。
「昨日は楽しかったな。ピラニア釣りも極めた気がする」
山田が満足そうに笑った。
「そうですね!! また一緒に釣りしましょう!!」
「ああ。次は...デンキナマズに挑戦するか」
「デンキナマズ!?」
石川の目がキラリと光った。
「ちょ、待って!! またそういうの!?」
富山が慌てて立ち上がった。
「いいじゃないか!! グレートだろ!?」
「グレートかもしれないけど!!」
富山の叫びが、朝のキャンプ場に響き渡った。
こうして、石川たちの奇抜なキャンプは、今日も続いていくのだった。
クーラーボックスには、まだ大量のピラニアが残っていた。
『俺達のグレートなキャンプ184 釣り名人からピラニアの釣り方を教わろう!?』 海山純平 @umiyama117
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