占わない師律子、易者と出会う
一郎丸ゆう子
第1話 占わない師律子、易者と出会う。
私は占わない師、律子。昼は弁護士。毎夜ミナミの闇の中、悩みを抱えた奴を待つ。
占いに頼る輩が大嫌い。
占う奴らも大嫌い。
寄り添いたとか抜かしてる、ぬるい言葉が大嫌い。
それより素早く解決しやがれ、その悩み。
困ってるなら解決法、それを教えてやればいい。
法治国家のこの国よ。法で解決すればいい。
正義、平等、なんのこと? 利用するのよ、法ってやつを。
民法、刑法、判例、条例、お探ししましょう銭の素。六法全書は金なる木。
情にほだされ泣くよりも、金に換えなよ、その涙。お前の涙は金になる。
ただで流すの愚の骨頂。
今日も来た来た、お悩み相談。
「旦那が浮気してて、離婚したいんですけど、一人では娘を大学までやれません。どうしたらいいでしょう」
「離婚せずに別居して、養育費をもらってください」
「旦那の給料では無理でなんす」
「家と家にある金目のものを全部売って、財産折半して旦那さんと愛人に慰謝料と養育費を請求してください」
「賃貸なんです」
「じゃあ、家以外の売れるもの全部売って」
結婚指輪も思い出も、全部まとめてエコバッグ。永遠の切れない輪だってぶった斬れ。金に変えれば明日の飯。ありつけ、飛びつけ、食らいつけ。
「あとはそのお金で部屋を借りて、パートして、娘さんが大学に行くまでに弁護士の資格を取ってください」
「えっ、私高卒なんですけど」
「弁護士は学歴不問です」
「あなたは同じ悩みに寄り添える弁護士になれます」
使っちまった。嫌いな台詞。
金がないなら稼げばいいよ。この世の悩みはほぼ金絡み。金があったら解決するよ。
優しさなんて求めるな。悔しさ、虚しさ金に換え、苦しめた奴等嘲笑え。
そんな私がこの街で、一番出会っちゃいけない奴だった。
金曜の夜に現れる、今時筮竹揺らしてる、絶滅危惧種の易者だよ。お前の竹は何語る? 杖にするにはやわすぎて、涙を拭くには硬すぎて、都会の夜風は冷たくて、揺らすその手に刺さりはしない?
「寄り添えないなら、触れ合いましょう」
竹の跡あるその指を、触れさせたのが運の尽き。
「肌触れ合えば寄り添える」
指の温度が肌を這う、そんな夢夜の睦言か。
鬼も蛇も出るミナミにも、朝日は昇る。朝は来る。
やっぱり寄り添えない私。ただ、人肌が温かいことを覚えた夜だった。
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占わない師律子、易者と出会う 一郎丸ゆう子 @imanemui
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