旅芸人スキル<傀儡師>で雑用係の俺は勇者パーティーに追放され殺されたが、魂を鎧に移してユニークスキル<闇の傀儡師>を発現。闇の力で最強になったので、没落してるらしい勇者パーティーに断罪することにした

ざまぁ全力マン

1.勇者パーティー追放からの<闇の傀儡師>

「追放だ! クロワ!」


俺に向かって、勇者ザイーが叫んだ。


城の中に声が響き渡った。


「旅芸人スキルの、ゴミカス傀儡師くぐつしがぁっ!」


俺は、魔法で樹木に拘束されている。


ほとんど動けない。


「お得意の人形で反撃してみろよ!」


勇者ザイーは、俺を挑発する。


「旅芸人! 旅芸人! 旅芸人!」


俺のスキルは<傀儡師くぐつし>だ。


傀儡師くぐつしで冒険者をやっている者は少ない。


というより、俺くらいなものだろう。


「やっとお前を殺せる! ヒャッハ~!」


やはり城に入るべきじゃなかった。


と、今になって思う。



城に入ったとき、魔族の少女が出迎えた。


頭には、小さな角が生えている。


「我は魔王、いずれ世界を征服せいふくする!」


少女は高らかに宣言した。


「俺たちに攻撃の意図はない。どうか、話だけでも聞いてくれないだろうか?」


勇者ザイーは、低姿勢でお願いする。


いったい何を話すというのか。


冒険者は、魔族を討伐してはいけない。


戦争の火種となるからだ。


討伐対象は、原則として魔物のみ。


それが冒険者の国際的なルールだ。


「契約魔法で、全員の攻撃を禁じてくれ」


「良いぞ。我も戦おうとは思っておらぬ」


そう言って、少女は契約魔法を実行する。


フロアに魔方陣が形成された。


「これで誰も攻撃はできん。立ち話もなんじゃし、紅茶でも飲みながら喋るとしよう」


角の生えた頭を揺らして、少女が歩き出す。


俺は、少女の後ろをついて歩く。


「ズバッ! ザシュッ!」


背中に衝撃が走った。


「なっ……!?」


「ぐはっ……!?」


少女と俺は、勇者に斬りつけられていた。



今もなお、魔族の少女は倒れたまま。


背中から血を流して、気を失っている。


「情けない姿ですね、無能」


木を操る魔術師のネロが言った。


俺が木に拘束されているのも、ネロの魔法だ。


木の枝をムチのようにして、何度も俺を叩く。


「キモブスのくせに生意気なんだよ。バーカ」


回復術師ソアナが、俺の顔にツバを吐いた。


そして、手には特殊な魔鉱石を持っている。


「アイテムで、契約魔法を無効化したのか」


俺以外のメンバーは、全員持っていたのだ。


この状況はまずい。


俺は、契約魔法のせいで攻撃できない。


だがこいつらは、俺に攻撃できる。


「君は、このパーティーに相応しくない」


弓術士ルゥクが弓を構える。


近い距離から、俺に向かって矢を放つ。


俺の全身に、次々と矢が刺さった。


「これまでの感謝を込めて、思い切り殴るぜ」


拳闘士ローグが拳を握る。


その拳で、俺の腹にパンチする。


あばら骨が砕け、内臓がつぶれた。


俺は、こいつらの過去の発言を思い出す。



「あなたの魔法、頼りにしていますよ」


そう言って、魔術師のネロは微笑んだ。


「私は結構、あんたの顔好きだけど」


回復術師のソアナは、俺に抱き着いた。


「ミーたちには、君の力が必要なのさ」


肩に手を置く弓術士のルゥク。


「お前がいるから、安心して戦える」


背中をポンと叩く拳闘士のローグ。


「クロワ、俺たちは最高の親友だ」


俺を抱き寄せる剣術士の勇者ザイー。


あれは全部、嘘だったわけだ。



裏切られたのは分かった。


「なぜ俺を殺す?」


「途中から入ってきたくせに、ウゼェからだよ! 文句でもあんのか、あぁんッ!」


勇者ザイーは、俺の服のえりをつかむ。


「お前程度の雑用は、いくらでも雇える」


確かに俺は、多くの雑用をこなしてきた。


鎧を操り、料理から荷物持ちまでやった。


「ザンッ!」


勇者ザイーが、俺の鎧傀儡よろいくぐつを剣で切断した。


「お友達が壊れちまったなぁ、可哀そうに。お前らも遊んでやれ」


メンバー全員で、鎧傀儡よろいくぐつをさらに壊す。


どんどんバラされていく。


もう修復はできない状態となった。



鎧傀儡よろいくぐつは、父からもらった。


俺の11歳の誕生日だった。


「世界一の造形師から、天才傀儡師くぐつしへプレゼントだ。大事に使ってくれよ、クロワ」


父の言葉が、脳内で再生された。



父からもらった鎧傀儡よろいくぐつは2つ。


残るはあと1つだけ。


「もう飽きたわ。焼き殺そーっと」


ザイーは魔力を練る。


斬火ざんか灼熱しゃくねつはりつけ獄炎ごくえん……焔十字烈波ほむらじゅうじれっぱ!」


十字の炎が俺に迫ってくる。


動けない俺は、攻撃を受けるしかない。


そう覚悟したとき、目の前に少女が現れた。


血だらけの状態で、俺の前に立ち塞がった。


先ほどまで、気を失って倒れていたはず。


「どけっ、死ぬぞ!」


魔族の少女には、逃げる気配がない。


俺は、この少女の台詞を思い出していた。


契約魔法を始める前、彼女はこうつぶやいた。



「千年以上、我はこの城で1人じゃった。お主らが来てくれて嬉しいぞ」


無邪気で純粋な声だった。


ケーキを食べる前の子供のようだった。



少女は、ザイーの放った炎に包まれる。


「寝ていれば、楽に殺してやったものを」


「シュバッ!」


帝国の勇者は、魔族の首を斬った。


「これでまた、勇者としての格が上がる!」


首を失った少女の体は、立ったまま。


未だに両手を広げている。


死んでもなお、俺を守ろうとしている。


母の言葉が、フラッシュバックした。



「本当に信頼できるのは、自分のために体を張ってくれる人です」


母はいつも、丁寧な語り口だった。



俺を縛る木から、両腕を引きぬく。


鈍い音で、両手首から先がちぎれる。


ボロボロの腕で、首のない少女に手を伸ばす。


後ろから優しく抱きしめた。


「ありがとう」


勇者ザイーが、俺に近づいてくる。


「死ぬ前に教えといてやろう」


そう言って、少女の体を蹴とばした。


ザイーは、ポケットからタバコを取り出す。


スキルを使い、タバコの先に火をつけた。


「お前の両親を殺したのは、俺の親父だ」


俺の顔に向かって、タバコの煙を吹きかけた。


父と母は、俺が11歳の頃に姿を消した。


街に行ったきり、行方不明となっている。


「親子そろって、みじめだなぁ~」


ザイーは、俺のひたいにタバコを押し付けた。


針で刺されているかのように熱い。


俺は声を発さず、ザイーを見る。


やがてタバコの火は消えた。


「庶民が強がってんじゃねぇっ!」


ザイーは怒鳴って、剣をちらつかせる。


次の瞬間、剣で足首を斬られた。


俺の両足が、靴を履いたまま地面に落ちる。


足首から、大量の血が流れ出る。


「痛いか?」


ゆっくりと激痛が近づいてきた。


俺は、叫びたい衝動を抑える。


「痛いって言えよ! やせ我慢がぁっ!」


すね、ひざ下、ひざ上と斬られていく。


もう、あの魔法しかない。


どうせ死ぬなら、やってみよう。


俺は痛みに耐えながら、詠唱を始める。


彩初いろどりそめし影法師かげほうしみしあまつは傀儡くぐつの心、人にも魔にもあらねども、嗚呼美ああうつくしき、魂琴奏たまごとかなでし……」


初めて試す魔法だ。


上手くいくかは分からない。


「今さら何しても無駄無駄、魔力切れだろ」


ザイーの言う通りだった。


ほとんど魔力は残っていない。


城に来るまでに、かなりの魔力を消費した。


「最後のチャンスだ。せいぜい頑張れ」


笑いながら、ザイーは俺から離れる。


「早くしないと、今度はお前の首が飛ぶぞー」


父からもらった鎧の傀儡くぐつ


その最後の鎧に、俺の魂を移す。


九範くはんの囲いが、游移ゆういたわむれ……『霊魂転移れいこんてんい異体傀儡式いたいくぐつしき』」


胸の奥が痛む。


だが、何も起こらない。


「終わりかよ。最後までつまんねぇ野郎だな」


勇者ザイーが、俺の首元に剣を添える。


「死に腐れ、ゴミカス」


俺は、首のない少女の体を見た。


今も燃え続けている。


指が動いたように見えたが、気のせいだろう。


次に、床に転がる少女の顔を見た。


天使のような、無垢な表情をしている。


俺を庇ったことで、この魔族の少女は死んだ。


決して死ぬべきではなかった。


「申し訳ない……」


そうつぶやいた直後、視界が回転する。


俺は首をはねられた。


「っしゃあ! スキルレベル、マックス!」


勇者が飛び跳ねて喜ぶ。


メンバー同士でハイタッチしている。


こんなに屈辱的なのは、生まれて初めてだ。


ザイーは、少女の頭を魔道具の袋に入れる。


そして城に火をつけた。


「勇者ザイー様の活躍を、地獄から見てろ」


そう言い残して、奴らは去って行った。


次第に火は大きくなっていく。


意識がもうろうとしてくる。


「神よ、俺に復讐の機会を与えてくれ……」


と、つぶやいた時だった。


*―――――――――――――――――――*


お知らせ


ユニークスキル<やみ傀儡師くぐつし>を習得しました


*―――――――――――――――――――*


やみ傀儡師くぐつし……?


なんだっていい。


「あいつらを殺せるなら……」


復讐のためなら、悪魔にでもなる。


*―――――――――――――――――――*


闇より生まれた傀儡くぐつを操れます

黒い糸は、全てを切断するでしょう


*―――――――――――――――――――*


それだけ確認して、俺は意識を失った。

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