瀉篇
畦道 伊椀
第1話 夜の始まり
この日、この夜、
暗やみの内に見失ってしまった
この身を
朝までにいかに見つけようか。
私の宝のあり処を、
その宝を溶かしてしまった
当のこの夜自身に問い合わせねばならなかった。
光は無い。
事物の境は分からない。
生命の始めの火花も見出せそうにない。
言葉は立たず、うめきに崩れた。
理性がさし示すはずの普遍的秩序は、
今となっては布団に焦げついた人の姿と
変わらない。
しかしながら、
私には、
目玉焼きの焼き音からでも、
また朝を始められる
密かな計画があった。
たとえその朝が、
またこの夜と同じ始源の海に
ぶつかって
崩れさるへさきに終わるとしても。
ただ、
一輪の花が欲しかった頃を
思い出す。
胸ポケットをあでやかに
飾りつけてくれる
確固たるワンポイントが
欲しかった頃を
思い出す。
この夜の妨げから、
密かにかくまう、
今宵、
私と共に眠りの底に落ちていくだろう、
独り身の胸に抱きかかえる、
愛。
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