人生最後の一日
旅幸
第一話
「カチッ」
スイッチが鳴る。
「カチッ」
スイッチが鳴る。
「ガッ」
スイッチが動く。
「ゴン」
終わりを迎えるには早かったんじゃないか?
※※※†††††※※※※※※※※††††††††※※※※※
今いる僕たちがいなくなれば、地球はもう少しで滅亡を迎える。
人類が比較的資源を持っていた頃から積年の年月が経った。
技術も、使う人間も、用途もない資源が、今この地球上には残されている。
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**_地球に生存する人間__1人
「ゴホッ‥ンンッ」
僕の目の前には砂漠が広がる。
石油と鉄とレアメタルにあふれた、水の無い砂漠だ。
残された酸素は少ししかない。
仕方ない、マスクを被るか。
人類史は、ほかの生物に迷惑を掛けてきた歴史である。
もう確証は無いが、そう言った人間がいるらしい。
この情景を見れば、なぜそれが言われたのかは検討がつく。
有り得ないほどに多くの資源がここにはある。
けれど、もうここにしか無いのだ。
もはや僕たち人間には再起の機会は無い。
あと少しで、きっと僕も死ぬ。
もう少しだけ、あとちょっとだけで良かったから、早く生まれたかった。
物心ついたときから、もう何も遺されてはいなかった。
これも運命だったのかもしれない。いやそんなわけがない。
「ぐっ、ンッ」
地球が誕生し、いったいどれだけの時間が経っただろうか。
様々な生物が絶滅してきた。
しかし、僕たち人類はのろのろと動き回り最後の日に生きることを選んだ。
そうだ。
人類は最初から絶滅すると決まっていた。
ただ時間を少しでもと引き延ばしていたら、いつの間にかこんなにも生きてしまったというだけだ。
僕は、人生のほとんどを資源を集めることに費やした。
そうしなければ生きていけなかった。
でも生きる意味などなかった。
毎日生きるために生きることほど、平坦なことはない。
豊かだった時代の人は、この状況を見れば後悔するのだろうか。
祖先はたまたま運良く生き残れただけの弱い人間だ。
戦いに明け暮れた国や環境を守ろうとした国、資源をたくさん持っていた国は皆消えていき、残された僅かな資源に釣り合う程度の人口と貧しさのおかげで運良く地球最後の国に選ばれた。
だがその資源も足りなくなってしまった。
そうして僕らに残されたのは「死」だった。
あいにく逃げ出したから、安らかには逝けないんだけどな。
「はぁ」
いささかでも動いて、生きた意味を残すんだ。
それが最後の締だろう。
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**__現在地球上に知的生命体は人間のみ
とぼとぼと歩き続ける。
砂漠に積み上がる大量の資源は、自分を生かすには意味がない。
食料や水はとうの昔に消えた。
ドーム状に形作られた町は祖先が集めた
思い出や歴史は無駄なだけだと壊されたが、まだあるのだろうか。
近くを歩き回りながら息をしていると、足が堅いものに当たった。
なんだろう、もろい。
近くにそのまま置かれた人骨が見えた。
ここか、旅の出発地は。
墓が作れず放置したんだった。
あとちょっとばかし過ぎればこんなふうに、なれる。
僕は、置いていった。死にたくなかったから。
でも今は。
こんな事なら、愛などなければ良かったのに。
哀しくなることが滑稽に感じてしまう。
死んだらどこに行くんだろう。
天国だとするならば、どうか資源は満ち足りていてほしい。
娯楽なんてものがあれば嬉しいな。
ああ、それよりも不条理が無いように。
最後に何か食べたのはいつだっけな。
お腹が空いた。
「ギュル」
不恰好な音が周りに響く。
僕はずっと握りしめていたひとかけらの水を呑み込んだ。
おいしい。
最後に旅ができたこと、後悔はしていない。
一人も会えなかったけれど、人類の歴史を見届けることはできた。
マスクに血反吐が飛ぶ。
息ができなくなって、慌てて頭に手を回し空気を吸った。。
「ん……」
美しい空気を吸う。
はあ、生まれてきてよかった。
※※※※※※††††※※※※※※†††††††††††††※※※※※※※※※
**_地球に生存する人間__0人
・・・---・・・
『ハジマリデス!』
一斉に飛び出していく数多の宇宙船。
覆われていく地球を見て人間は何を思うのだろうか。
死者の恨み言は、届きはしないが。
文句を言われたとしたらこう話すだろう。
ーカエリヲマツヒトガイルノデネ。
人生最後の一日 旅幸 @platit
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