最愛
暦海
第1話 手紙
「……そろそろお休みになってはいかがでしょう、お嬢さま。もう、すっかり夜も更けていることですし」
「ええ、そうね。でも、もう少しだけ」
皓々と月の輝く、ある宵の頃。
縁側にて、控えめにそう問い掛ける。すると、柔らかな微笑で答えるあどけなくも妖麗な女性。彼女は
「……畏まりました、お嬢さま。ですが、お身体に障らぬよう、あまり遅くならないうちに」
「……ええ、ありがとう
その後、そう言い残し場を後にするわたし。うっとりと月を眺めるその横顔からも、心中はお尋ねするまでもなく。きっと、あの
『……あの、いつもありがとうございます、
『いえ、君乃さま。私がそうしたくてしているだけですので、どうぞお気になさらず』
三年ほど前の、ある昼下がりのこと。
縁側にて、優しい微笑でそう口にする秀麗な男性。彼は唯月さま――当時
彼は、いつも優しかった。この
『……君乃さま?』
すると、ちょこんと首を傾げ尋ねる唯月さま。理由は明白――私が、彼の裾をぎゅっと掴みじっとその綺麗な
『……いえ、申し訳ありません』
『あ、いえ……』
そう言って、そっと裾を離す。そして、そっと自身の胸へと手を添える。……うん、分かってる。言えるはずなんてないことくらい。
「――お嬢さま、唯月さまからお手紙です」
「ふふっ、ありがとう君乃。そろそろ届く頃だと思っていたわ」
冴え冴えと月の輝く、ある宵の頃。
明るく灯るランプの傍にてそうお伝えすると、柔らかく微笑み謝意を告げるお嬢さま。今お渡ししたのは、唯月さま――彼女の婚約者たるあの
もちろん、部外者たる私がその
「……あぁ、唯月。本当に……本当に愛おしい」
そう、うっとりと口にするお嬢さま。これが、いつもの光景――唯月さまのお手紙を読む間、いつもこの上もなく幸せな表情を浮かべていて。そして、そんな彼女を眺めながら思う――せめて、この光景がずっと続いてほしいと。
「――ねえ、君乃。実際のところ、昨今の状況はいかがなのかしら?」
それから、数日経た宵の頃。
「……はい、お嬢さま。実際のところ、状況は芳しくないようです。きっと、そう遠くない内に終戦を迎えるものかと」
「……そう。まあ、大方察してはいたけれど」
そう伝えると、
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